ホーム > PC-Webzineアーカイブ > 横浜市と東急電鉄らが進めるデータ循環型リビングラボ実証実験

横浜市と東急電鉄らが進めるデータ循環型リビングラボ実証実験

横浜市と東急電鉄らが進めるデータ循環型リビングラボ実証実験

2019年09月25日更新

「データ循環型のリビングラボ」でまちづくり活動を加速
~横浜市と東急など各4社、近代郊外都市の課題解決へ~

2019年6月15日から、横浜市青葉区の田園都市線「たまプラーザ駅北側地区」で地域住民と連携してまちの課題解決やコミュニティの活性化を目指す「データ循環型のリビングラボ」に関する実証実験が開始した。本実証実験は、横浜市、東急電鉄、NTT、NTTドコモの4社が進める共同事業として行われる。データ循環型リビングラボでは、どのような事業が推進されているのか。次世代郊外まちづくりの取り組みを探ってみた。
Text by 古俣慎吾 Shingo Komata

郊外型住宅地の課題解決に取り組む

 東急田園都市線は、東京都の渋谷駅から神奈川県大和市の中央林間駅までを結ぶ東京急行電鉄(以下、東急)が運営する全長31.5kmの鉄道路線だ。実証実験のモデル地域となるたまプラーザ駅は1966年に開業し、横浜市の最も北に位置する駅である。東急線の距離延長と沿線の宅地開発によって人口が増え、2018年度の1日の平均乗降人員数は約8万4,000人にも上った。各駅停車のほか、急行・準急も停車する駅で、駅周辺には百貨店、大型スーパー、ショッピングセンターなどの大型商業施設や店舗が集積し、東急、小田急、京浜急行、川崎市などが運営するバスターミナルもある。

 日本の総人口は2005年ごろから減少傾向に入っていると言われているが、田園都市線の周辺地域は2025年ごろまでは人口が増加すると予測される。そんな中、たまプラーザ駅北側地区(美しが丘1丁目~3丁目)でICTを活用した実証実験がスタートしたことは、近代の郊外都市の課題解決に向けた象徴的な事例と言えるかもしれない。

「本実証実験のきっかけとなったのは、2012年から横浜市と東急電鉄との間で公民共同事業として推進されることになった『次世代郊外まちづくり』の取り組みです」と語るのは、横浜市 建築局住宅部 住宅再生課担当課長の加藤忠義氏だ。
 政府は、世界的に進む都市化を見据え、環境や高齢化対応などの課題に対応しつつ、持続可能な経済社会システムを持った都市・地域づくりを目指す取り組みとして「環境未来都市構想」を2010年から進めている。その環境未来都市の一つとして、2011年に横浜市が選定された。同年、横浜市と東急電鉄は「郊外住宅地とコミュニティのあり方研究会」を立ち上げ、翌年に「次世代郊外まちづくり」の包括協定を締結し、たまプラーザ駅北側地区がモデル地域として選ばれた。

 大都市近郊の郊外型住宅地は都心へのアクセスがよく、生活を支える商業施設や教育環境も整っている。一方、田園都市線沿線は人口減少の傾向は見られない地域とはいえ、駅の開業からすでに50年以上が経過している。

「駅周辺の建物の老朽化、地域に住む人々の高齢化が着実に進み、若い世代の郊外離れも見られる。まちが活気を失い、衰退に向かうのではないかと危惧しています。たまプラーザ駅周辺がモデル地域に選ばれたのは、これからのまちづくりを考える上で活用できそうなデータや資源をたくさん所有していることが背景としてありました」(加藤氏)

データ循環型のリビングラボ実証実験へ

 これまでの次世代郊外まちづくりでの主な取り組みを紹介しよう。

①次世代郊外まちづくりの基本構想の策定……産学公民が連携して良好な住宅地とコミュニティの持続・再生を目指すまちづくりに取り組むためのビジョンを策定

②住民創発プロジェクトの実施支援……豊かなコミュニティの実現につながる企画を地域住民やNPO団体から募集、15企画を認定

③「WISE Living Lab」の全体開業……健康づくりに関するセミナー、イベント、ワークショップなどを通じ、郊外型住宅地再生への取り組みを進める拠点として活用

