
つくば市が取り組むAGRISTのAI収穫ロボット実証
科学の街が取り組む農業DXの実証
-AgriTech- 茨城県つくば市
少子高齢化が進む中、特に担い手の高齢化が深刻なのが農業だ。高齢化による人手不足を解消するために求められているのがITの活用であり、茨城県つくば市では現在、AIを活用した農業ロボットの実証実験を進め、農業のDXに取り組んでいる。
担い手不足を解消するテクノロジー
茨城県南地域に位置するつくば市は、筑波研究学園都市としてもその名前が知られている科学の街だ。2011年12月にはつくば市全域が「国際戦略総合特区」に指定されており、最先端の研究開発プロジェクトの推進に取り組んでいる。
そうした中で2019年4月15日からスタートしたのが、「つくば市未来共創プロジェクト」だ。つくば市に先端技術や近未来技術の実証実験等の提案を、年間を通してワンストップで受け付ける窓口を開設し、実証実験のフィールド提供や広報支援、施設・モニターのあっせんなどのサポートを実施する。教育機関や企業、研究機関が対象となっており、つくば市での審査に通過すると、つくば市役所の関連部署における支援のもと実証実験をスタートできる。
そのプロジェクトの中で採択された農業ITの取り組みがある。少子高齢化に伴う農業の担い手不足の課題をつくば市も抱えており、そうした社会課題をテクノロジーで解決することが求められていた。例えば農業ロボットを活用した収穫作業の効率化や、衛星の画像を使った農地把握だ。
その農業ロボットのプロジェクトとして採択されたのが、AGRIST(以下、アグリスト)の「AIを活用した農業ロボットの社会実装を目指す共創プロジェクト」だ。つくば市内のきゅうり農家・ピーマン農家のハウスで農業ロボットを活用し、その開発運用の連携協力を行う。
手作業が必要な収穫をロボットが代行
つくば市 政策イノベーション部 科学技術振興課 スタートアップ推進室 永井将大氏は「農業の担い手の高齢化が進む中、特に手作業が必要になる収穫作業は大きな負担です。それを解決するテクノロジーとして、アグリストの農業ロボットは大きな効果があると考えました。つくば市は東京などの大都市と異なり、道幅が広く農地や公道を使った実証が行いやすい場所です。今回のプロジェクトの成果に応じて、市内の農家への横展開を進めていくことも検討しています」と語る。
アグリストとの連携協力は2020年4月からスタートしている。すでに筑波大学のロボット工学の専門家をアグリストに紹介し、農業ロボットの研究開発を進める上でのアドバイスやサポートなどを進めているという。
「実際に農業ロボットを活用した収穫作業は、新型コロナウイルスの影響もあり実施されていません。しかし、収穫から出荷までの一連の作業を行うために、早朝3時に起床したり、その時期だけアルバイトを雇ったりなど、大きな負担となっている収穫作業をロボットが自動化してくれることは大きな魅力です」と永井氏。
つくば市では今後、それぞれの農家とアグリストの間で、使いやすいようディスカッションを進めてよりよい農業ロボットの開発に取り組めるようサポートを継続していく。
夜間に収穫作業を完了させる吊り下げ式AI収穫ロボット
-AgriTech- AGRIST
AGRIST(以下、アグリスト)が開発するAI収穫ロボットはワイヤーで移動する吊り下げ式だ。農家の声から生まれたそのロボットについて、アグリストの齋藤氏に話を聞いた。
収穫や病害虫の発見を可能に
少子高齢化が進む日本の中でも、特にその影響が深刻なのが農業だ。農林水産省の調査によると、日本の農業を支える基幹的農業従事者の平均年齢は67歳。今後も昭和一桁世代のリタイアや、若い人材の他業種との獲得競争の激化によって、農業の担い手は大幅に減少すると見込まれている。
そうした日本の農業が抱える社会課題に対して、テクノロジーによる解決を提案しているのがアグリストだ。同社ではAIを活用した自動収穫ロボットを開発し、日本の農業の課題解決につなげている。
