
北海道神恵内村で取り組むFishtech養殖管理を活用したウニ・ナマコの陸上養殖
おいしいウニの通年出荷を実現する陸上養殖IoT活用
-FoodTech- 北海道神恵内村
農業ICTのAgritechに代表される、食(Food)と技術(Tech)を掛け合わせたFoodTech。このFoodTechの波が、現在漁業にも訪れている。IoTによる養殖管理が実現するその未来が、北海道の積丹半島に位置する神恵内村にあった。
人口減少の村でIoT活用の陸上養殖
北海道古宇郡神恵内(かもえない)村は積丹半島に位置する人口840人ほど(取材当時)の小さな村だ。村名はアイヌ語の「カムイ・ナイ」(美しい神の沢)が由来とされている。明治から大正にかけてニシン漁を中心とした漁業で栄えており、一時期全国1位の水揚げ量を誇った。しかし、地球温暖化や密漁、乱獲などの影響により漁業資源が減少。神恵内村の漁業は衰退の一途をたどっていた。
そこで神恵内村が起死回生の道を見いだしたのがウニとナマコの養殖だ。神恵内村役場 企画振興課 課長の高田 徹氏は「神恵内村をはじめとした積丹半島はウニの産地です。しかし、神恵内村のウニの漁期は短く6月半ばから8月の2カ月しかありません。このウニを1年中安定して供給できる体制を養殖することで、神恵内村の特産品にしたいと考えました」と語る。そこで、富士通が開発した養殖管理システム「Fishtech養殖管理」を活用したウニとナマコの陸上養殖実証実験を2019年4月からスタートした。
富士通とともにIoTを活用したウニ・ナマコの効率的な陸上養殖手法を検証している沿海調査エンジニアリング 代表取締役社長 大塚英治氏は「弊社では海洋調査などの事業を手がけており、各種センサーの提供や運用などを担当しています。現在は、神恵内村職員とともに、アワビの種苗育成施設を活用して実証実験に取り組んでいます」と語る。
均一な環境がブランド化を実現
Fishtech養殖管理は水温・水質を計測するセンサーや、水中カメラを用いたIoTシステム。場所を選ばず水槽の様子が把握でき、養殖する生き物ごとに適した水温を保てるほか、作業実績は全てクラウド上に保存されるため、育成ノウハウも蓄積される。
大塚氏は「Fishtech養殖管理を利用したことで養殖の生産性向上、業務の省力化が実現できました。また、ウニの品質は実際に割ってみないと分からないのですが、生産管理を一定化すると同じ品質のウニが養殖できる可能性があります。確立されたロジックのもとに安定した価格で高い品質のウニが提供できれば、新たな市場の開拓が可能になります」と指摘する。
2019年には地域特産品の新ブランドとして冬でもおいしい「冬うに」を136kg出荷し、約500万円を売り上げたほか、20社の高級店や300人の都市部個人顧客との取引が発生するなど、新たな商流も生まれている。
現在神恵内村で利用しているFishtech養殖管理はプロトタイプ製品であり、2020年には商用版を導入して本格稼働を進めていく。
神恵内村では、Fishtech養殖管理を軸に陸上養殖商用化による年商5億円規模の新産業ロードマップを策定。今後もウニ、ナマコの養殖産業で、ICTを活用した新たなビジネスを切り拓いていく。
水産養殖の新しいスタンダードを導く“Fishtech養殖管理”
-FoodTech- 富士通「Fishtech 養殖管理」
富士通が、神恵内村と沿海調査エンジニアリングとの実証研究を通して開発を進めている「Fishtech養殖管理」。2020年度に商用版の提供がスタートする本製品の魅力を通して、水産業への想いを富士通に聞いた。
2027年度までに水産をデジタル化
「現在の水産業は、後継者不足や収入の不安定さなど、持続可能な仕組みになっていないという大きな課題があります。加えて、ICTを活用する文化がない、ICTに投資する力がないため、その課題解決に至っていないのが現状です」と指摘するのは、富士通の公共・地域営業グループ ビジネスクリエーション統括部 政策連動ビジネス推進部 マネージャー 小葉松知行氏。
