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医療で伸びる3Dプリンター産業――矢野経済研究所調査から

医療で伸びる3Dプリンター産業――矢野経済研究所調査から

2019年11月13日更新

Special Feature 2
The latest 3D Printer's Trends
3Dプリンターの新潮流

2014年ごろ、3Dプリンターの一大ブームが起きたのを覚えているだろうか。“ものづくりに革新を起こす”とも言われていたが、実際にできることは限られており、ブームはやがて終息した。しかし、昨今の3Dプリンターは精度が向上しただけでなく、光造形3Dプリンターや金属3Dプリンターなど、新たな技術がオフィスに導入できるサイズで展開され始めている。いま再び注目が集まる3Dプリンターの、新潮流を見ていこう。

最終製品に向けた造形や量産が活発に

 2014年ごろ、1大ブームを巻き起こした3Dプリンター。1家庭あたり1台3Dプリンターが導入される可能性も指摘されていたが、2019年10月現在3Dプリンターが家庭に設置されているケースはほぼないだろう。コンシューマー向けの3Dプリンターといえど、設置スペースが大きく、家電としては高価な3Dプリンターは普及が進まず、ブームは終息した。家庭のみならず企業においても、デスクトップ型の安価な3Dプリンターを導入したものの、その出力精度に不満を感じたり、有効な活用用途を見いだせなかったりして倉庫で眠っているケースは少なくない。

 しかし2014年当時と比較すると、3Dプリンターには新たな潮流が生まれている。3Dプリンターの世界市場を調査している矢野経済研究所 小山博子氏は、2018年12月27日に発表した調査データをもとに次のように語る。「2017年の世界3Dプリンター市場規模は前年比18.4%増の27万台(メーカー出荷数量ベース)、2018年は前年比16.7%増の31万5,000台を予測しており、世界3Dプリンター市場規模は伸長を続けています。3Dプリンターは装置や材料の進化により、欧米を中心に航空や宇宙、自動車、医療、家電、金型分野などで最終製品に向けた造形や量産に向けた動きが活発になっています」

 特に進化が進んでいるのは60万円以上のハイエンド3Dプリンターだ。市場ではハイエンド3Dプリンターと60万円未満のローエンド3Dプリンターの二極化が進んでおり、試作やデザインの確認にとどまりがちなローエンド3DプリンターはSTEAM教育に関心が高い教育機関などを中心に導入が増加しているものの、以前と比較すると成長は鈍化しているという。一方でハイエンド3Dプリンターは金属を材料にする、いわゆる金属3Dプリンターの伸びが顕著だ。

ハイエンド装置は医療分野で大きく伸長

 2017年の世界3Dプリンター市場における日本の占める割合は3.5%で、この割合は2021年には2.0%にまで縮小すると予測されている。日本の3Dプリンター活用に対する意識は海外と比較すると低いとみられているが、最近はより多くのさまざまなものを造形するために、複数台の3Dプリンターを所有するユーザー企業が増加基調にある。また、よりハイエンドな3Dプリンターへのリプレース需要も増加しており、3Dプリンターを活用することに一定のメリットを見いだしたユーザー企業では、3Dプリンターの活用意欲は増しているという。

 小山氏は「国内市場においては、ハイエンド3Dプリンターの導入は特に自動車の製造工場などで進んでいる印象が強いです。またスポーツシューズのインソール製造に3Dプリンターが活用されている事例もあります。今後確実に伸びていくと見込んでいるのは医療分野で、特に歯科向けの3Dプリンターの需要が拡大しています」と語る。整形外科などにおいても、手術で使う手術用器具は毎回煮沸消毒する必要があり、手間もコストもかかる。それをハイエンドな3Dプリンターで出力して使い捨て利用することで、低コストで衛生的な手術が可能になるのだ。医師ごとに使いやすい手術用器具にカスタマイズするようなニーズにも応えられるようになる。

 ローエンド3Dプリンターについて小山氏は「国内でも、製造の試作品と学校現場への導入が主です。高等専門学校(高専)や大学などで活用ニーズはありますが、3Dプリンターの利用方法を教えられる教員が少ないためなかなか導入が進んでいません」と指摘。米国やヨーロッパでは大学に一つは3Dプリンターに関する講義が存在するところも多いことから、「国内の教育機関でも積極的に活用していく必要があるでしょう。そのため、今後ローエンド3Dプリンターの導入が教育機関へ進んでいく可能性は考えられます」と小山氏は語る。半面、特に公立学校では導入予算がつけにくいという課題も指摘された。

矢野経済研究所 上級研究員 小山博子氏

販売店のサポートが継続活用につながる

 3Dプリンター導入後の活用については製品を提案する販売店のサポートも重要になる。FDM(熱溶解積層方式)3Dプリンターで利用するフィラメントなどは、温度や湿度に強度が左右されやすいため、季節によっては出力されたものの強度が変わってしまうケースがある。ユーザー企業側が継続的に3Dプリンターを利用してパラメーター設定の知識を蓄積していくことも重要だが、提案側がそれらのノウハウをユーザー企業側に提供することも必要だ。

「日本の企業は自社で製造しているものの情報を公開しない傾向にありますが、3Dプリンターに関してはユーザー会のような場を用意して、3Dプリンターで製造しているものに関しての情報交換ができるとよいでしょう。導入事例などももっと公開されるようになれば普及推進につながるかもしれません」と小山氏。

 近年、ものづくり産業における競争力の源泉は、品質や価格、納期ではなく“モノ”を通じて市場にどのような付加価値をもたらすかという点に移りつつある。3Dプリンターは複雑な造形物を一体で出力できるが、この特性を生かした設計が行われないままになっているケースも存在する。そのため、日本のものづくりは3Dプリンターを活用しきれておらず、こうした変化に十分な対応ができていないとも考えられる。国内における3Dプリンター市場がこれまで以上のスピードで成長していくためには、3Dプリンターを活用する上での付加価値の在り方や、ものづくりの源泉を見極めた上で、3Dプリンターを活用できる人材育成を考えていく必要があるという。例えば建築業において、ドアの取っ手部分を3Dプリンターで製造することで、入居者のニーズに応じたデザインにカスタマイズするといったような付加価値提案だ。

「3Dプリンターの出力精度は年々向上しており、出力の速度も速くなっています。3Dプリンターメーカーからは“もう一度ブームが起こる”という声もあり、今後数年でまた市場に変化が起こりそうです」と小山氏。

 金属3Dプリンターや光造形3Dプリンターなど、新たな材質や出力方式の製品も普及が進みつつあり、今一度3Dプリンターの可能性を見直す必要がありそうだ。

3Dプリンター市場に見る“変化”の兆し

3Dプリンターの最新動向を知るために、まずは市場調査会社の矢野経済研究所が発表している「3Dプリンター世界市場調査」から、海外市場と国内市場の変遷を見ていこう。

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