
法人ニーズが高まるソニーモバイルとNECのヒアラブルデバイス
Special Feature 2
hearable device
声で操作が新たなスタンダードに
VUI(Voice User Interface)ビジネス最前線
キーボードで文字を入力したり、指でタッチ操作したりするUIは、すでに我々の生活に浸透している。さらに、昨今では音声でデバイスを操作したり、音声から情報を取得したりする音声UI(Voice User Interface)のニーズが増加傾向にある。スマートスピーカーを中心にコンシューマー市場に広がっているVUI市場は、ビジネスシーンにおいても新たな商機を生み出そうとしている。注目を集めているのが、イヤホンのように耳に装着する“ヒアラブルデバイス”だ。
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Xperia Ear Duo
常に傍らにいるアシスタント
スマートフォンやタブレットのブランド名として知られている「Xperia」。開発に携わるソニーモバイルコミュニケーションズでは、Xperiaブランドのヒアラブルデバイス「Xperia Ear Duo」を“スマートプロダクト”として提供している。
周囲の人と共存するスマートプロダクト
Xperia Ear Duoはワイヤレスイヤホンのような形状をしたデバイスだ。しかし、外の音をほぼシャットアウトするカナル型やインナーイヤー型のイヤホンとは異なり、Xperia Ear Duoではオープンイヤースタイルを採用している。ドライバーユニットを耳の後ろに配置し、音導管を通して鼓膜にダイレクトに音を届ける独自の音導管設計によって、周囲の音と機器からの音を重ねて聞けるのだ。
Xperia Ear Duoは耳を下から挟むように装着する“下掛けスタイル”で利用する。正面から目立ちにくく、眼鏡をかけていても干渉が少ない。耳への負担も少ないため、快適に装着できる。
Xperia Ear Duoを開発した経緯について、ソニーモバイルコミュニケーションズ 商品企画 八木 泉氏は「コミュニケーションの未来を想像したときに、現在のスマートフォンの使われ方に問題意識を持ったことがきっかけでした」と話す。
「当社はスマートフォンを開発していますが、カフェで友人と話していたり、自宅で家族の団らんの場であったりしたときでも、スマートフォンを手にしていたり、画面に集中していたりします。私たちが作りたかった未来はこうではないと考え、周囲の人とうまく共存できるデバイスを提案できないかと開発に取り組みました」(八木氏)
前述したように、Xperia Ear Duoでは周囲の音声と端末からの音声を同時に聞ける。その仕組みも、八木氏が述べた「周囲の人と共存するデバイス」に基づいた設計だ。操作は、音声またはヘッドジェスチャーによって直感的に行え、Xperia Ear Duoと接続したスマートフォンの通話や発信、メッセージ送信や音楽再生が可能だ。例えばSMSの読み上げや不在着信の確認、スケジュールの確認などが発話しただけで可能になる。
(左)ソニーモバイルコミュニケーションズ ソフトウェア設計 廣瀬洋二 氏
(右)ソニーモバイルコミュニケーションズ 商品企画 八木 泉 氏
マルチタスク処理を音声がサポート
ソニーモバイルコミュニケーションズ ソフトウェア設計 廣瀬洋二氏は「耳に付けるデバイスとVUIは非常に相性がいいです。情報を音声で取得しやすく、発話による操作もしやすいのです。本製品には『デイリーアシスト機能』を搭載しており、内部に搭載されたセンサーからユーザーの状況に合わせた情報を音声で届けてくれます」と語る。
デイリーアシスト機能は、例えば朝の通勤時に天気や、その日の一言、最新のニュースなどを読み上げる。スマートフォンのセンサーと連動して位置情報も取得するため、オフィス到着時に次のスケジュールの読み上げも行う。
八木氏は「このようなスマート機能は、業務でマルチタスクを行うビジネスパーソンにとって高い利便性があります。デスクで集中して作業している場合でも、次の打ち合わせの予定を教えてくれたり、重要なメッセージの着信を通知してくれたりするので、作業しながらでも重要な情報を見逃さずに済みます」と、実体験に基づくメリットを話す。
