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高齢者と家族の遠隔コミュニケーションをロボットによって支援

高齢者と家族の遠隔コミュニケーションをロボットによって支援

2019年10月24日更新

ロボットを活用した西条市の高齢者見守りサービス
~高齢者と家族のコミュニケーション活性化へ~

愛媛県西条市がロボットを活用した高齢者の見守りサービスに取り組んでいる。本サービスで採用されているのは、NECが開発した「PaPeRoi(パペロアイ)」というコミュニケーションロボットだ。3カ月間の実証実験を経て、2019年1月からは高齢者の一人暮らしや高齢夫婦のみの世帯に向けてPaPeRo iを有償サービスとして提供している。ロボット活用による高齢者の見守りサービスは全国でも初めての試み。取り組みの背景、課題などを聞いた。
Text by 古俣慎吾 Shingo Komata

ICTの活用で高齢者をいかに支えるか

 西条市は、愛媛県東部に位置し、西は瀬戸内海、南は西日本最高峰の石鎚山に囲まれた人口約11万人のまちだ。農作物の一大産地であるとともに、飲料、電気機械の工場など、四国最大規模の工業地帯を形成している。

 今回、西条市が見守りロボットサービスの提供に踏み切った背景にはどのような事情があったのだろうか。西条市 福祉部包括支援課の松尾光晃氏は次のように説明する。

「当市の玉井敏久市長は、従来からICTを活用したまちづくりを積極的に進めてきました。しかし、依然として当市では、工業、農業、教育分野などを含めてさまざまな課題が生じています。その中でも特に地域住民の高齢化は急激に進んでおり、高齢者の支援に対して強い問題意識を持っていました」

 今年の3月末時点で、西条市の高齢化率は31.73%。全国平均より少し進み具合が速く、高齢の夫婦に加えて高齢者の一人暮らし世帯も増加している。多くの高齢者が介護サービスを必要としている状況の中、単身の高齢者は遠方の家族とコミュニケーションもとれず、ほとんど誰とも会話をしないため認知症などの進みも速くなる。

 そこで西条市は、玉井市長が掲げる「健康都市の実現」というビジョンの実現に向けて、健康寿命を延ばしながら認知症の予防や寝たきりの予防を進める手段として「ロボットを活用したコミュニケーションの活性化」に取り組むことになった。2018年度に実証実験を行い、2019年度からはICTを活用し、安全・安心に豊かで快適な生活を送ることのできるまちづくりを進める「スマートシティ構築トライアル事業」の一環として位置付けている。

見守りに不可欠な機能をロボットに搭載

 一口にロボットといってもさまざまな種類がある。一般的には、以下のようなロボットが提供されている。

・産業用ロボット……農業用(無人コンバインや田植え機)、林業用(自動枝払いや下草刈り用)、工業用(溶接、塗装、組み立て、取り付け、検査、保安)、商業用(マネキン、自動運搬)など

・サービス用ロボット……看護用(移送、サービス)、救急用(火災現場の人命救助)、清掃(建物の清掃、廃棄物処理)、福祉(駆動系義手義足)、家庭用(防災、清掃、ペット)

・ペットロボット……AIBO(ソニー)、パロ(産業技術総合研究所)など

・ヒューマノイドロボット……ASIMO(ホンダ)、QRIO(ソニー)など

 用途や目的ごとに多種多様な種類があるロボットだが、西条市では、AI搭載のロボットを高齢者の見守りサービスに活用するという観点で検討を進め、NECプラットフォームズのコミュニケーションロボット「PaPeRo i(パペロアイ)」を選ぶことにした。会話ができるコミュニケーション機能が充実しているほか、簡単な操作性や外見の親しみやすさなどが選定のポイントとなったという。

 一般にロボットと言えば大型で武骨な外観をイメージしてしまうが、PaPeRo iは体長が約30cmで重さは約2kg。卓上に載るように小さく、丸い顔にぱっちり大きな目をした赤ちゃんのような風貌だ。単に「見守りロボット」という名称から連想するものとは異なり、カメラやマイク、センサーなど多彩な機能が搭載されている。主な機能は、次の三つが挙げられる。

■本実証実験で使用されたPaPeRo iの機能

・見守り機能
・コミュニケーション機能
・音声リクエスト機能

 各機能の概要は、下図の通りだ。

「従来から、センサーを介しての見守りや、ポットのお湯を使ったらその利用状況が家族の元に届くといった機器を介しての見守りスタイルはありました。通常のコミュニケーションロボットと言うと、ロボットと利用者との対話に限定して考えてしまいがちですが、PaPeRo iはインターネットを通じて遠方に住む家族とのコミュニケーションも可能にする点が大きな特徴です。コミュニケーション機能でロボットから家族へ高齢者の写真が送られ、その日の服装や表情などで高齢者の様子が分かり、遠方に住んでいる家族の心配も解消できる。家族から写真を見たよという通知が届き、双方で安心感につながる。こうした内容のシステムは全国でも多くないのではないでしょうか」(松尾氏)

2018年の実証実験を経て、本格稼働へ

 西条市では、PaPeRo iを10台用意し、2018年7月1日~9月30日までの3カ月間で実証実験を行った。60~90歳代の一人暮らしの高齢者と家族が参加した。

 実証実験は好評で、利用者へのアンケートによると、全員が「ロボットがかわいい」「親しみが持てる」と、家族との連絡手段以上に高齢者自身がコミュニケーションを楽しめることを評価していたという。高齢者だけでなく、離れて暮らす家族も親や祖父母の安否を日々確認できる、安心・安全な生活が確保できた、家族のコミュニケーションが活発になったなどの意見が寄せられ、高齢者の見守りに大変有効との評価が得られたそうだ。

 西条市は継続希望者に12月まで無償でサービスを提供し、2019年1月からは本格的に有償でのサービス提供を始めることを決めた。サービスはNECからのレンタル方式で、市はNECからのレンタルの受注を受けて高齢者の自宅に設置を行っているという。導入費用については、設定費などを含む初期費用の2分の1の価格である2万4,332円(税込)を市が負担し、月額利用料6,480円(税込)を利用者が負担する形で提供している。

 今後の有償サービス提供時の課題について、松尾氏は以下のように語る。

「こうした内容のサービスにかかる予算を市が全て負担することは、現実的には不可能です。そのため、事業者への予算は別途計上していますが、有償サービスについては市と利用者とで負担することになりました。サービス提供に際し、費用を利用者負担にして利用してもらえるかどうかが課題となりましたが、7世帯から引き続き利用したいとの希望がありました。予想以上の反応を得られたことで、中断しないことが大事だと考えて今年度の事業として引き継ぎました。アンケート結果などを確認して新しい機能を盛り込んで進化させていくことが当面の課題です」(松尾氏)

 高齢者の見守りは、世帯や自治体によって状況が異なる。西条市の取り組みは高齢者の見守りにおいて大いに参考になる事例だが、本取り組みはまだ周知が徹底しているとは言い難いという。

「まずはPaPeRo iの利用者を増やすことが重要です。市としては30台を準備し、ホームページやSNSを使ってPRしています。8月に愛媛県を直撃した台風10号による住民への多大な被害状況を見て、PaPeRo iを介して行政から防災情報なども発信できないかと痛感しました。今後は、高齢者の見守りという大切な役割を果たしながら、ICTの力を借りてさらに複合的な活用方法を導き出す必要があるでしょう」(松尾氏)

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