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福島県会津若松市が進めるデータ駆動型都市の取り組み

福島県会津若松市が進めるデータ駆動型都市の取り組み

2019年08月28日更新

ICTによって「市民の地元定着」と「人材育成」を推進
~会津若松市が描くスマートシティ構想~

今年4月、福島県会津若松市の中心部に、同市が進めるスマートシティ構想の拠点オフィス「スマートシティAiCT(アイクト)」がオープンした。同市では、都市を人材やデータが集積するプラットフォームと捉え、データ駆動型都市としてブランド化することを目指している。全国の都市で取り組みが進むスマートシティ化だが、会津若松市のICTの取り組みの特徴は「市民の地元定着」と「データ分析の人材育成」に力を注いでいることだ。先進的な事例が注目を集める同市の取り組みを紹介する。
Text by 古俣慎吾 Shingo Komata

人口減少に強烈な危機感

 スマートシティ化とは、さまざまな分野でICTを活用して産業創出や人材育成を進め、安心して快適に暮らせるまちづくりに取り組むことだ。多くの自治体でスマートシティへの取り組みが進められているが、そのほとんどがエネルギー、医療、交通など個々のテーマに沿って行われるプロジェクトが多い。

 そうした状況の中、会津若松市でもICTやデータ分析によるスマートシティ化の取り組み「スマートシティ会津若松」を進めている。同市のスマートシティに関する取り組みについて、「着実に成果が現れ、さまざまな分野で仕事や生活に貢献しています」と語るのは、会津若松市役所 企画政策部の企画調整課でスマートシティを担当している五十嵐徹氏だ。

 五十嵐氏によると、会津若松市のICT推進の取り組みは、ITやスマートシティという言葉が今ほど普及していなかった1990年代半ばにスタートしていたのだという。

「会津若松市は、人口およそ12万人のまちですが、1995年に人口のピークを迎えてから減少し続けています。日本の人口のピークは2008年ごろでしたが、当市はそれよりも以前にピークを迎えていました。このまま人口減少が続けば、さらに少子高齢化が進むでしょう。当市では、国内の深刻な人口減少の課題がほかの自治体の中でも一番早く進むことに強烈な危機感を持っていました。また、1993年に、ICT専門の大学である会津大学の開校をきっかけに、大学と行政で連携しながら、若者が会津若松の地に定着するような施策を考え始めていた状況もありました。こうした背景から、当市では全国に先駆けてスマートシティ化に着手したのです」

市民の地元定着への取り組み

 スマートシティの先進自治体である会津若松市は、その取り組みについてWebサイトで積極的に情報を発信しているという。同市の企画調整課によるスマートシティ会津若松の紹介ページでは、目的と効果について次のように述べている。

■スマートシティ会津若松の目的と効果

①地域活力の向上
・会津大学、産学官が連携した取り組み
・地元企業の「しごと」の拡大や技術の高度化
・ICT関連産業の集積→地域産業の成長や雇用の維持拡大などの経済効果を創出

②安心して快適に生活できるまちづくりの推進
・閲覧者の登録情報に応じて地元の新聞記事やスーパーマーケットの情報などおすすめの情報を表示するホームページ「会津若松+(プラス)」
・スマホで母子手帳の情報が見られる「母子健康情報サービス」を提供
→より便利で安心して快適に生活できるまちづくりを推進

③まちの見える化
・住民情報を地図上に表示し、バス路線を最適化
・IoTやセンサー技術の活用で道路や橋などの劣化状況のデータを収集、分析して補修工事に活用
→市民サービスの向上やまちづくりに活用

 会津若松市ではその後も、ほかの地方都市と同様に少子化と若い世代の流出による人口減少が続いていた。2035年ごろの同市の総人口は、10万人割れが予想されているという。このまま人口減少が進み、地域の活力の維持が困難になる状況を危惧し、同市では2015年に人口10万人を維持することを目標に掲げた「会津若松市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定した。さらに、スマートシティ会津若松と会津若松市まち・ひと・しごと創生総合戦略で連携し、ICT関連産業の集積、「ひと」の地元定着を目指して地方創生に取り組むこととした。右上図が取り組みの詳細だ。

データを分析する人材の育成が急務

 こうした取り組みの中で特に力を入れているのが、ICT関連産業を集積した仕事づくりとデータを分析する人材の育成だと五十嵐氏は説明する。一体なぜなのか。

「ICT関連産業の集積による仕事の創出やデータ分析を行う人材の育成は、会津若松市でできる仕事だからです。いま、データ分析に関しては国内企業で人材が不足しており、海外企業によってデータ分析が行われる事例もたくさんあります。ただ、海外企業にデータ分析を委託すると国内の大事なデータや技術力の流出にもつながります。各企業とも、国内で分析することが大事だといいます。ただしICTに関する仕事が少ない地域では、それが難しい。しかし当市には、ICT専門の勉強ができる会津大学があります。そしてデータ分析などを勉強した人材が地元で就職できるよう、データ分析に関する仕事を会津の地に持ってくることで、会津若松で若い人材がICTを生かした職に就くことができます。このような理由から、データ分析の取り組みに力を入れているのです」(五十嵐氏)

 このように、アナリティクス人材の育成に注力し、データとICTを活用した同市のスマートシティ構想を「データドリブン・シティ(データ駆動型都市)」と呼んで評価している研究機関もある。データドリブン・シティとは、データを駆使して市の現状・課題を見える化できる都市だ。市民がメリットを感じる施策にデータを生かす。会津若松市は、データドリブン・シティとして新たな産業や人材の集積拠点のモデルを目指す。この取り組みで得た知見を同じ課題を抱える地域に共有する狙いもある。

「ほかの自治体で、特にスマートシティを標榜していなくても、ICTやデータ分析を使った取り組みを進めている地域はたくさんあります。データドリブン・シティがいいのか、アナリティクス人材の育成なのか、あるいはデータサイエンティストの育成がいいのかなど、目的は地域ごとで多岐にわたっているでしょう。当市としては、分かりやすい言葉で、データ分析を行う人材の育成に力を入れ、雇用創出や若者の地域定着を進めていくこととしています」(五十嵐氏)

「スマートシティAiCT」で就労人口を拡大

 2019年4月には、地域の雇用創出や若者の地域定着、そしてICT関連企業の集積を目的としたオフィス環境である「スマートシティAiCT(アイクト)」が、会津若松市東栄町にオープンした。企業就労者が入居する3階建てのオフィス棟と、地域住民や観光客などの交流の場として利用できる交流棟で構成され、オープン時の入居企業は17社(約400人)だった。将来的には、入居者数500人を目指すという。スマートシティAiCTについての現時点での課題を、五十嵐氏は次のように話してくれた。

「ようやく500人規模の収容が可能なオフィスが創設され、スマートシティ化が進んでいます。この取り組みを一過性のものにしてしまうのでなく、引き続きここを拠点とした関連企業の集積や、就労人口の拡大の取り組みを進めていくことが現時点で最も重要な取り組みだと考えています」

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