Xperia Ear Duoは当初コンシューマー向けに提供され始めた製品だが、八木氏が話すようにマルチタスクが求められるビジネスパーソンなど、ビジネス向けにも幅広い活用が期待できる製品だ。実際、日本航空(以下、JAL)ではXperia Ear Duoを活用して、業務改善および効率化の実証実験を2018年に実施した。「Xperia Ear Duoにはユーザー同士でトランシーバーのように通話できる『Anytime Talk』機能を搭載しており、客室乗務員同士でコミュニケーションがとれます」と廣瀬氏。
JALでは、従来客室乗務員間でのコミュニケーションは固定されたインターフォンを使用するか、直接口頭で実施していた。そのため、リアルタイムな情報共有が行えないという課題があった。Xperia Ear Duoは、そういった情報共有の課題を解決し、業務効率を向上することを目的に導入された。耳に装着していても、直接口頭で話す声も、トランシーバーからの声も聞き取れる点や、旅客に対応していても違和感のないデザインである点なども、実証実験のデバイスとして採用された背景にある。
JALの実証実験で利用された様子。口頭での会話と、Xperia Ear Duoを通じたコミュニケーションの両立が可能だ。
音声のAR体験が広げるビジネスの可能性
Xperia Ear Duoは福祉の用途にも活用されている。視覚障害者が1人でも安心して外出できることを目指したサービス「VIBLO by &HAND」では、ビーコンが埋め込まれた点字ブロック、スマートスピーカー、そしてXperia Ear Duoが連携し、目的地まで音声で道案内をしてくれる。耳から感じる新しい庭園体験として八芳園の庭園散策イベントでも採用されており、現実世界と仮想空間の音声を重ね合わせる“音声によるAR体験”によってビジネスチャンスがさまざまな分野で生まれつつある。
廣瀬氏は「BtoBからの引き合いがこんなに多いとは想定していませんでした。オープンイヤー型で各種センサーを搭載しているデバイスはほとんどありませんから、ニーズに応じたカスタマイズなどにも対応しながら、音を重ねる世界を広げていきたいですね」と語る。特に、常に耳に装着しているデバイスがオープン型であるメリットは大きいようだ。カナル型のように耳をふさぐ製品は、自分の声や、ものを食べるときの咀嚼音が反響するため、不快感を持つユーザーも少なくないのだ。
パートナー企業からはソニーモバイルコミュニケーションズが想定もしていなかった活用事例なども挙がってきており、今後も活用が拡大していきそうだ。
八芳園での庭園散策イベントでもXperia Ear Duoが採用された。鳥の声や滝の音、葉の音など実際には存在しない庭園の音や音声ガイドを現実に重ね合わせる“音声AR”体験を楽しめる。
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ネックバンド型ヒアラブルデバイス
耳による生体認証でセキュアに活用
業務活用に適したヒアラブルデバイスを開発しているのはNECだ。イヤホンに類似したマイク一体型のスマートデバイスで、マイクやスピーカーに加えて、顔の向きや姿勢、移動情報などの常時検出が可能な9軸モーションセンサーを搭載している。
次世代のコミュニケーションデバイス
NECがヒアラブルデバイスの開発検討をスタートしたのは2015年ごろのこと。スマートフォンに音声アシスタントが搭載されるようになるなど、音声認識とAIエージェントを組み合わせたサービスが実用段階に入ったことや、コミュニケーションロボットが発売されて大きな注目が集まったことが背景にある。
NEC デジタルプラットフォーム事業部 マネージャー 田中裕一氏は次のように語る。「スマートフォンが広く普及しましたが、『ディスプレイというインターフェースを前提に、指で操作して情報を取得するスタイルは、人間の最終的なライフスタイルなのだろうか?』という疑問がありました。そこにロボットやAIアシスタントが登場してきたことで、コミュニケーションの次の世代が構築されるのではないか、という新たな幕開けを感じたのです」
ロボットや音声認識装置なども検討したが、より“現場で使えるデバイス”を前提に考えたときに、ヒアラブルデバイスに行き着いた。
NEC デジタルプラットフォーム事業部 マネージャー 大杉孝司氏は「当社では2016年に、長岡技術科学大学の協力により、人間の耳穴の形状によって決まる音の反響を用いた新たなバイオメトリクス個人認証技術の開発に成功しました。この技術とコミュニケーションツールとしてのイヤホン形状を組み合わせることで、新たなコミュニケーションデバイスになり得ると考えました」と語る。
