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岩見沢市、チャットツールや5G活用など、スマートシティ環境を整備

岩見沢市、チャットツールや5G活用など、スマートシティ環境を整備

2020年03月23日更新

チャットツールや5G活用で「市民生活の向上」と「地域活性化」を目指す
~岩見沢市が進めるスマートシティ環境の整備~

自治体のIT活用が全国的に進んでいなかった1990年代初めから「情報化」に取り組んでいる北海道岩見沢市。同市では、農業分野をはじめとしてさまざまなプロジェクトを展開してきた。2018年12月にはシスコシステムズ(以下、シスコ)との協業で「市民生活の質の向上」と「地域経済の活性化」という二つのテーマを掲げ、スマートシティプロジェクトに向けた協業がスタートしている。岩見沢市が多分野にわたって展開するスマートシティの取り組みを紹介しよう。
Text by 古俣慎吾 Shingo Komata

1990年ごろから地域情報化政策に着手

 岩見沢市は札幌市の北東40kmに位置する人口約8万人の町だ。石炭や農産物の物流の中心地として発展してきた。農家の戸数は、2005年の1,580戸から2018年までの13年間で928戸まで減少した。一方で、1戸辺りの耕作面積は約1.7倍の19,800haに拡大。農業中心の岩見沢市では、市民生活の向上と地域経済の活性化を進めるためにICT活用は必須の課題となっているのだ。

 同市企画財政部 情報政策推進担当次長の黄瀬信之氏は、岩見沢市のスマートシティへの取り組みを以下のように説明する。

「1990年代の北海道では、人もネットワークも全てが札幌市に集中していました。札幌市から離れた岩見沢市で情報社会を構築するには、家庭でもネットワークを使える環境を整えなければなりません。キャリア回線を整備できない状況にあるのなら、行政団体が社会基盤として整備すべきだと判断し、当時岩見沢市長を務めていた能勢邦之氏のもと、施設や自営の光ファイバーの整備を進めてきたのです」(黄瀬氏)

 1990年代に同市は地域情報化政策として、次のようなプロジェクトを行ってきた。

■岩見沢市の地域情報化政策の取り組み
・コミュニティFMはまなすジャパンの開局(1996年)
・自治体ネットワークセンターの開設(1997年)
・市内公共施設間に市独自の光ファイバーネットワーク構築(全長60km、155Mbps)
・いわみざわ公園内にテレワークセンター開設

チャットツールで教育・福祉分野を支援

 今回、岩見沢市長 松野 哲氏のもとで進められているシスコとの共同プロジェクトは、岩見沢市がICTを用いた地方創生の一環として行っているという。本プロジェクトには、シスコのWebコミュニケーションツール「Cisco Webex Teams」が採用されている。岩見沢市では、教育にはじまり、健康増進や高齢者福祉など市民生活のあらゆる分野で問題を抱えており、人口を増加させるには厳しい状況にある。そうした地方の暮らしの質を保つカギとなる取り組みとして、スマートシティ構想を視野に入れ、シスコとの連携でICT活用に力を入れているという。具体的には、以下の内容が挙げられる。

■岩見沢市とシスコのICT活用の取り組み
・教育分野「デジタル スクール ネットワーク」:2018年に岩見沢市立緑陵高等学校を含む全国の5つの高校からスタートした「デジタル スクール ネットワーク」プログラム。教育現場でICTを活用することで、教育格差解消を目指す
・医療/福祉分野:Cisco Webex Teamsを市役所、市立総合病院で導入。遠隔手話の提供など、市民サービスの向上を目指す

 教育分野の取り組みについて黄瀬氏は以下のように話す。「当初は全国の高校を結ぶネットワークとして5校でスタートしましたが、現在では海外の高校も参加しています。今後は、市内の小・中学校の情報コミュニケーション推進する形で次のステップに入ろうと教育委員会と話を進めています」

 岩見沢市の医療分野における取り組みのポイントは、福祉の領域として、ろうあ者支援に力が注がれていることが挙げられる。具体的には、Cisco Webex Teamsを活用して、ろうあ者のスマートフォンやタブレットからいつどこからでも手話通訳者にアクセスできるのだという。ろうあ者がCisco Webex Teamsを通じて手話で会話しながらサポートを依頼できるといった仕組みを整えているという。

5Gで圃場の情報を収集


 岩見沢市が行うICT活用は教育や医療にとどまらない。基幹産業である農業においても「スマート農業」として積極的な取り組みを実施している。収集データの集約システム「NEC生産データ活用サービス」をプラットフォームとし、5Gやドローン、光ファイバーなどを活用して以下のような取り組みを展開している。

■ロボットトラクターによる遠隔監視
 岩見沢市では、2019年10月に5Gの基地局を建て、ロボットトラクターの遠隔監視に関する取り組みを進めてきた。耕作地を手放す農家が増えると、飛び地を無人で高速移動できるロボットトラクターが必要となってくる。現段階では制約や安全性を含めた課題があるという。

■ビッグデータ活用で作業の最適化
 農林水産省が全国69団体の自治体で進めている「スマート農業加速化実証プロジェクト」の中の大きなテーマが作業のスケジュールの最適化だ。岩見沢市では、ドローンで撮影した衛星映像や定点カメラのリモートセンシングから収集したビッグデータ情報を解析し、生育の悪い箇所に肥料をまくなど適切な対応をAIに判定させ、作業のスケジュールを最適化している。こうしたシステムを整えることで人手が少ない農家でも農業の維持が期待できると見込んでいる。

■ブロードバンド環境を圃場に
 広い圃場はキャリアのネットワークが弱くなる傾向がある。そこで、岩見沢市の強みである光ファイバーをバックボーンに、無線を使ってブロードバンド環境を作る試みが2019年5月から始まっている。黄瀬氏は、ブロードバンド環境の整備の進捗について以下のように話す。

「圃場で作業をしながら、ネットワークを通じて情報収集や作業の最適化ができるのです。農村地帯では人口が減少し、店や病院が廃業して住環境の衰退が厳しくなっていますが、圃場だけでなく介護支援や買い物支援など、ブロードバンド環境が市民生活もサポートできるような仕組みが整いつつあります」

岩見沢市が推進する総合戦略

 岩見沢市では、総合戦略として「農と食と健康をつなげる」とキャッチフレーズに掲げている。「農」によって作られた生産物を使って「食」を世界に届ける。その「食」によって市民が「健康」になろうという試みだ。

「健康の分野では、文部科学省の予算で進めているプログラムに北大医学部と30余りの企業が参加しています。農業分野と同じように、自分の健康状態を可視化し、病院のレセプト情報や市役所の国民健康保険だけでなく、社会保険のデータや普段の生活の健康情報などを合体させて、住民個人の健康状態を把握させるなど現状だけでなく、将来の予測もできるようになっています」(黄瀬氏)

 岩見沢市のスマートシティに向けた取り組みは、ICT環境を活用した市民生活の向上と地域活性化を目標に出発し、「農と食と健康をつなげる」をコンセプトとした新たな試みへと着々と進んでいる。

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