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教育情報化推進法成立記念シンポジウムをリポート

教育情報化推進法成立記念シンポジウムをリポート

2019年11月20日更新

教育情報化推進法成立シンポジウムリポート
遅れる日本の教育情報化を国家戦略で促進
党派・省庁・企業の枠を超え学びを変革する

2019年6月28日、「学校教育の情報化の推進に関する法律」(略称:教育情報化推進法)が公布、施行された。超党派国会議員による「教育におけるICT利活用促進を目指す議員連盟」(略称:教育のICT化促進議員連盟)が策定したものだ。本法律によって、全国の学校でICT環境の整備を促すため、国と地方に「学校教育情報化推進計画」の策定が義務付けられることとなった。10月3日に本法律の成立を記念したシンポジウムが開催されたため、本企画ではその内容をリポートする。

推進法を起爆剤にICT化の議論を進める

 教育情報化推進法の法案作成にも関わった超教育協会が10月3日に「教育情報化推進法成立記念シンポジウム」を開催した。シンポジウムは二部構成となっており、第一部では「学校教育情報化推進法とは?」と題したラウンドテーブルで、教育のICT化促進議員連盟からは衆議院議員の遠藤利明氏(自由民主党)、中川正春氏(立憲民主党)、盛山正仁氏(自由民主党)、参議院議員の石橋通宏氏(立憲民主党)が参加。文部科学省からは初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長の髙谷浩樹氏、総務省からは情報流通行政局 情報流通振興課長の吉田正彦氏、経済産業省からは商務・サービスグループ サービス政策課長(兼)教育産業室長 浅野大介氏が参加している。コーディネーターとして慶應義塾大学教授の中村伊知哉氏と超教育協会理事長の石戸奈々子氏も加わった。

 教育のICT化促進議員連盟の議員4名が口をそろえて指摘したのは海外と比較した際の、日本の教育の情報化の遅れだ。学校教育情報化推進法を施行したことで、国家戦略として教育の情報化を推進していくことを明確にしていきたいとした上で、具体例としてデジタル教科書を挙げた。

 デジタル教科書は2018年の改正学校教育法において、正式な教科書と同様に扱えるよう認められた。このデジタル教科書の購入費負担についても、既存の紙の教科書と同様に進めるのかなどのあらゆる可能性を検討しており、今回の学校教育情報化推進法がそれらの議論を促進できればと指摘された。

 衆議院議員の中川氏からは「地方財政措置で教育ICT化の予算は自治体に分配されていますが、自治体の判断でその予算の使い道が変わってしまうのが現状。今回の学校教育情報化推進法が起爆剤となって、議論が進んでいければ」と語られた。

(上左)文部科学省の髙谷浩樹氏、(上中央)総務省の吉田正彦氏、(上右)経済産業省の浅野大介氏の三名は、各省庁の立場から教育の情報化に対する取り組みを語った。

(下左)AI型タブレット教材「Qubena」を開発・提供しているCOMPASSの神野元基氏と、(下右)導入コストが安価で教育用端末として利用しやすいChromebookを提供するグーグルの小出泰久氏。

民間教育を学校に取り入れる

 文部科学省の髙谷氏、総務省の吉田氏からは各担当省庁の情報化推進に関わる取り組みや事業についての説明があったが、本誌では定期的に解説を行っているため割愛し、経済産業省の浅野氏による「『未来の教室』に向けて~第4次産業革命を活かす学び、そんな時代を生きるための学び~」の内容を簡単に紹介する。学校教育を管轄する文部科学省とは異なり、経済産業省では民間教育を管轄している。例えば学習塾やEdTechベンチャー、フリースクール、スポーツ、音楽、アートなどの教室がそれに当たる。

 経済産業省が推進している「未来の教室」実証事業では、“学校と民間教育の垣根なく「産業の未来」を意識して学べる、豊かで個別最適化された学習環境の構築”を目標に掲げている。民間教育×学校による学校のICT化、EdTech活用や、民間教育のコンテンツ・人材の活用などによって、学校現場の組織や業務改革、教員の役割変化などを促すものだ。

 例えば実証事例として、個別学習塾のEdTech技術を学校へ導入し、学習塾で行う個人の関心と学習進度に合わせた学習スタイルは、学校で転用可能か否かなどの検証事例がある。浅野氏は「実証事業は実証止まりとなるケースも多いため、全国を回るキャラバンも作りました。依頼のあった自治体から各地を回って、未来の教室の実証内容を実際に体験してもらう予定です」と語った。

教育水準の高さが日本の足かせに

 第二部では第一部のメンバーにグーグル Google for Education Japan 代表の小出泰久氏、COMPASS 代表取締役CEOの神野元基氏、光村図書出版 ICT事業本部 普及促進部長の森下耕治氏、アマゾンウェブサービスジャパン パブリックセクター営業本部本部長の大富部貴彦氏が加わり、今後の教育の情報化の展開をテーマにしたディスカッションを行った。印象的だったのが「日本は教育ICTのフロントランナーに立てるか」という議題に対するCOMPASSの神野氏とグーグルの小出氏の回答だ。神野氏は「トップランナーに立つなら勝負は5年でしょう。日本や米国の教育水準は非常に高く、そこに対して提供されるEdTechの質も必然的に高い。しかし、昨今台頭してきている中国やインドなどのEdTech系ユニコーン企業(設立10年以内のベンチャーで評価額10ドル以上の非上場企業)は日本のEdTechベンチャーとは資本金レベルで大きく異なりますので、数年もすれば日本のEdTechの水準に追い着きます。それらの企業が日本の教育課題に向けて、AIを開発したらまず勝ち目はないでしょう。そうなる前に、教育現場の課題を解決するEdTechソリューションを海外展開するなど、市場に対して仕掛けていく必要があります」と語った。

 その神野氏の回答を受けたグーグルの小出氏は「5年も持たないと思います。現在の日本の教育市場のやり方だとあと3年が勝負でしょう。地方財政措置による自治体のICT整備の話がありますが、例えば教育のインフラとなるWi-Fiの整備に専用の予算を投じるなどして、EdTechが使えるプラットフォームを早急に構築する必要があるでしょう。グーグルの提供するChromebookは米国の教育現場で70%のシェアを獲得していますが、日本ではほぼシェアを獲得できず、実は2018年夏までEducation事業は国内から撤退していました。日本は素晴らしい教育システムを持っており、なぜICTが普及していないのか分からないといっても過言ではありません。米グーグル本社では日本の教育市場に限界まで投資をすると決めており、低価格で運用のしやすい教育用端末の選択肢として公教育のインフラ整備の一助になれたらと思います」と話した。

 もともとの教育水準や教員の指導力が高かったがために、教育ICTの普及が進まないと長年言われ続けてきた日本の教育現場。しかし党派や省庁、企業の枠を超え、学びの変革を起こしていくために、今回の教育情報化推進法は大きな追い風になるはずだ。今後の教育情報化は、民間企業の動きにますますの注目が集まる。

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