
2018年度のパブリッククラウド市場は6,165億円と伸張――MM総研の調査から
2018年度国内クラウドサービス市場は約1兆9,422億円
市場拡大の背景に基幹システムのクラウド化があり
多くの企業でクラウド利用が進んでいる。その実態を調査会社のMM総研が調査し、2019年版の国内クラウドサービス需要動向としてまとめている。2013年から6回にわたりクラウドサービス需要動向を調査し続けているMM総研の視点から、現在のクラウドサービスの国内市場について解説してもらった。
Lesson1 産学連携で進パブリッククラウド市場が大きく伸張
MM総研が2019年6月11日に発表した2019年国内クラウドサービス需要動向調査によれば、2018年度のクラウドサービス国内市場規模は前年比18.1%増の約1兆9,422億円。そのうち特に伸びが顕著であったのがパブリッククラウド市場で、前年度比34.1%増の6,165億円となった。プライベートクラウド市場は前年度比18.1%増の1兆3,257億円とパブリッククラウド市場ほどの伸びは見られなかった。この背景には、コストメリットを生かしつつ、柔軟な運用が可能なPaaS/IaaSに企業の主要なシステムや自社アプリケーション基盤を移行させる動きが目立っていることが挙げられている。
調査対象の国内法人ユーザーが回答した「PaaS/IaaSの主な用途」のうち、上位には「アプリケーション開発基盤の移行」や、「自社開発(独自)システムの移行」が並んだ。従来は閉鎖的環境下で使用されなければならないと考えられていた企業の基幹系業務を担うシステムが、本格的にクラウドに移行されている動きを反映する結果となっている。
これらの結果から、2023年にはパブリッククラウド市場が年平均成長率21.7%増の1兆6,490億円、プライベートクラウド市場が年平均成長率16.3%増の2.8兆円に拡大。クラウドサービス市場全体の規模は4兆4,754億円まで拡大することが見込まれている。
Lesson2 市場成長の背景にある3要素
過去のクラウドサービス市場の調査を担当したMM総研の加太幹哉氏は、このパブリッククラウド市場成長の背景を次のように指摘した。「この市場成長には三つの理由があります。まず一つ目に、クラウドに対するセキュリティの懸念が払拭されてきていること、二つ目に、クラウド利用に適したシステムの理解が進んだこと、三つ目に、オンプレミスからクラウドへのシステム移行が容易になってきたことです」
セキュリティに対する懸念解消については、パブリッククラウドベンダーが国内リージョンを開設したことで信頼性が高まったことや、信頼性を重視する金融機関がパブリッククラウドを採用したことなどが影響した。基幹システムなどもクラウドに移行できることが広く周知されたことも、普及が進んだ背景にある。
特にここ数年の動向では「オンプレミス環境をそのままクラウドに移行する“リフト&シフト”が行いやすくなったことや、オンプレミスとクラウドのハイブリッド管理がしやすくなったことで普及が促進されましたね」と加太氏。特に直近1年ではユーザー企業のクラウドに対する知見が広まり、普及が加速されたという。
Lesson3 オンプレミスからの移行先ニーズが高いAWS
本調査では、ベンダー別の利用傾向も公開された。それによると、PaaS/IaaSでAWS(Amazon Web Services)を利用しているという回答が約半数を占め、Microsoft Azureでは25%強という結果となった。クラウドサービス市場をリードするグローバルベンダーの寡占化が一層進んだ形だ。
2018年度の本調査を担当したMM総研の狩野 翼氏は、ベンダー別の動向について次のように話す。「AWSの特長として、企業がクラウドに乗せたい機能を作り込んでいる点があります。アプリケーション開発基盤やWebアプリケーションなど、既存のオンプレミス環境からクラウドへ移行する場合に選択しやすい点がメリットです。AzureはWindows Serverの移行先としてニーズがあり、PaaSの利用率を見るとAWSが47.7%、Azureが32.8%、GCP(Google Cloud Platform)が13.2%。IaaSはAWSが47.1%、Azureが25.6%、FUJITSU Cloudが9.5%となっています」
GCPは特に機械学習にクラウドを選択するユーザーが選択する傾向にある。ユーザー企業はクラウドベンダーごとの特長に対する知見を深めており、クラウドサービスの利用用途に応じたマルチクラウド化が進んでいる。
Lesson4 寡占化が進むグローバルベンダーと品質重視の国内ベンダー
狩野氏は「Azureの市場は年々伸びています。2013年当時は国内ベンダー含めて分散していましたが、昨今では国内クラウドベンダーが撤退するなど、グローバルベンダーの寡占化が進んでいます。今後、企業が利用を検討しているサービスを調査した結果を見ても、PaaS/IaaSともに上位2社はAWSとAzureです」と説明する。
しかし、例外もある。例えば研究機関など、扱う情報の機密性が高い場合は国内ベンダーのクラウドサービスを選択するケースも少なくない。クラウドベンダーのイメージとして、グローバルベンダーには「スタンダード」「最大手」という利用ユーザーが多いからこその信頼性があるが、国内ベンダーに対しては「安心感」や「サポートの充実」などに重きを置いて選択するユーザーが多いようだ。 「今後、基幹システムをクラウドで利用する流れはますます増えていくでしょう。SIerはそれぞれのクラウドをメリットデメリットに応じて選定するだけでなく、マイグレーションをしっかりと迅速に行えるかが重要になります。また、先日AWSの東京リージョンに大規模な障害が発生しました。国内ベンダーは品質を重んじるがあまり動きが遅くなる傾向にありますが、今回のような障害があると、品質を重視した国内ベンダーの見直しが起きる可能性もあります。日本のユーザーがどのクラウドベンダーを選択するのか、今後も長い目で調査していきたいですね」と狩野氏は語った。
本日の講師
(左)MM総研 研究員 狩野 翼 氏
(右)MM総研 研究部長 加太幹哉 氏
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