
児童生徒の長期的な変容を可視化・求められる制度改定
エビデンスに基づく指導が学校をこう変える
実証研究調査報告会
成果報告会では五つの実証地域から、実際の取り組みと成果が発表され、コーディネーターからの質疑応答のもとパネルディスカッションが開催された。本記事ではその中から三つの実証地域の報告内容を紹介する。
東京都渋谷区
タブレット活用から生活習慣の課題を発見
東京都渋谷区では、児童生徒1人に1台のタブレットを整備している。タブレットの運用には学校外でも利用できるようセルラー回線を活用し、タブレットを家庭学習にも利用している。
渋谷区の実証の特徴として「データ活用の日常化」がある。そのためにUIの改善や、データ活用ワークショップを開催するなど、快適な利用環境の確保に努めた。
実証事例として、「生活面における指導の充実」にてデータの連携・活用が紹介された。対象は中学生だ。
まず、ベテランの教科教員が「中間テストの得点分布がいびつであること」「全体の生活習慣や雰囲気に課題があるのではないか」ということに気づき、保健室の来室状況や遅刻欠席の状況、タブレットの利用状況といった、生活習慣に関わるデータの確認を行った。
校務系データを確認すると教員の指摘通り、テスト結果の低得点の層が多いことが把握できた。学年全体の欠席や早退がやや多く、保健室来室も多いことが伺えた。また、学習系データのタブレットの利用状況を見ると、頻繁にタブレットを夜間(深夜12時以降)に利用している生徒の存在が確認できた。タブレットの深夜利用が多い生徒は、保健室の利用状況と紐付けられるなど、校務系データと学習系データの連携により因果関係が可視化できた。教員の経験による“気づき”がデータによって裏付けされ、効果的な声かけや指導にもつながったという。
福島県新地町
不安を抱える児童生徒を早期に発見
東日本大震災の復興から創世に向かう新地町を担う人材を育成することをテーマに、ICTを活用した学習成果の分析や校務効率化に取り組んできた新地町。パブリッククラウド型の統合型校務支援システムと、授業学習システムを利用し、双方をセキュアに連携させている。
それにより、「出席状況×相互関係」「成績情報×学習履歴」といった児童生徒個人データや、「指導計画×授業記録」「成績情報×ルーブリック評価」などの教科指導データが蓄積され瞬時に把握が可能になっている。それらのデータを適切な指導や主体的な学びの実現に役立てている。統合型校務支援システムへのアクセスはサーバー証明書や指紋認証などを用いて行い、セキュリティ性を高めた。
具体的な事例として新地町では、出欠席や保健室利用状況とデジタルドリル学習支援を基にした、不登校生徒への組織的対応を挙げた。
不登校生徒に対しては、担任や養護教諭のほか、スクールソーシャルワーカー(SSW)やスクールカウンセラー(SC)と連携したサポートが不可欠だ。しかし、システム導入以前は口頭での伝達がメインとなっており、情報伝達に課題が発生していた。そこで出欠情報や保健室利用状況、日常所見情報といった校務系データと、デジタルドリルの学習系データを連携させ、その学習記録データを基に教員からの指導やアドバイス、登校の促しといったコミュニケーションを実施した。また、SSWは学習状況を把握して学習支援事業につなぎ、NPOの学習支援スタッフが苦手教科を中心とした個別の学習支援を行ったという。これらのサポートにより、不登校生徒の登校日の増加や、ドリル学習だけではカバーできない領域のフォローも実現できた。
担任教諭1人だけの見取りでは難しい個々に応じた学校生活のサポートを、データ連携によって実現している。
奈良県奈良市
若手教員中心の現場をデータ活用でサポート
奈良県奈良市の学校現場では、小学校・中学校ともに経験年数10年未満の教員が50%を超えている。これまで学校現場で中心となっていたベテラン教員の経験を重視した教育では立ち行かない状況になっており、経験を重視した教育に加え、データを重視した教育への転換が求められている。
