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能力のネットワーク「IoA」の概念を提唱者:暦本純一氏に聞いた

能力のネットワーク「IoA」の概念を提唱者:暦本純一氏に聞いた

2020年06月10日更新

Special Feature 2
Internet of Abilities
ヒトの可能性を拡張するIoA

「Internet of Abilities」(IoA)。モノのインターネットである「Internet of Things」(IoT)からさらに発展した「能力のネットワーク」を意味する概念だ。人がインターネットを通してデバイスとつながることで、人の能力が拡張される。IoAによって実現できる未来を見ていこう。

人の意識や能力を“拡張”するIoAとは何か?

あらゆるモノがインターネットにつながるIoTのさらに先にある未来——IoA。人の能力がインターネットにつながることを示すIoAとはなにか、提唱者であり研究の第一人者である暦本純一教授に話を聞いた。

ドローンにジャックインし空を飛ぶ

東京大学大学院情報学環教授
暦本純一 氏

暦本氏_IoAは、ネットワークを介して、人間がテクノロジーとサイボーグのように融合し、人類の意識や能力を拡張する未来基盤です。モノのインターネットと訳されるIoTからさらに発展した“能力のネットワーク”になります。

例えば、人がウェアラブル装置を装着してドローンに“ジャックイン”※し、ドローンの視点から景色を見られれば、実際に空を飛んでいるような“体験の拡張”が可能になります。また、高齢者や体の不自由な人が、遠方のロボットへ“ジャックイン”すれば、移動という制約をなくして自由に遠方の人と会える“存在の拡張”が実現できます。
※ジャックイン:人間がほかの人間やロボットに入り込み、人やロボットの感覚・体験へ没入すること。

IoAを実現するために必要なのは、カメラが搭載されたデバイス(ドローンやロボット、ウェアラブルデバイスなど)に加えて、ネットワーク環境が重要になります。遠隔に画像を伝送するため、5Gのような高速大容量なネットワーク環境であれば、よりリアルな体験が実現できるでしょう。

IoAの提唱者でインタラクションヒューマンオーグメンテーション研究の第一人者。暦本研究室では、ドローンと人が一体化する「フライングヘッド」の研究や、水中VR体験など、人間や人工物がそれぞれの能力を時間・空間の制約を超えて活用するIoAにまつわる研究に取り組んでいる。

時間を超えて技能を継承

IoAは、“人と人がつながる”方式と、“人とロボットがつながる”方式があります。研究の中で、人から人へジャックインする際に使用するデバイスとして、複数のカメラを搭載し360度の風景を撮影できるウェアラブルデバイス「ジャックイン・ヘッド」を開発しています。これは装着者が前を向いていてもジャックインした人が仮想的に横を向いたり、同じ空間を共有したりすることが可能です。これにより、前述したような遠隔からの作業指示や、遠隔にいる人と一緒に旅行をするというような新たなコミュニケーションが実現できるのです。

人からロボットへジャックインする場合は、ドローンや自走式車両、テレプレゼンスロボットなどさまざまなデバイスが考えられます。特に重要なのが“移動できる”デバイスであることで、例えば新型コロナウイルスのような感染症によるパンデミックで、オフィスに直接出社できない場合でも、移動できるロボットであれば自宅からロボットにジャックインして、サーバーなどの機器がきちんと動作しているかを確認するようなことが可能になります。

すでに人間やロボットにジャックインするIoAは実用化が進んでいます。ネットワークが発達したことで、人間の技能(能力)をデータ化してアーカイブし、それをダウンロードするように技術継承する「オープンアビリティ」というIoAも、近い将来実現すると考えています。

“場の体験”を再現するIoA
仮想テレポーテーション技術

IoA提唱者である暦本純一教授が所属する東京大学大学院情報学環 暦本研究室とともに、IoAの共同研究を行っているのが凸版印刷だ。


 凸版印刷では、暦本研究室とのIoA研究を事業として確立するため、テレプレゼンスロボットなどを用いた共同研究を2016年7月から実施している。それらの研究成果をもとに「IoA仮想テレポーテーション」技術を開発。2019年4月から企業向けにサービス提供を開始している。

 IoA仮想テレポーテーション技術を用いた実証実験も積極的に実施している。例えば東京都の丸の内と熊本県の福田農場をつなぎ、遠隔みかん狩り体験を実施した遠隔観光の実証や、アパレル売り場と事務所をつなぎ、閉店後の店内で遠隔ウィンドウショッピングを実施した百貨店遠隔外商の実証事例がある。特に百貨店での実証は、4K解像度と5G通信により商品の質感がリアルにタイムラグなく伝わり、遠隔ショッピングの可能性を実感できた。

 凸版印刷 情報コミュニケーション事業本部 ソーシャルイノベーション事業部 先端表現技術開発本部 ビジネス開発部 荻野孝士氏は「実証実験で特に大きな効果が得られたのは、遠隔教育の事例です。福島県の双葉町立双葉南・北小学校(いわき市)と福島県の復興現場をつなぎ、帰還困難地域に指定されたふるさとに“バーチャル遠足”しました。この遠隔教育の事例をベースに、遠隔と学校をつなぐIoA遠隔校外学習サービス『IoA学園』の提供も2019年11月20日よりスタートしています」と語る。双葉町立双葉南・北小学校は2018年に実証実験を実施、2019年にはIoA学園を導入して実際に授業で活用している。2020年も継続して、バーチャル遠足を実施する予定だ。

JAXA・ANAHDが推進するアバター宇宙利用共創プログラム「AVATAR X Program」に参画し、分身ロボットによる宇宙探査体験を想定した実証実験を、JAXA相模原キャンパス宇宙探査実験棟で実施した。(2018年記者発表会にて凸版印刷スタッフが撮影)

IoAが結ぶ人と人のつながり

 現在は人から人へジャックインするIoA活用が主だ。今後はIoA学園のような遠隔教育での活用をはじめ、博物館や美術館、工場見学のような“場の体験”を提供する施設での導入を見込んでいる。「特に新型コロナウイルス感染拡大の影響で、人の移動が制限されています。自宅にいても仕事はできますが、直接その場所に行かなくては“体験”できないことも多くあります。その体験をネットワークを介して行う技術として、IoA仮想テレポーテーションは最適と言えます」(荻野氏)

 今後も凸版印刷では、暦本研究室との共同研究を進め、IoA仮想テレポーテーションを軸としたビジネス拡大に注力していく。

凸版印刷が開発したIoAネック。首に装着した部分が振動するため、遠隔で映像を見ている人が進行方向や向きの指示を出すことも可能。

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