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神戸市が行う土砂災害VR体験プログラム

神戸市が行う土砂災害VR体験プログラム

2020年02月28日更新

VRで土砂災害を擬似体験
~神戸市の防災意識向上に向けた取り組み~

2018~2019年にかけて日本を襲った豪雨や台風により各地で大きな被害が出た。これにより全国の自治体では災害対策が急務となっている。神戸市は理経と協働して「土砂災害VRの実証開発ならびに防災研修」(以下、土砂災害VRプログラム)に取り組み、2019年3月に神戸市の防災研修で初公開している。地震体験の防災訓練は一般的に行われているが、土砂災害訓練に関してはまだ数が少ない現状にある。本取り組みの背景を神戸市消防局 市民防災総合センターに聞いた。
Text by 古俣慎吾 Shingo Komata

災害時の危機意識が低下?

 AIやIoT、アプリを活用して行政問題を解決しようとする取り組みは多くなってきたが、これには課題もある。国からは税金が投入されるものの、実際の問題解決に至らないことも多いという。理由の一つに、技術に詳しくない自治体職員がプランを作成し、請け負う企業が仕様書通りにシステム開発をするしかないというケースがあるからだという。

 こうした課題解決のために神戸市が取り組んでいるのが「Urban Innovation KOBE」だ。柔軟な発想や優れた技術力を持つ企業と、社会や地域課題に詳しい神戸市の職員が協働することで最適な解決手法を見つけ、サービスとして構築から実証までを支援する取り組みだ。神戸市が抱える課題やテーマを提示し、課題解決をめざす企業やエンジニア、NPOなどを公募した。選考で選ばれたチームと市の担当者が共同で開発業務を行い、市民に活用されるサービスの実現を目指すという。

 本取り組みは2017年9月から開始し、2018年10月12日には「神戸市が抱える7つの課題」が発表された。2019年11月11日からは本取り組みを全国的に実施するための「Urban Innovation JAPAN」がスタートしている。

 土砂災害VRプログラムは、Urban Innovation KOBEの取り組みのうち、神戸市が抱える7つの課題の一つとして行われている。開発は、避難体験VRの制作などで防災・災害対策の実績がある理経と神戸市の協働で実施された。神戸市消防局 市民防災総合センター 市民研修係 係長 吉田堅一郎氏に開発の経緯を聞いた。

 「2018年の夏、西日本豪雨に見舞われた神戸市内では灘区で土砂災害が発生し、住宅街にかなり大量に土砂が堆積しました。多くの方に安全に避難してもらうには、土砂に対する危機意識、避難意識を高めてもらう必要があると考えます。神戸新聞のアンケートによると、避難勧告を認識した世帯は4割、実際に避難した住民は2割でした。神戸市は(昭和13年に)阪神大水害を経験していますが、時が経つにつれて意識が薄れ、実際に災害を体験した市民も減少しています。アンケートを受けて、土砂災害に対して市民の危機意識が低下していると感じ、土砂災害を疑似体験できるVRプログラムの開発に乗り出しました」(吉田氏)

VRで体験できる疑似土砂災害

 神戸市消防局 市民防災総合センターには、地震体験車「ゆれるん」を設置しており、近い将来に発生が予想されている南海トラフ巨大地震に備えて大きな揺れを体験できる。しかし、土砂災害においては実際に土砂を流して体験してもらう施設を作るのは困難だ。上記も踏まえ、VR技術を用いて土砂災害の研修ができるソフトウェアの開発に至ったという。

 従来の神戸市の防災研修では過去の災害関連のビデオやDVD などで災害事例を見てもらっていた。しかし、土砂が流れている鮮明な映像を撮ることは困難で、事後の映像であることが多い。今回、危機意識を実感してもらうことを目的として、実際の状況に近い体験ができるVRに注目したという。土砂災害VRプログラムは、以下の内容で行われた。

■土砂災害VRプログラムの概要

・場所……神戸市内によく見られる山際の斜面に近い坂道のある住宅地
・第1の場面……最初は小雨の状態から、次第に強くなり、避難勧告が流される
・第2の場面……雨が強くなってきて、道路も避難が困難になってくる。斜面から土の混ざった水が流れてくる
・第3の場面……斜面が崩れてバイクなどが巻き込まれた土砂が流れてくる

 「実際に起きた災害を実写した映像ではありませんが、土砂災害をミニチュアの実験場で再現してCGの技術を用いながら動画として作成しており、土砂災害のエネルギーと恐ろしさを表現できていると感じています。災害対策で一番大切なことは避難のタイミングです。第1の場面では辺りを見るとそれほど雨も強くなく、避難する必要がなさそうです。しかし、そのタイミングで避難することが重要です。そのあとの第2の場面で、すでに道が冠水して避難が難しくなっています。防災センターではいつでも土砂災害VRプログラムを体験可能で、神戸市内の地域の防災訓練に消防署のスタッフが伺って体験してもらうという取り組みも行っています」(吉田氏)

 本プログラムは、2019年3月に東灘防火安全協会の会員や駒ヶ林中学校の生徒への防災研修で初公開された。当初はVRプログラムを利用できる機器が3台しかなかったが、11月には正式にリース契約し、現在はパソコン版が1台、スタンドアローン型が5台まで増えた。2020年の1月までに体験会は40回実施。総参加者は1,700人となった。

土砂災害VRプログラムの映像。

居住地域のハザードマップとの連動を促す

 土砂災害VRプログラムでは、雨音や避難勧告、土砂が流れ出したり木が折れたりする音などをリアルに聴くことができるため体験者のリアクションも大きい。体験後は、「恐ろしさがよく分かった」「ハザードマップで自分の家の周辺をよく見ようと思った」などの感想があったという。本プログラムは、防災訓練に関心の薄い若年層に向け、VR技術を活用することで参加者を増やす狙いがある。

 ソフトウェアは理経に著作権を渡し、すでに全国の自治体で使える体制を整えている。研修手法などのノウハウの問い合わせがあれば神戸市が対応することも可能だという。同市では、その場で体験するにとどまらず、今後も参加者が危機意識を持続させられるような研修方法を検討しているという。

 「土砂災害VRプログラムは、ただ体験してもらうだけでなく状況に応じて参加者に災害対策を検討してもらうことが重要です。現在は、神戸市が提示しているハザードマップを一緒に見てもらい、参加者の方に防災時の備えを確認していただく方法を採用しています。体験時には危機感を持っても忘れてしまっては意味がないため、記憶に残るものにしなければなりません。そのためには、単に土砂災害を疑似的に経験させて助言をするだけでなく、参加者が住んでいる地域のハザードマップと連動させて避難場所を確認してもらい、避難場所へのルートを実際にたどってみてもらうことが大事です。こうした体験が、実際に災害が起きた際の避難行動に役に立つのです」(吉田氏)

 全国で数少ない取り組みとはいえ、参加者である1,700人は全神戸市民150万人のうちの0.1%ほどだ。次年度以降も継続して研修ができるよう、まずは予算要求が課題となる。またVR技術をほかの災害でも活用を検討しているという。吉田氏は、そうした課題への取り組みには他社メーカーとも開発を検討し、実現していきたいと展望を語った。

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