水産庁では、そうした水産業の課題解決を目指し、「スマート水産業の推進に向けたロードマップ」を策定。2027年度までに全国の全ての水産現場をデジタル化し、関係者がデータを利活用しながら効率的・効果的な操業の実践を目指している。
富士通は、そのスマート水産業を推進する「水産業の明日を拓くスマート水産業研究会」の漁業・養殖業ワーキンググループに参画している。
富士通 公共・地域営業グループ ビジネスクリエーション統括部 政策連動ビジネス推進部 武野竜也氏は「当社では水産業の川上から川下までICTテクノロジーでつなぐ『FUJITSU Fishtech』の実現を目指しています。水産業の養殖から漁業、加工流通、小売までをトータルサポートしていきたいと考えており、『Fishtech養殖管理』はそのファーストステップとして製品開発を進めました」と語る。
勘と経験の運用をセンサーが変える
Fishtech養殖管理は水産養殖の新しいスタンダードとして開発された養殖管理システムだ。養殖水槽に水温や水質を測るセンサーと水中カメラを設置して、そのデータの収集、蓄積、分析などをクラウドサービス上で実施する。場所を選ばず水槽の状況が把握でき、養殖する生き物ごとに適した水質を保てるため、複数種を同じ水槽で管理※することも可能だ。
武野氏は「陸上養殖は水質の管理が煩雑で、負担が非常に大きいのが課題です。現場に行ってどれくらい水を抜いたか、水がどれくらい濁っているかといったミクロな管理を、これまでは勘と経験で運用していました」と指摘。Fishtech養殖管理のセンサーを活用すれば、水質の変化をリアルタイムに把握でき、勘と経験による養殖から脱却できる。
例えば、水温センサーに5~25度の閾値を設定しておけば、その温度から逸脱した水槽が発生したときに管理者にアラートを飛ばせる。水中カメラでは魚の状況をリアルタイムに把握できるため、異常行動をいち早く把握できる。常に水槽を監視しなくても、センサーや水中カメラがそれらを代行するため、管理負担が大幅に軽減できる。また水質のデータを時系列で追える「高精度トレーサビリティ」も搭載しており、水槽環境の変化を把握できる。
現地作業者が入力した養殖管理業務データもクラウド上に保存されるため、育成ノウハウも蓄積される。前述したような抜いた水の量や給餌記録などがタブレットから入力でき、管理がしやすくなる。従来は作業員が現地でメモに記録し、事務所でExcelに入力して報告資料を書くという三重の手間となっていた養殖業務の負担を大きく削減できる。
これらの機能により季節を問わない安定出荷や作業効率化、雇用拡大、ブランド化などの価値創出が見込めるほか、神恵内村における実証では廃棄野菜使用によるフードロス削減やロードマップの策定など、副次的な効果も得られたという。
※特許出願中
生産データに基づくブランド化
「神恵内村の冬うにのように、養殖によって通年出荷ブランドの確立も実現できます。また、Fishtech養殖管理に蓄積されたデータをもとに、生産プロセスが見える化すれば、販売者の販売ツールとしても活用できます。『このウニはこういった時系列で生産された健康なウニなんです』と“安心”“安全”というブランドも、将来的には確立できるでしょう」と語る小葉松氏。
現在、神恵内村でのウニ、ナマコ養殖のほか、九州地方でサーモンの養殖にも実証実験で活用されているFishtech養殖管理。これらの実証実験先は、今年度提供を開始するFishtech養殖管理商用版への切り替えを進めていくという。「今年度は、ビジネスフェーズでの養殖管理に移行していきます」と武野氏は意気込む。
Fishtech養殖管理は現在、導入先からのカスタマイズ要望に応じながら機能追加に対応しているが、将来的にはSaaS化し提供することを目指している。「陸上養殖は規模や使う人数など、要件が1件1件異なります。そのため汎用的なSaaSの商品化が現在のところ難しく、個別構築で対応しています。SaaSであれば導入コストが低減できるため、今後の価格課題解消にもつなげられるでしょう。日本の水産業にふさわしいICTの形で、日本の胃袋を守っていきたいですね」と小葉松氏は語った。
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