奈良市のデータ活用では、校務系システムと授業・学習系システムを連携させた統合データベースを作成し、用途に応じて可視化を行った。データには権限に応じて必要な情報のみにアクセスできるようにしており、児童生徒に関わるさまざまな情報を集約・連携している。統合データベースは、児童生徒のIDをキーとしており、転校や進学があっても昨年の記録を参照できるようにした。集約したデータは、教育データ可視化システムに落とし込み、全体の傾向把握や注目すべき児童生徒の発見につなげた。
実践事例として挙げられたのは、小学校4年生から中学校3年生の児童生徒を対象に実施された事例だ。実践の背景として、進級や進学によって担任が替わると、児童生徒の細かな様子や長期の変化が捉えにくいという課題がある。そこでデータを時系列でならべ、変容を可視化することで、問題点の早期発見と個に応じた指導の実践を試みた。
まず児童生徒に対して、年3回のアンケートを実施。家庭生活や学校生活、授業評価など、テスト結果だけでは測れない状況をデータ化して児童生徒の変容を発見する。アンケート結果は教育データ可視化システムで集計・可視化され、ネガティブに大きな変容が見られた項目が多い児童生徒に対して、校務データの日常所見を一覧で表示して変化の確認を行い、指導や支援につなげた。児童生徒の年度をまたいだ詳細な情報の引き継ぎから、より細かな支援につなげられたことや、児童生徒の変容が定量的に見えるため、教員の取り組み自体を評価できるようになるなど、高い効果が得られた。
実証研究に基づく成果と求められる制度改訂
実証研究の成果と展望
実証研究をもとにガイドラインを改定
実証事業を経て、教育情報セキュリティおよび個人情報保護に関して明らかになったことについて、KUコンサルティング 代表社員であり、文部科学省と総務省双方の実証事業の委員として参加した高橋邦夫氏が講演した。
「機微な校務系情報への児童生徒によるアクセスリスクの回避策については、活用データに応じたアクセス権限の管理や、システムログイン時における個人認証の強化など、認証系の扱いについて継続的な検討が求められます。また、インターネットリスクの回避策については、不正アクセス対策やウイルス対策などセキュリティ強化が求められると同時に、校務系と学習系のネットワーク分離の意義については、再検討が必要と考えています」(高橋氏)
今回の実証事業における統合型校務支援システムや授業・学習系システムの多くは、パブリッククラウド利用がメインであったことから、クラウドサービス事業者と教育機関などの責任分界の整理を実施し、2019年12月改訂の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に反映させた。この改訂により、クラウドを適切に利用することで、安全で柔軟なICT環境整備を教育現場で行えることが示されている。
教育情報セキュリティポリシーに関するガイドラインの、今後の改訂の方針についても紹介された(上図参照)。総務省、文部科学省はともに、実証の成果を横展開しやすいルールや手引きの作成を進めていく。
可視化システム活用で教員の評価が上がる
今回の実証事業の効果検証とまとめについて、文部科学省 事業推進委員長および総務省 評価委員長を務める清水康敬氏は、昨年度の実証を振り返り「今年度はいずれも活用割合が増えている」と指摘。文部科学省の実証事業においては、効果検証にあたり児童生徒を対象にしたアンケート調査を実施し、「教員の対応」に関する質問を行った(下図参照)。すると小学校では、学級担任・全教員の場合ともに、データ可視化システムの活用度が高いほど、児童の「教員の対応」の評価が高いことが分かった。中学生では、学級担任や教科担任の活用度の差はないが、全教員の可視化システムの活用度が高い場合は、生徒の「教員の対応」の評価が高くなるという。
また、データ可視化システムの活用度が高い教員の方が、保護者面談資料や学年間引き継ぎ会議資料、学級編成会議資料の作成に要する時間が短く、校務系データと学習系データを連携させたデータ可視化システムの導入により、教員の働き方改革にもつながったようだった。
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