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秘密計算技術によってデータの利活用を図る和歌山県の取り組み

秘密計算技術によってデータの利活用を図る和歌山県の取り組み

2020年01月30日更新

秘密計算を用いてデータの安全な活用を実現
~和歌山県とNTT Comが連携協定を締結し、データ利活用を推進~

2019年9月9日、和歌山県とNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は、自治体や企業、研究機関など異なる事業者が保有するデータを秘匿化したまま分析・統合し、結果を出力できる秘密計算を用いた「データサイエンス分野における連携に関する協定」を締結した。両者は、本協定に基づき、産業の活性化や社会的課題の解決およびデータ利活用のための人材育成に関する実証実験(以下、データ利活用のための実証実験)を行う予定だ。協定締結や実証実験を行うに至った背景を聞いた。
Text by 古俣慎吾 Shingo Komata

データ利活用を国と共に推進

 今回、データ利活用のための実証実験が行われる背景には、国や和歌山県が進めてきた業務効率化に関する取り組みが関係している。

 現在は、ネットワーク上だけではなくリアルな生活上で生成・流通・蓄積されるデータが飛躍的に増大し、形式も多様化している。情報分析技術においても、データは高度・広範囲に分析され、革新的なサービスやビジネスモデルの創出・業務の効率化などに利活用されている。

 一方で国内では人口急減・超高齢化社会が進んでおり、国は各地域と一体となって地域の特徴を生かした自律的・持続的な社会を創生できるように「まち・ひと・しごと創生本部」を設立。まち・ひと・しごと創生本部の取り組みの一つとして、政府関係機関の地方移転を進めてきた。関西では京都府への文化庁移転、徳島県への消費者庁移転などが知られている。「政府関係機関の地方移転の際、和歌山県は、総務省統計局の業務の移転先として手を挙げました」と話すのは、和歌山県 データ利活用推進センター長である中内啓文氏。その経緯を説明してくれた。

「国の政府関係機関移転の取り組みに対応しながら、和歌山県も体制を整えていきます。例えば、政策展開に利用されているビッグデータや自治体の情報といった統計情報を研究者の方々に提供するなどです。行政として民間企業の統計データには関知しませんが、社会の活性化を図ることが可能であれば民間企業のデータもうまく融合させて、よりデータを利活用する取り組みも考えています。国のデータをある程度オープン化して利用する取り組みは諸外国では進んでいますが、日本では少々遅れがちです。統計局の業務の一部が和歌山県に移転したことを機に、データ利活用を国と県が一緒になって推進するというのが、データ利活用のための実証実験を行うに至った元々の経緯です」(中内氏)

データを秘匿化したまま分析

 秘密計算とはいささかミステリーじみた言葉だが、実際にはどのような技術なのだろうか。

 秘密計算とは、データを秘匿化したまま分析を行い、結果のみを出力できる技術のことである。データを利活用する場面で、国は秘密計算との連携をバックアップしようとしているわけではない。統計データも民間企業に公開していないというのが現状だ。

 一方、和歌山県では従来から行政課題の中に県と企業相互の発展を見据えており、データの利活用を通じて企業の発展に寄与し、国の業務を支えつつ企業同士のデータ連携や人材育成も進めたいという思惑があった。

 従来のデータの保管やバックアップ製品には、データ分散・暗号化・秘匿化という技術が搭載されているものもある。ところが、異業種間でデータを利活用する場合には、暗号化されていたデータを再び平文に戻さなければ集計することができない。しかも、平文に戻すとリスクが高まる。

 そうした状況を受け、一橋大学とNTTセキュアプラットフォーム研究所では、2年ほど前から秘密計算処理の共同研究を進めており、秘密分散・処理をしたまま秘密計算ができる技術を新しく確立した。その技術を利用して企業や県に関するデータを提供し、可能性を探るのが今回の実証実験の目的となっている。

「新しい技術を社会実装して利用する場合、研究段階の技術をそのまま使うわけにはいきません。NTT Comの秘密計算技術は実効性のある商品として使える形にできあがっていたので、秘密分散・秘密計算用のクラウド系システムを提供していただきました。そして和歌山県が県情報、協力企業のデータを融合・分析し、実証を行うことになりました。総務省の統計局、県の統計センター、和歌山大学などともデータサイエンス人材育成で協定を結んでいるので、実験結果をサイエンス人材育成の教材に採用しており、社会貢献の一つとして取り組むという目標を掲げて企業を募っています」(中内氏)

 現段階では、あくまでも実証実験の準備をしている状況だ。データ利活用のための実証実験は、2019年度内までに実施される予定だ。実証実験では、個人の生のデータを大量に提供してもらうのでなく、企業が持っているデータをサンプリングした形で提供してもらうという。項目やデータの種別などを分析しながら融合性を探っていく。そうした取り組みの中で、公共交通機関の利用データや商業施設のPOSデータ・金融機関情報などさまざまな情報をマッチングできるような仕組みづくりを実証実験の中で進められる可能性なども思案したという。

企業データを活用し、行政の課題解決へ

 事象検証や研究においては県レベルで研究費を確保することが可能だが、県と企業が戦略を立てて、業種間の発展につなげていこうとするにはコストがかかる。同業種内でもなかなか進まないデータの利活用のシステムを、異業種間の企業にも参加してもらい、和歌山県がリーダーシップをとって実証実験を進めることにどんな意義があるのか。中内氏は、まずは企業参加を募りながらデータの融合性を把握することが大きな目的だと説明する。

「秘密計算技術にすぐに飛び付いていいのか、果たしてこれがデータ利活用の手法としてスタンダードモデルになるのかどうかなど、懸念はたくさんあります。また、既存の保存されていたデータを再度計算に使う際に新しいIT設備を導入して何億、何十億円もかけた結果、効率的か非効率的かという点も検証する必要があります。今回は実証実験ですが、データ融合が図れる仕組みづくりは今後も必要です。さまざまな可能性やリスクを考えながらデータ利活用のための実証実験に取り組んでいきます」(中内氏)

 データ利活用のための実証実験はNTT Comの試験環境の中で行われる。小さい規模での実証実験なので、過去の膨大なデータを登録して全ての処理を行うのは難しい。だが、サンプリングしたデータの融合性を図ることができ、コストパフォーマンス的に問題がない費用で業務への活用が可能となれば新しいビジネスチャンスにつながるかもしれない。

「和歌山県の自治体がデータの分析を行う最大の目的は、データ融合やデータリンクではなくデータの利活用を推進することです。新しい知見や新しい技術を企業や全国に発信することで注目が集まれば、企業間などでデータ公開・利活用への必要性が見いだされる可能性があります。新しい技術が出てきて、実際に商品化・商用化して業務的に何かやっていきたい場合、企業が新しいビジネスモデルとして実践すればよいですが、企業のデータの中でも、核となるようなデータはなかなか公開しにくいものです。しかし、そういうデータを融合させることで、発展的な側面が出てきたり町並みの活性化を起こしたり、行政課題の解決にもつながっていく可能性が考えられます。今後もデータの利活用の取り組みを展開し、行政の課題解決につながる方法を模索していきます」(中内氏)

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