ホーム > PC-Webzineアーカイブ > オリンピック開催に向けた埼玉県のキャッシュレス化実証実験

オリンピック開催に向けた埼玉県のキャッシュレス化実証実験

オリンピック開催に向けた埼玉県のキャッシュレス化実証実験

2019年06月27日更新

埼玉県秩父地域でキャッシュレス化の実証実験を開始
~「現金大国日本」で見えてきた課題とは?~

埼玉県秩父地域でQRコード決済を活用したキャッシュレス化の実証実験が進められている。期間は2019年2月1日から6カ月間。利用できるサービスはLINE Pay、PayPay、楽天ペイ、Origami Payの四つだ。秩父地域の各商店、横瀬町の氷柱などの観光施設、秩父鉄道や西武鉄道などの交通施設などで導入が進んでいる。他県の地方自治体でも導入が盛んなキャッシュレス化の現状について、埼玉県の実証実験から課題などを探ってみた。
Text by 古俣慎吾 Shingo Komata

日本のキャッシュレス決済比率は約20%

 テレビや新聞、Webサイトで「キャッシュレス」に関する情報を目にしない日はない。日々、キャッシュレスの新しいサービスが始まり、関連事業者はその売り込みとユーザー獲得にしのぎを削っているようだ。

 日本は、元々「現金大国」と呼ばれるほど現金支払いの文化が根強い。キャッシュレス決済比率が約90%の韓国、50%前後の米国や中国に比べると圧倒的に現金派が多く、日本のキャッシュレス決済比率は約20%にとどまっている。なぜこれほどキャッシュレスが浸透しないのか。この理由には、日本特有の背景があった。

■日本でキャッシュレスが普及しにくい背景
(出所:経済産業省「キャッシュレスの現状と今後の取組」2018年5月発表)
・盗難の少なさ、現金を落としても返ってくる治安の良さ
・偽札の流通が少なく、紙幣がきれい。現金への高い信頼性
・店舗の「POS(レジ)」の処理が高速かつ正確。店頭での現金取扱いが丁寧
・ATMの利便性が高く、現金は入手が容易
・使いすぎなどへの不安感
・店舗の端末設置コストの問題
・ネットワークへの接続料、加盟店手数料

 このように、現金に対してはプラスの印象があり、その理由として国内の治安の良さや流通している通貨への安心感・信頼感などが挙げられた。キャッシュレスに対しては、使い過ぎへの不安や利用店舗側の導入時のコスト構造の問題などマイナスな印象が挙げられ、消費者・利用店舗それぞれに不安を抱えているのが現状だ。

事業者・利用者相互に付加価値の享受を目指す

 政府は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に訪日外国人旅行者数を4,000万人とし、観光客の消費によって8兆円規模の市場を生み出すことを目標とした「観光立国」に関する政策も進めている。

 しかし国内の実情は、前述した通り外国人観光客がキャッシュレス決済をスムーズに行える環境作りが遅れている。オリンピック開催時の外国人観光客への対応においても、キャッシュレス化は重大な急務と言える。これらの課題を受け、経済産業省は、2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を発表した。これにより、2027年6月までにキャッシュレス決済比率を今の決済比率の2倍の4割程度を目指すとしている。さらに、キャッシュレス・ビジョンを踏まえ、キャッシュレスを通じて顧客データなどを利活用し、実店舗、消費者、支払いサービス事業者が互いに付加価値を享受できる社会の実現を目的とした「キャッシュレス推進協議会」を2018年7月に設立した。

■キャッシュレス推進協議会の主な活動
・ビジネスモデル変革のための環境整備……実店舗等がコスト負担している支払手数料のあり方を検討
・サービスの統一規格や標準化等の整備……QRコード等のキャッシュレス支払いに関する技術的仕様の標準化
・データ利活用によるビジネスモデルの促進……キャッシュレス支払いを通じて新たに生み出されるデータを分析、利活用する新たなビジネスの創造等、ビジネスモデルのイノベーションを喚起する取り組み

 少子高齢化や労働者人口減少の時代を迎え、生産性向上が喫緊の課題となる中で、キャッシュレス推進は実店舗などの無人化・省力化、不透明な現金資産の可視化・流動性向上、不透明な現金流通の抑止による税収向上につながると言える。また、支払データの利活用による消費の利便性向上、消費の活性化や国力強化など、さまざまなメリットが期待される。

東京オリンピック開催に向けたQRコード決済

 こうした国の意向のもと、全国の自治体でキャッシュレス化の動きが始まっている。

・茨城県……2019年2月に行われた偕楽園(水戸市)の梅まつりで、QRコードを活用したスマートフォン決済の実証実験
・神奈川県……2019年1月から自動車税など3種類の県税がスマホ決済サービス「LINE Pay」に対応
・大分県……2018年12月25日~2020年3月31日まで8社の決済事業者を選定し、店舗側が負担する手数料の割引などにおいて県限定の優遇プランを採用
・福岡市……2018年6月からキャッシュレス決済の実証実験を開始。公共施設や商店街の店舗に加え、タクシーや屋台でも導入

 では、埼玉県の場合はどうか。県がQRコードを利用したキャッシュレス化実証実験に取り組んだ背景を、企画財政部改革推進課主査の的場啓祐氏は次のように説明する。

「埼玉県でも少子高齢化が進み、サービス産業への就労者が少なくなる中で、まず生産性の向上を目指したいという課題がありました。さらに身近な背景として、ラグビーワールドカップや東京オリンピック・パラリンピックにおいて埼玉県が開催場所であることが挙げられます。インバウンドの観点からキャッシュレス化の推進が必須なのです。実証実験にあたり、QRコード決済を選んだ理由としては、全国各地の自治体がQRコード決済を導入し始めている状況だったことがあります。私たちとしては、QRコード決済による効果や問題の明確化を目的として、検証・開発しながらシステムの構築を進めていきたいと考えています」

関心は高いが利用状況はばらついている

 実証実験が始まって3カ月。どのような動きが明らかになってきたのだろう。

 まず、実証実験への参加件数について。昨年12月の申し込みの段階では132件だったが、実験途中でも店舗の参加を促しており、3月末までで506件に増えている。

「導入企業側の関心は高いようです。上田清司知事が秩父エリアで実証実験を行うと記者会見で発表したこともあり、連日、さまざまなメディアに取り上げられました。それを見て、自分のところでも始めてみようという店舗が増えているようです。導入店舗が500件以上に増えたので、今年の4月初め、ヒアリングに行ってみたのですが、実はあまり使われていないということが判明しました。店によっては直近1カ月の利用件数が30件、80件程度の店舗もありました。そのような状態では、当初期待したような結果が出てくるかどうかは心配です。課題や目標を検証するためには、もう少し時間とデータが必要になりそうです」(的場氏)

 現状としては、秩父地域での実証実験は知られていても、QRコード決済を利用できる店舗などが知られていないことも判明したという。そのため、観光客への徹底周知が必須となる。

「今後は、利用促進のための広報活動や、どこでどのようにQRコード決済を取り扱っているかといった情報発信の頻度と量を高めていくことが喫緊の課題と言えるでしょう」(的場氏)

キーワードから記事を探す