④美しが丘一丁目計画の推進……2019年春に共同住宅・地域利便施設からなる施設がオープン。「コミュニティ」「子育て」「コワーク」をキーワードに、住まいから歩ける範囲に暮らしに必要な機能が整い、誰もが安心して住み続けることができる街を目指す取り組み「コミュニティ・リビング」を推進

 こうした、多彩な取り組みを経て新たなステージを迎え、2019年の「データ循環型のリビングラボ」共同実証実験に結び付いている。

「本実証実験は、従来取り組みに参加していた横浜市と東急電鉄にNTTとNTTドコモが加わり、まちに関するデータを活用し、地域住民が主体となってまちの課題解決への取り組みを支援する活動です。自治体の活動状況や関心事、イベント情報などまちに関するデータの収集や分析が、まちの課題解決にどのようにつながるのか検証したり、そのデータを活用して新しいサービスを提案したりします。協定期間の2020年3月31日までの間で実験的に取り組む試みです」(加藤氏)

 本実証実験でNTTとドコモが参加した背景としては、従来から2社ではまちのデータを収集・可視化してコミュニティ活性化につなげるプロジェクト「IoTスマートライフ」や住民と企業が競争するリビングラボの研究など、ICT、IoT技術の開発や研究を進めていた状況がある。そうした取り組みを行う中、次世代郊外まちづくりなどで住民主体のまちづくりを進めている横浜市田園都市線沿線地域の活動に注目し、地域団体や地域住民と話し合い・検討を行い、実証実験への参加となった。

リビングラボの仕組み構築と検証へ

 リビングラボは、EU各国政府が支援している市民参加型の共創活動のことだ。本実証実験で行われる「データ循環型のリビングラボ」は、住民が主体的にまちのデータを収集・共有・活用するサイクルによって、まちの課題解決や活性化に向けて住民と企業が共創活動を行う仕組みと位置付けている。下図のフロー内にある検証内容と期待する効果は、以下の通り。


■本スキームの検証内容と期待する効果
(1) 検証内容:住民主体の活動を生み出す効果、データを活用したワークショップが住民の議論を活性化させる効果
(2)ICTサービスの検証

①楽しく安全にまちを歩くためのまち歩きサービス:まちの情報や写真をデジタル地図上に投稿。住民のおすすめスポットやバリアフリー情報などを可視化・共有してコミュニティを活性化

②地域のローカル情報を提供するチャットボット:地域の暮らしに役立つ情報やイベント情報などを会話形式で提供。質問内容などを分析し、コミュニティの活性化や住民の問題を明確化

 こうしたデータ共有やサービス改善の取り組みを契機として、住民による新たな活動が進むと同市では見込んでいる。 

「リビングラボは課題解決の一つの手段ですが、今回の実験はまちに関するデータを収集し、①~⑥(下図参照)までのプロセスをどのように循環させ、課題解決に結び付けるかがテーマです。そのために『データ循環型』と呼んでいるのです。NTT、NTTドコモが加わって新たな切り口をそろえ、楽しく安全にまちを歩くためのまち歩きサービスや地域のローカル情報を提供するチャットボットなどサービスの具体化が進んでいます」(加藤氏)

 6月15日には、 神奈川県横浜市青葉区美しが丘2丁目にあるWISE Living Lab 共創スペースでキックオフイベントを開催。実証実験の目的や内容の説明、チャットボットのデモ体験などが行われ、参加者が「リビングラボでやってみたいこと」や「リビングラボを通じてどんなまちになるといいか」などを話し合った。

「実験はスタートしたばかり。循環型の取り組みをくり返し行うことで、課題とその解決方法が導き出されてくると当市では考えています。実験結果を基にサービス共創手法を確立させ、田園都市線より外の他のまちにも取り組みの拡大を目指します」(加藤氏)

キーワードから記事を探す