(左)NEC デジタルプラットフォーム事業部 マネージャー 大杉孝司 氏
(右)NEC デジタルプラットフォーム事業部 マネージャー 田中裕一 氏
業務利用に適した個人認証を耳で実現
バイオメトリクス個人認証技術は、マイク一体型イヤホンを耳に装着し、耳の穴で反響したイヤホンの音をマイクから収集することで、個人特有の耳の形状によって決まる音響特性を1秒程度で瞬時に測定する。音響特性から個人の判別に有効な特徴量を抽出する独自技術によって、認証率99%以上の高精度な認証を高速に行えるというものだ。
この個人認証によって、例えば搭載されているAIアシスタントが個人を認証し、パーソナライズされた情報を提供する仕組みが作れる。田中氏は「今のAIは誰が話しているのかを正確には理解していません。パーソナライズされた正しい情報を受け取るためには、耳による生体認証が確実です」と話す。
NECは、長岡工業高等専門学校の協力により、耳音響認証の強化技術として、人間の耳には聴こえない音(非可聴音)で個人を認証する技術も2018年2月に発表している。本技術では、マイク一体型イヤホンから高周波の非可聴音を発することで、耳穴の形状を表す音響特性を正確かつ安定的に測定することを可能にしている。例えばイヤホン装着時に、従来の可聴音での認証を行うことで、ユーザー自身が認証されたことを確認し、以降の装着中は、作業の妨げにならない非可聴音で常時認証を行えるのだ。
現在、同社のヒアラブルデバイスは開発段階にあるが、すでに10件以上の実証実験が行われている。まずは工場をはじめとした産業界に導入し、活用を広げていきたい考えだ。
大杉氏は「例えばプラントで作業している作業員が倒れてしまっても、周囲に人がおらず、気付かれないままになるケースが少なくありません。そういった作業員を見守るため、ヒアラブルデバイスを活用したいニーズがあります」と語る。NECが開発したヒアラブルデバイスには、個人の体調を常時モニタリングできる「バイタルセンシング技術」が搭載されている。9軸モーションセンサー、温度センサー、光学センサーの3種類のセンサーによって、屋内位置測位や活動量、耳の内部から温度や脈拍など、人のバイタル情報を収集できる。そのため、例えば工場や現場作業などにおいて作業員の体調や状況を個々にモニタリングして、熱中症対策や現場環境、業務の改善に活用できるのだ。
ネックバンド型ヒアラブルデバイス装着イメージ。本来の装着時は首の後ろのバッテリー部分を作業着とワイシャツの襟に挟んで固定する。
長時間利用に適したネックバンド型を採用
工場などでは周囲の騒音によって、ヒアラブルデバイスに発話した音声が、通話先では聞き取りにくくなってしまうケースもある。そうしたトラブルを防ぐためヒアラブルデバイスには「ノイズキャンセル技術」も採用されている。耳内部と外部に面した二つのマイクを利用して、騒音下でもゆがみの少ないクリアな声を人やIT機器に届けられる。具体的には、デバイスを装着したユーザーの発話音声を、外部の騒音の影響を受けにくい耳内部に面したマイクで取得する。発話音声に混入する騒音部分は、耳外部に面したマイクで拾った騒音をフィルター処理して生成した疑似騒音成分を用いて打ち消すのだという。これらの技術により、工場や工事現場、駅のホーム、ショッピングセンターなどの騒音下でも、音声による円滑なコミュニケーションやVUIによる機器への指示、操作や記録などのサービス実現が可能になる。
プロトタイプのヒアラブルデバイスは、完全ワイヤレスのスタイルを採用していたが、これら二つの技術を搭載したヒアラブルデバイスとして、ネックバンド型ヒアラブルデバイスを新たに開発した。工場など現場作業員から「左右が独立したワイヤレススタイルは紛失の危険性がある」「バッテリーは1日持つほうがよい」という要望があり、そうした業務に必要なニーズに対応したスタイルなのだ。
「2019年度の第4四半期をめどにリリースを検討しています。量産型デバイスはさらに改良を加え、プラットフォームサービスとして提供していく予定です。BtoBでは工場などの産業用途を中心に、BtoCにも市場を拡大していきたいですね」と田中氏は展望を語った。
ネックバンド型ヒアラブルデバイスは、長時間利用を可能にするバッテリーを搭載し、落下防止にも配慮されている。
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