
藤沢市の人手削減に向けた自律移動型ロボットによる各課案内
自律移動型ロボットによる役所案内
~藤沢市が進める庁舎内業務効率化の取り組み~
神奈川県が定める「さがみロボット産業特区」の一つに指定されている藤沢市では、自律移動型サービスロボットを庁舎内業務に活用する実証実験を行っている。経緯や概要について藤沢市産業労働課に話を聞いた。
ロボットで業務を効率化するアイデアとは?
神奈川県では、人口減少や超高齢社会などさまざまな課題に対応していくための生活支援ロボットの実用化と普及の実現に向け、2013年度から「さがみロボット産業特区」として10市2町を指定している。その中の一つの指定を受けたのが藤沢市だ。藤沢市ではさがみロボット産業特区に指定されて以降、ロボットに関するさまざまな取り組みを進めてきた。
2018年度から新たにスタートした「藤沢市ロボット未来社会推進プロジェクト」では、ロボットと共生する未来社会を目標として、「ロボット利活用の推進」「ロボット社会実装(実用化)の推進」「ロボット普及啓発・人材育成などの推進」「ロボット関連企業への支援」の四つの柱に基づいた取り組みだ。この四つの柱を基に、庁内清掃ロボットやコミュニケーションロボットを活用した実証実験など計六つの実証を行っている。実証状況は、以下の通り。
■行政サービスでの活用プロジェクトの取り組み状況
・2020年度本格導入決定
(1)AIを活用した保育所入所選考
(2)自動議事録作成ソフト
・導入済み
(3)庁舎内清掃ロボット「RULO Pro」「Whiz」
→RULO ProがFプレイス(藤沢市藤沢公民館・労働会館等複合施設)にて導入
・実証中
(4)草刈りロボット「MR-300」
(5)庁舎案内自律移動型サービスロボット「AYUDA」
(6)分身コミュニケーションロボット「OriHime」
人口減少で増大する業務量をロボットが代替する取り組みは多くの企業で行われてきた。人手不足に関して共通する問題を抱えていた藤沢市役所においてもロボットの活用が提案されたという。藤沢市 経済部 産業労働課 主任の原 裕貴氏は藤沢市役所が抱える問題への対応を以下のように語る。「四つの柱に基づき、市役所の業務においてもロボットやAIといった最新の技術を活用して業務の効率化や負担の軽減が図れないか検討しました。そこで、庁舎内業務でどういった技術を活用できるのか、アイデアを募集しました。出てきたアイデアに基づいて産業労働課がコーディネート役となり、ロボットなどの実証実験をして実際に導入できるかどうか、それぞれ検証を進めています」
今回実際に実証状況を聞いたのは、(5)の取り組みであるAYUDAの活用状況だ。実証は2020年1月27日~31日の期間で行われた。
自律走行で庁舎を案内
藤沢市役所には、藤沢駅側と、車で来訪した利用者用の駐車場側の二つの入口がある。通常は藤沢駅側の入口の総合案内で案内員が課の案内をしていたが、2018年1月、老朽化に伴い庁舎をリニューアルしており、駐車場側の入口に案内員などを配置していない時期があった。そこで、AYUDAによる案内および誘導を行う実証実験は駐車場側の入口付近のフロアで実施された。「駐車場側から来た利用者がAYUDAに向かって『○○課に行きたい』と言うとAYUDAがそれに反応して、当該の課が在籍している階のフロアの地図をタブレットに表示させ、ご案内できる仕組みです」(原氏)
また、AYUDAの特長である自律走行機能についても実証を行った。エレベーターホールまで案内を希望した場合、AYUDAがエレベーターホールまで移動して案内を行う。「庁舎に関する問い合わせの中で『エレベーターホールがどこにあるのか分かりにくい』というご意見をもとに、エレベーターホールまでの案内に自律走行機能も役立てようと、実証に至りました」(原氏)
AYUDAを選んだ経緯について、藤沢市 経済部 産業労働課の課長補佐を務める東 晋吾氏は次のように説明する。
「さがみロボット産業特区に関する取り組みの中で、辻堂の大型商業施設でAYUDAを活用する実証実験がありました。そこではAYUDAの特長の一つである自律走行機能は使用されていませんでした。多くの人が訪れる商業施設では、オペレーションとして受付に固定しておくほうが活用しやすく、また人混みにより移動がしにくいため、自律走行機能を活用した案内は適していなかったのでしょう。CIJの担当者も自律走行機能を含めた実証の要望があり、藤沢市でもロボットの導入案が提案されていたことで、お互いの要望がマッチして実証に至りました」
識別する単語とバッテリーに課題
今回の実証実験は短期間ながら多くの利用があり、一般市民がロボットに触れる機会として効果的だったという。一方で改善点も見つかった。
まず一つ目はキーワードへの対応だ。今回、利用者が「○○課に行きたい」と話しかければ当該の課の場所まで案内できたが、例えば「税金の手続きがしたいがどこに行けばいいか」という問いには答えられない設定だった。しかし、「○○課に行きたい」という各課の名称で用件を伝えるより「○○の手続きがしたい」といった文章で伝える利用者が多いというのが実情だった。
二つ目の問題点として、バッテリーの持ちがあまり良くないという点があった。当初の予定では、一日稼働する場合はフル充電すれば10~17時の間は稼働できる想定だった。しかし、実際に実証してみると各課案内や自律移動などの利用で7時間もバッテリーが持たないことが分かった。実証期間中はCIJの担当者が常駐しており、バッテリーの稼働時間なども改善点として受け止めていた。
藤沢市とCIJは、本実証実験の第二回目を4月に実施する予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、一旦延期している。今後の取り組みについて、原氏は以下のように語る。「前回の反省点も踏まえて、利用者が何の手続きをされたいかを課名以外の『キーワード』として識別して案内できるよう音声認識機能の強化を検討しています。自律走行機能もエレベーターまでだった走行距離を距離も拡張していく予定です」
リモート業務への活用も視野に
行政サービス活用プロジェクトのうち(6)の分身コミュニケーションロボット「OriHime」の実証実験も進めている。OriHimeのカメラ・マイク・スピーカーなどを通じた遠隔会議や学習支援での活用が検証された。
東氏は、OriHimeやAYUDAの実証実験を踏まえ、障害者雇用の可能性についても展望を語る。「今回遠隔コミュニケーションを目的としてOriHimeの実証を行っていましたが、AYUDAについてもIP電話で別の総合案内で電話できるような機能が今後必要になると想定しています。誰がどこにいてもサービスが提供できるという意味では、障害を持っていて役所に直接来られない場合でも、OriHimeを活用して遠隔で対応するような雇用形態も考えられます」
現在、新型コロナウイルス感染拡大によって全国的に外出自粛が要請され、各所での急ピッチな業務対応が必要となっている。そうした中で、ロボットの活用によって登庁する人員を減らしたりリモートで業務を行えたりする環境が整えば、万が一登庁できない際にもサービスをストップさせず、行政サービスを滞りなく提供できるようになるだろう。
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