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リクルートワークス研究所 主任研究員 中村天江氏が働き方改革の本質を語る

リクルートワークス研究所 主任研究員 中村天江氏が働き方改革の本質を語る

2020年08月04日更新

本当の働き方改革

昨年から法整備もされた働き方改革は、新型コロナウイルスの拡大をきっかけに、取り組みが加速していきそうだ。これから求められる従業員と会社の関係性、そして新しい働き方とその実現をサポートするソリューションの在り方について、識者に見解を聞いた。

従業員と会社の関係を変える

リクルートワークス研究所 主任研究員 中村天江 氏

東京大学大学院数理科学研究科修士課程修了後、1999年リクルート入社。就職・転職・キャリア形成支援のサービス立ち上げや企画を経て、2009年、リクルートワークス研究所に異動。専門は人的資源管理論。

中村氏 労働市場の高度化をテーマに、調査や研究、政策提言などを行ってきました。働き方改革については、新型コロナウイルスの影響で事態が一変し、第2ステージに突入した感があります。テレワークのような環境整備が一気に加速した半面、同一労働同一賃金の実施で賃金を引き上げたかったのだけど、労働時間が減少していて従業員の収入が減ってしまっているような状況も出てきています。

 2008年をピークに国内の総人口は減少に転じました。労働者数の絶対数が減るわけであり、従来通りの量の仕事を従来よりも少ない人数で継続しようとするならば、働き方のアップデートは不可欠です。こうした中で、政府を中心に働き方改革が進められてきました。実際に働き方改革関連法が昨年施行され、年次有給休暇の時季指定や時間外労働の上限規制などが課されました。そして今年からは同一労働同一賃金が導入されています(同一労働同一賃金は、大企業は2020年4月1日から、中小企業は2021年4月1日から施行)。

 2015年当時にリクルートマネジメントソリューションズが企業の人事部門に対して、今後10年で何をしなければならないかを聞いた調査でも、「多様な働き方」の実現が圧倒的多数でした。働き方を変えていくことが不可欠であるという認識がすでに持たれていたのです。ただし、企業規模によって対応力には差が出ます。大規模な企業と比較して経営の体力が少なめの中小規模企業では、着手できていないケースも多いようです。そうした中小規模の企業にとって人材不足は深刻であり、対応にはかなり苦労されています。

 苦労されている理由の一つとして挙げられるのは、離職率が高いまま新規の人材採用をしがちな点があります。離職率が高い、つまり従業員が辞めたがる会社にはいい人材は入ってきません。人材採用はすでに人事だけではなく経営全体の課題であり、経営の中でも最優先事項と見なせます。そうした視点から人材不足が顕著な中小規模の企業が着手すべきなのは、今在籍している従業員を大事にすることです。より働きやすい環境、より活躍できる環境を整備して従業員が働きやすく居心地の良い状態を作り出せれば、生産性が高まると同時に離職率はおのずと下がります。そしてそれは、人材不足の解消につながるはずです。従業員が辞めない会社には、新規の人材も入りやすくなるでしょう。


「中小規模の企業にとって最優先で着手すべきは在籍している従業員を大事にすること。」


 そうした視点においても、テレワークの導入は重要です。働き方の選択肢を増やせるからです。これから問われるのは、テレワークを根付かせられるかどうかです。そこが大きな分水嶺になります。国土交通省のデータによると、2010年のテレワーク人口は320万人で、東日本大震災後の2012年に930万人にまで増加し、2014年には550万人になりました。全てが根付くわけではないのですが、ショックが働き方を大きく変える可能性があることをこの数字は示しています。今回の新型コロナウイルスの影響による半ば強制的なテレワークにおいては、会社の意思決定に関わる上層部の人間も一様にテレワークになったことが大きな意味を持っており、テレワークが継続的に根付く可能性は大いにあります。

 テレワーク環境の整備においては、仕事とプライベートの境界を明確にしてワークライフバランスを確保できるようにすべきですね。また、出社して他の従業員と顔を合わせることができないことによる孤独感のケアも必要です。

 特に組織に新しく入ってきた人材にとっては、他の従業員との関係性を構築する上でテレワーク環境はハードルが高くなります。すでに関係性が構築できている従業員同士ならば比較的スムーズにテレワークは実現できますが、新入社員など他の従業員との関係構築が実際に会ってできていない人については、関係性を構築できる仕組みを考慮してテレワークを整備すべきでしょう。

 テレワークの導入はオフィスの見直しという視点も含まれます。従業員がどこでも仕事ができる環境が整えば、全従業員分のスペースをオフィスに確保する必要がなくなります。2015年に「2025年の働き方」について提言した際も、すでにテレワークの導入などの想定でオフィスを減らして、シェアオフィスを活用していく可能性などについて検討していました。今後は、こうした検討や実際の取り組みがステップアップしていくでしょう。

 現在は、働く意味を改めて考えてみる良いタイミングとも言えます。企業にとっては従業員との関係を見直す契機です。リクルートワークス研究所では、従業員と企業との関係性について、日本、米国、フランス、デンマーク、中国で「5カ国リレーション調査」※を昨年12月から今年1月にかけて実施しました。同調査では、現在の働き方に対する満足度として「仕事内容」「給与」「仕事の人間関係」「ワークライフバランス」「会社」の全ての項目で日本は突出して低いことが明らかになりました。5点満点で他の国は4点前後に対して日本は3点前後に集中したのです。

 こうした結果は、会社に対して従業員が労働条件の交渉ができていない点にも大きな原因があると考えられます。日本の労働者が入社時に会社と交渉するものとしては、賃金や仕事内容、勤務時間などが主で、その他の内容についてはほとんど交渉されていません。他国ではオフィスの環境やチームのメンバー、休暇の取得、役職、入社後のキャリアパスなど多様な内容が交渉されています。これは、日本にそもそもそうした交渉をする文化がないのが原因です。従業員がいきいきと働ける環境を提供するためには、従業員が希望の働き方を交渉できる環境、上司と部下がそうした事柄について話しやすくなるような環境を企業側が用意していくべきでしょう。

 直近では、まずはテレワークをどれだけ根付かせられるか、また、テレワークという環境を従業員に継続的に提示できるかどうかが、選ばれる会社と選ばれない会社の分岐点になると考えています。企業としてはテレワークを実際の業務の中に組み入れて、適切にマネジメントできる仕組みを構築していく必要があります。


「従業員がいきいきと働ける環境にするには希望の働き方を交渉できる環境を企業側が用意していくべきでしょう。」


 これまで日本の社会では、従業員と会社のあいだで交換される労働力と報酬(金銭的、環境的、関係的)の関係にひずみがありました。今は、そのひずみを是正するいいタイミングであり、従業員と会社の関係を再定義してちょうどいい働き方を実現するチャンスです。

 リクルートワークス研究所では、多様なつながりを尊重して関係性の質を重視する社会を「マルチリレーション社会」と定義していますが、従業員と会社の関係性を見直して、マルチリレーション社会を実現させていくことが、これからの日本には必要ですね。


※日本、米国、フランス、デンマーク、中国で民間企業に雇用されて働く、最終学歴が大卒以上の30代、40代を対象としたオンライン調査。調査期間は2019年12月~2020年1月。有効回答数は、日本621名、米国624名、フランス624名、デンマーク165名、中国629名の合計2,663名。

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