
「タレントマネジメントはあらゆる人材が対象に」パーソル総合研究所 藤井 薫 氏
consultant
社内の人材を生かすために採用されているタレントマネジメントシステムについて、パーソル総合研究所でタレントマネジメントの活用支援を行っており、人事専門誌への寄稿も多い藤井 薫氏がポイントをアドバイスする―。
タレントマネジメントは全員対象に
藤井氏_タレントマネジメントという言葉自体が生まれたのは2001年ごろで、マッキンゼーが「The War for Talent」という著作で提唱しました。主に経営人材の確保という側面からの取り組みをタレントマネジメントと捉えました。その後も、戦略的人事マネジメントや戦略的タレントマネジメント、グローバル・タレントマネジメント、包摂的タレントマネジメントなど、さまざまな定義が生まれています。
それらも踏まえて、タレントマネジメントとは、「事業戦略の遂行に必要な人材を確保できるか否かを最優先判断基準として展開する人事戦略や人事施策」を指すと私は考えます。そして、その実現に現在必要とされているのは、従来までの「Old-3K」(記憶・経験・勘)ではなく、「New-3K」(記録・傾向・客観性)になるのです。これまでの基準であった記憶や経験や勘はいわば、なんとなくの判断でした。しかし、これからは記録や傾向、客観性などから判断することで、より精度の高い人事戦略・人事施策を実現しようとしているのです。
背景には、さまざまな要因があります。例えば、グローバル化の進展に伴ったVUCA(ブーカ)時代が到来していることが挙げられます。VUCAは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったものですが、これらの単語に表されるように、現在、企業の経営環境は変化が激しくなってきている状況にあります。特に国内では、労働力人口の減少による人手不足が深刻化しています。同時に働き方改革が進められており、人材の定着と生産性の向上が課題になっています。終身雇用が崩壊する中で、離職率を改善させる必要もあるでしょうし、一方で、中途採用などによる多様な人材の最適活用も求められるようになっているのです。
このような状況下において、タレントマネジメントは、従来のマネジメント層を対象にしたものではなく、あらゆる人材を対象にする全員対象のタレントマネジメントへと移行しています。
システム化ニーズが高まる
タレントマネジメントを行っているからといって、必ずしもシステムが導入されているわけではありません。人材データをExcelで管理しているようなケースもあります。実際、当社が昨年に実施した調査(企業の人事部門担当300名が対象)によると、タレントマネジメントシステムを導入しているのは24.3%でした。導入している企業の中で1/3はリプレースを検討しているという結果も出ました。全体の26.3%はタレントマネジメントシステムの導入を検討しているという回答もありました。
タレントマネジメントシステムを導入する目的は、将来的なタレントマネジメント施策の展開を見据えながらも、まずは人材データの一元化、人事制度の運用の効率化、そしてセルフサービス化が中心になっています。これまでのようにタレントマネジメントの対象が数人のマネジメント層であればシステム化は必要ありませんでした。しかし、あらゆる人材がタレントマネジメントの対象となるこれからは、システム化していかなければタレントマネジメントを機能させることができなくなってしまいます。そのため、タレントマネジメントシステムの需要は今後確実に増えていくでしょう。
タレントマネジメントシステムを提案する際に注意すべき点は、ミスマッチの回避です。すでに触れた調査結果では、タレントマネジメントシステムを導入している企業の1/3はリプレースを検討しています。やはり、タレントマネジメントシステムを導入して何をしたいのかという目的をエンドユーザー側で明確にしてもらった上で、その目的に合致するタレントマネジメントシステムを提案していくべきですね。
キャズムを超えた
タレントマネジメントシステムをうまく活用していくためには、ステップを踏んでいく必要があります。最初のステップは人材情報の一元化です。タレントマネジメントが未導入の企業では、人材情報が各部門や各システムに散在しているケースがほとんどです。人事給与システムとExcelでの管理を組み合わせているような状況ですね。タレントマネジメントシステムの導入によって、そうした段階からまず人材情報の一元化が実現します。これがステップ1です。ばらばらになっていた人材情報がまとめられ、そうした人材情報を人事部以外の人間も手軽に利用できる環境が整います。
現時点でも多くの企業はまだステップ1の状態にあります。このあと、ライン人事への展開というステップ2で人材の育成にデータを活用したり、従業員自身によるキャリア情報の確認などを可能にし、従業員の自律的なキャリア形成を促したりもできるようになります。そして最終的に戦略人事への活用というステップ3へと活用度合いを高めていくのです。ステップ3では、人材情報を基にした統合的なデータ分析やAIの活用、後継者計画、全社横断のローテーション計画などが実現します。
前述した通り、グローバル化や国内の労働力人口の減少、働き方改革などを受けて、的確で効率的な人材マネジメントニーズが高まっています。そうした中で、タレントマネジメントシステムへの注目度も高まっており、現在は市場のキャズム(普及期を前にした溝)を超えた感があります。これからはさらに認知度が高まり、ビジネスチャンスも増えていくでしょう。
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