アグリストが開発しているAI収穫ロボットは、ビニールハウスの天井部からワイヤーで吊り下げて移動する。位置情報を把握してワイヤー移動するため、地面を自走する一般的な農業ロボットと比較して、導線を整備するコストがかからないのがポイントだ。また、ビニールハウス内の位置を把握できるので、育てている農作物の各種データ把握や、カメラ情報から病害虫の早期発見も可能になる。
「蓄積した画像データから、普段と葉の様子が違うなどの異常を検知するとスマートフォンに通知されるようになっています」と語るのは、アグリストの代表取締役 兼 最高経営責任者を務める齋藤潤一氏。この画像データの蓄積が、収穫期の農作物を識別し、自動収穫を実現している。
吊り下げ式をゼロベースで開発
現在AI収穫ロボットの収穫に対応している農作物は、ピーマンときゅうりだ。ピーマンは葉の色と形状が似た作物のため、画像認識による識別がしにくい。そのため、他社の自動収穫ロボットはピーマンの収穫対応を避けていたという。
齋藤氏は「当社のAI収穫ロボットの一番のポイントは、アグリストの本社所在地である宮崎県児湯郡新富町の若手農家の方と一緒に開発を進めていることです。ピーマンの自動収穫も、農家の方の話を聞くとL玉というサイズの大きいものだけを収穫できればよいのだそうです。収穫期のピーマンを全て識別して収穫するとなると、かなり大変になりますが、サイズを基準に自動収穫できるようにしたことがキーポイントになりました」と語る。
吊り下げ式というアイデアも、地元農家との会話によって生まれたものだ。従来の地面を自走する方式の収穫ロボットは、圃場が平らでないためロボットが転倒してしまったり、圃場にある機械や装置が邪魔になって移動できなかったりする可能性があることや、従来のロボットアーム型の収穫機は価格も高く、保守管理も大変になるのではないかという指摘があった。そこから生まれたのが、吊り下げ式のロボットだったのだ。齋藤氏は「吊り下げ式のロボットは前例がなく、それだけに開発の苦労がありましたが、ゼロベースで作り上げたことで、他社との競争優位性が得られたと自負しています」と語る。2020年1月には「ハウス等で使用し、野菜等を自動で収穫できる吊り下げ式のロボット」としてPCT国際特許出願を行っている。
自動洗濯機のように収穫が完了
自動収穫によって、農家の作業負担はどれだけ低減されるのだろうか。AIによって必要な作物だけを収穫できることで、農家は夜間にAI収穫ロボットを起動させておけば、朝には収穫が終わっているという自動洗濯機のような活用が可能になるという。「農作業の中で一番大変なのが収穫です。農家の方は早朝に起きて収穫して出荷作業を行いますが、そこをAI収穫ロボットで自動化し収穫量を増やすことができれば、農家の方は病害虫の対策や独自ブランドの創出など、ほかのことにチャレンジできます」と齋藤氏は指摘する。
新富町では地元農家、行政、起業家らがタッグを組み、ロボットやAIなど先進技術やサービスを開発するスマート農業の拠点「新富アグリバレー」を2019年11月に開設しており、ITを活用した農業の取り組みに力を入れている。アグリストも新富アグリバレー内に拠点を置き、目の前にビニールハウスや農場がある環境の中で、AI収穫ロボットの開発や改修を進めている。
「新富町は人口約1万7,000人ほどの小さな町ですが、当社はここで100人のエンジニアを雇用し、日本のシリコンバレーにしていきたいと考えています。私はもともと米国シリコンバレーのITベンチャーに勤務しており、その空気感と新富町は通じるものがあります。この場所から日本国内はもちろん、世界に向けて、AI収穫ロボットを展開していきます」と齋藤氏。新富町からスタートしたAI収穫ロボットの活用は、現在農林水産省のスマート農業実証プロジェクトに採択され、宮崎県全体でAI収穫ロボットの社会実装を目指す取り組みも進められている。
また、宮崎県以外の全国各地の自治体やJAグループと連携し、各地域の育成方法や気候特性に対応したロボットの開発も進めている。例えば茨城県つくば市の「つくば市未来共創プロジェクト」や、大分県の「大分県IoT推進ラボ認定プロジェクト」などにおいてAI収穫ロボットの実証実験を行い、アグリテックの社会実装を目指している。
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