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アドビシステムズが推進するSTEAM教育――Adobe Education Forum 2019レポート

アドビシステムズが推進するSTEAM教育――Adobe Education Forum 2019レポート

2019年09月19日更新

学びの最先端はデジタル+クリエイティブへ
STEAMが育む創造的問題解決能力とは

Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)を統合的に学習する「STEM(ステム)教育」に、Art(芸術)を加えて提唱された教育手法「STEAM(スティーム)教育」に注目が集まっている。画像編集ツール「Photoshop」、写真編集ツール「Lightroom」、グラフィックデザインツール「Illustrator」などのクリエイティブツールを数多く提供しているアドビ システムズも、その芸術分野の重要性に着目し、世界各国で教育現場への取り組みを強化している。今回はアドビ システムズが開催した「Adobe Education Forum 2019」のイベントをリポートし、学校段階におけるSTEAM教育の事例を紹介する。

技術の課題を芸術で解決する

 アドビ システムズが、7月29日に教育関係者を対象としたイベント「Adobe Education Forum 2019」を都内で開催した。本イベントでは「創造的問題解決能力※を育むSTEAM教育」と題し、人材育成をサポートするSTEAM教育の在り方について、発達段階別での実践事例の発表や、高校生・大学生を対象とした実践的なワークショップも実施した。本記事では実践事例を中心に解説していく。

 まず小学校段階の実践事例として、CA Tech Kidsが実施した「Kids Creator’s Studioプロジェクト」から、プロジェクト参加当時小学校5年生だった1期生・高橋温さん(現在中学校1年生)および2期生・宮城采生さん(現在小学校1年生)が登壇した。Kids Creator’s Studioプロジェクトでは小学生を対象としたテクノロジー(技術)とクリエイティビティ(創造性)の双方から本格的な教育プログラムを提供する次世代クリエイター育成プロジェクトだ。高橋さんはスマートフォンで単語の暗記ができるアプリ、宮城さんは押し相撲ゲームアプリを開発し、それらをより見やすく、使いやすい(遊びやすい)ものにするためにアドビのアプリケーションを活用して洗練されたデザインのアプリケーションとなるようブラッシュアップを重ねていた。

 CA Tech Kids 代表取締役社長 上野朝大氏は「プログラマーでもデザイナーでもなく、テクノロジーを表現手段として使いこなして自分のアイデアを自

※「創造的問題解決」とは、アドビ システムズが定義した「創造性に富んだ革新的な手法で問題や課題に取り組む手法」を意味しており、直面する問題や課題を別の角度から見直すことで、従来にはなかったような対応策を見つけ出し、実際の行動に移す一連のプロセスを指している。

小学校段階の事例で押し相撲ゲームアプリを開発した宮城さん。

創造性に自信を持てないZ世代

 中学校段階の実践事例として、ライフイズテックの「Creative Project Based Learning」(以下、CPBL)から、福岡県の飯塚市、嘉麻市、桂川町の中学生(参加当時)がそれぞれ登壇した。CPBLは、経済産業省「未来の教室」実証事業に選定されている。

 ライフイズテックの取締役 讃井康智氏は「クリエイティブなチェンジメイカーが求められている現代において、日本のZ世代(12~18歳)は自分たちが創造的であると考えていません。また、作品を作れるという実感はOEDCの中で最下位とされています。当社ではITを使って何かを作ることで、実社会の課題に対してクリエイティブに問題解決をするCPBLの実現や、教具としてではなく文具としてITを利活用すること、一貫したチェンジメイカー育成モデルを確立させることを目指し、今回のプロジェクトを実施しました」と語る。学校現場では教員の校務負担の大きさが問題となっており、学校現場で全て対応するのではなく、地域の大学生をメンターとして起用し、地域ぐるみでのチェンジメイカー育成に取り組んでいくステップ作りも今回の実証事業の目的だ。

 そのテーマが、「地域の課題を中学生のアイデアで解決」だ。例えば桂川町の中学生グループは、「日本三大装飾古墳の一つ、王塚古墳の知名度が低く、名前をよく間違えられる!」という課題に対して、「王塚古墳は王様が眠る最高の場所(=古墳)であり、広いベッドや星空のような天井(=装飾)がある」という視点から、王塚古墳をホテルに見立ててPRするというアプローチ手法を思い付いたという。また、動画サイトへの広告動画作成や、そこから流入してきたユーザーをホテルの紹介ページのようなWebサイトへ誘導して興味を持たせ、実際に王塚古墳まで足を運んでもらうためのアプリ作成までをトータルで手掛けた。桂川町教育委員会からは「行政では思い付かないPR手法で子供たちの発想力に驚かされた。王塚古墳の魅力を掘り起こしてくれたと思います」とコメントが寄せられた。

中学校段階の事例で王塚古墳をPRした桂川町の中学生グループ。古代人の扮装をしている右端の男性は、メンターとしてグループを導いた大学生だ。制作した動画にも出演している。

正しく意図を伝えるビジュアル表現

 高等学校段階の事例として、アドビ システムズが主催するイベント「Make it! Student Creative Day」に参加した品川女子学院、東京都立新宿山吹高等学校、東京表現高等学院MIICAの生徒が登壇した。「世界を変える映画のポスターを作る」をテーマに、高校生の視点からどうポスターで表現するか、というプロジェクトになる。

 Make it! Student Creative Dayで高校生特別賞を受賞した品川女子学院は、クローンを題材にして「クローンで生み出された人間が同じクラスに在籍していたら」というストーリーを設定した。ポスター制作にあたっては、より「クローン」をテーマとした映画であることを伝えるために、キャッチコピーやタイトルの色合い、画像の明るさなどにこだわり、それらを加工編集するためにアドビのツールを活用したという。

 大学段階の事例では、学校教育の現場での活用事例が示された。登壇したアドビ システムズの近藤祐爾氏は「デジタルクリエイティブ基礎」という講座を合計6校で開講して講義を行っている。近藤氏は「ビジュアル表現は、ビジュアルコミュニケーション(視覚伝達)であり、例えばテキストのみの情報と、それを画像(写真)と組み合わせたり、レイアウトを変えたりしたものでは、コンテンツを受け取った側への伝わり方が変わります」と指摘する。

 本講座は一般教養科目として開講しており、芸術学部などの専門的な学部を対象とした講座ではない。つまり全ての学生に対して、デジタルクリエイティブによる表現手法の獲得が求められているということだ。

 実際にデジタルクリエイティブ基礎を開講している千葉大学の副学長(教育改革担当) 小澤弘明氏は「本校では数理・データサイエンス教育に力を入れており、2018年から普遍教育(教養教育)に『データを科学する』という科目群を開設しました。2019年4月からスタートした『デジタルクリエイティブ基礎』もその一つです。デジタルデータの可視化はどの学問分野にも必要であり、日本独自の“文理”の考え方はこの学びを阻害しかねません。今後はデジタルクリエイティブ教育を通じて学問の全体性(文理を横断した学び)の回復を図っていきたいですね」と語った。

クローンを題材とした架空の映画ポスターを制作した品川女子学院の生徒。
どの学校段階の事例でも、児童生徒たちは大人顔負けのプレゼンテーションを披露していた。

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