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北九州市の行政事務効率化に向けたパブリッククラウド活用実証実験

北九州市の行政事務効率化に向けたパブリッククラウド活用実証実験

2019年07月26日更新

北九州市、パブリッククラウド活用に関する実証実験を実施
~文書事務の効率化と共同利用化の実現へ~

北九州市は、日立製作所(以下、日立)と共同で、今年の2月から3月にかけてパブリッククラウドの活用に関する実証実験を行った。その内容は、パブリッククラウドと庁内システムの安全な接続方式の検証と、庁内の文書事務を効率化する新たなアプリケーションの構築に向けた検証だ。北九州市におけるパブリッククラウド利用の現状、課題を改めて調査してみた。
Text by 古俣慎吾 Shingo Komata

パブリッククラウド上でのセキュリティ強化

 近年、地方公共団体においては、行政事務のデジタル化推進やクラウドサービスの利活用の検討が急務となっている。

 そうした現状で北九州市では、文書の電子化や共同利用化の促進に向け、「地方公共団体事務の利便性向上に係るパブリッククラウド利用の検討及び事務アプリケーション共同利用化に向けた実証実験(以下、実証実験)」が行われた。概要は以下の通り。

■北九州市が行っている実証実験の概要
①パブリッククラウドと庁内システムとの安全な接続方式の検証
②庁内文書事務の見直し(文書事務見直しプロジェクト)……市民がインターネットを介して行政文書目録を検索するシステムの開発、紙文書の電子化・ペーパーレス化、文書事務の効率化(作業削減)など

 北九州市 総務局 情報政策部 情報政策課 情報政策担当係長の髙尾芳彦氏は、パブリッククラウドと庁内システムとの接続方式を検証しようとした背景として、総務省が提唱した「三層の構え」があったという。三層の構えとは、2015年の日本年金機構の情報漏えい問題を経て、総務省が推進してきた自治体の情報セキュリティ対策を行う際の基本的な考え方だ。

■自治体情報セキュリティ対策における「三層の構え」
・マイナンバー利用事務系ネットワークの分離
・LGWAN(総合行政ネットワーク)環境の確保
・自治体情報セキュリティクラウドの構築

「総務省の提唱により、全国の自治体で情報システムのセキュリティを強靱にしようとネットワークを三層に分割する取り組みが進んできました。その結果、セキュリティの向上が実現した一方で、庁内と外部とのネットワーク分離によってインターネット経由のサービスにおける利便性が低下しています。現在、アマゾン・ドット・コムやグーグルなどからメガクラウドと呼ばれる従量課金制のサービスが提供されています。情報システムの開発・運用コストを削減したい地方自治体にとっては、従来のオンプレミス主体のシステム構築ではなく、安価なパブリッククラウドサービスを利用することが一つの改善策であると考えたわけです。しかし、地方自治体が庁内のネットワークからパブリッククラウドを積極的に利用するためのガイドラインや情報セキュリティ要件についての明確な規定がありません。そこで当市では、ほかの地域よりも先行して本実証実験を行うことにしたのです」(髙尾氏)

日立のLGWAN-ASPサービスを活用

 パブリッククラウドと庁内システムとの連携の検証方法としては、北九州市のLGWAN接続系の業務システム環境とアマゾン・ドット・コムのパブリッククラウドサービス「Amazon Web Services(以下、AWS)」のIaaS/PaaS環境を接続して、有効性を検証した。AWS上でネットワーク環境を分離できる仮想プライベートクラウドサービス「Amazon Virtual Private Cloud (以下、Amazon VPC) 」を利用することで、ウイルスの感染を防ぎながら庁内データと外部サービスを連携させたのだ。通信の連携には、日立の「地域IoT連携クラウドサービス」が利用された。

「庁内データと外部サービスの接続については、LGWAN-ASP(LGWANを介して、地方公共団体の職員に各種行政事務サービスを提供するプロバイダー)を経由してバックエンドのパブリッククラウドをどう使えるか、LGWAN-ASP事業者のセキュリティ対策機能をどう使えるかも含めて利用するアプリケーションを検討しました。当市のシステム基盤と文書管理システムの運用・保守を担っている日立に相談したところ、2018年からLGWAN-ASPとして『地域IoT連携クラウドサービス』を提供しているとのことだったので、同サービスを活用して実証実験をしてみることにしたのです」(髙尾氏)

 実証実験では、日立の地域IoT連携クラウドサービスを利用して、情報セキュリティの要件(ウイルス、不正アクセス、情報漏えいなどの防止)を満たした安全なデータの送受信が行えるかどうかを検証した。

文書目録検索システムで文書の捜索を容易に

 文書事務見直しプロジェクトの検証には二つの柱がある。一つは市民が外部から利用できる文書目録の検索ツールだ。

「庁内の文書管理システムで管理している行政文書の件名を外部からインターネットを通じて検索できれば、『こんな文書を見たい』といった情報公開請求手続きを行う際の該当文書の特定が楽になり、市民サービスの向上となります。実証実験では、インターネットの端末から行政文書目録を検索できるプロトタイプシステムを構築し、情報政策部門で操作し、検索できることを確認しました。今後は、行政文書の制度管理を行う部門や情報公開制度を運用している部門と調整し、市民サービスとして提供できる方法を具体的に考えていきます」(髙尾氏)

 文書事務見直しプロジェクトのもう一つの柱は、紙文書の電子化・ペーパーレス化だ。従来、紙や電子など各部署が個別で保管してきた文書をAI、OCR、RPAなどの技術を組み合わせて、紙文書の属性情報を自動抽出して電子化するほか、Amazon VPC上に新たに構築する文書検索閲覧システムにLGWAN経由で登録・管理できるようにし、文書管理の効率化を行うというものだ。

 北九州市 総務局では、行政文書管理事務を見直し、職員が本来業務に集中できるように事務の効率化を進めるべく、昨年6月に「仕事見直し推進本部」が設置され、ワーキンググループとして「文書事務の見直しWG」も立ち上がった。その中で行政文書の適正管理をしつつ、事務の効率化を図るためのコンテンツである「文書検索閲覧システム」によって文書を電子的に一元管理することになった。これにより、文書を文書保管箱から探す手間などが減らせるという。このようにして、実証実験を行う以前から、当市では文書電子化・一元管理を推進する取り組みを行っていたのだ。

システムのブラッシュアップが課題

 実証実験は、今年の2月1日~3月31日の間に実施された。その結果、二つの課題が挙げられると髙尾氏は話す。

「1カ月間という短期間でアプリケーションを構築し、実装するという実験でしたが、基本的な部分でシステムが“動く”ことは確認できました。しかし、アプリケーションの構築に関してはプロトタイプにとどまっています。パブリッククラウド上のさまざまなAIサービスを利用して、検索閲覧システムの機能を強化していくことが今後の一つ目の課題です」(髙尾氏)

 もう一つの課題は、AWS以外のパブリッククラウドサービスの利用検討や、費用対効果の検証だ。
「パブリッククラウド上に構築したシステムを職員に試用させることでデータを取得し、クラウドの利用料などの試算を行います。費用対効果が出る確証が得られれば、全庁での本格導入に進めます。今回はスモールスタートとなりましたが、実験結果を基にスピード感を持って取り組んでいきたいですね」(髙尾氏)

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