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熊本市が取り組む市内全小中学校を対象とした教育ICT

熊本市が取り組む市内全小中学校を対象とした教育ICT

2019年06月24日更新

熊本市内の全小中学校でICT教育をスタート
LTE回線採用のタブレットが学びを円滑化する

公立小学校や中学校のICT教育環境整備は、自治体主導で進められる。そこで重要となるのが自治体首長が教育にどれだけ関心を寄せているかというポイントだ。熊本市では、市長である大西一史氏のトップダウンのもと、「未来への投資」として市内の全小中学校に対してICT教育環境整備を進めている。その取り組み内容と、選定したツールについて話を聞いた。

産学官が連携したICT教育環境整備

 熊本市は、2020年度から順次スタートする新学習指導要領施行に向けて、教育ICT環境整備を進めている。2018年9月には先行して一部の小学校で4,335台のiPadを導入し、2020年度までに小中学校を合わせた全134校に合計2万3,460台の整備を予定している。また、熊本大学、熊本県立大学、NTTドコモと熊本市の4者で連携協定を結び、産学官が連携して教育現場におけるICT機器を効果的かつ継続的に活用できる環境作りに取り組んでいく。

 同市のICT教育に対する取り組みについて、熊本市教育センター 教育情報室 室長を務める本田裕紀氏は次のように語る。「もともと熊本市は、政令指定都市の中でもICT教育の整備が遅れていました。しかし、環境整備を進めるには莫大な投資が必要になるため、学びの環境改善を進めにくい状況にありました」

 そうした学びの環境を変革するきっかけとなったのが、熊本市長の大西一史氏だ。「教育ICTへの投資は“未来への投資”」であるとして、市内の全公立小中学校への教育ICT環境整備を決断した。2019年度4月から市内の全ての小学校にICT環境が整備された。2020年度4月からは市内の全ての中学校でも運用を開始する予定だ。

 生徒の学習端末として導入したのは、セルラーモデルのiPadだ。3クラスに1クラス分行き渡る台数を選定した。教職員には1人につき1台だ。また全ての普通教室に電子黒板と実物投影機(書画カメラ)も設置した。

国語の授業の様子。
児童たちは自発的に資料をキャプチャーして、ロイロノート・スクールでまとめて自分たちの意見を発表する準備をしている。iPadにはケースを付け、故障の可能性を低減させている。

LTE回線を採用したタブレットによる学び

 セルラーモデルのiPadを選定した背景について本田氏は「学校内の学びだけではなく、修学旅行や校外学習など、場所を選ばずタブレットを使えることが挙げられます。またWi-Fiモデルを選択すると、全ての学校にWi-Fi整備が必要となり、設計や整備に時間もコストもかかります。既存のネットワークに負荷がかかる可能性もありましたので、セルラーモデルのiPadを選択してNTTドコモのLTE回線を契約し、授業で活用しています」と語る。

 授業で使っているのは授業支援アプリケーション「ロイロノート・スクール」と「MetaMoJi ClassRoom」だ。子供たちは自分の意見を発信する際はロイロノート・スクール、教員が作成したプリントなどを確認したり書き込んだりする際はMetaMoJi ClassRoomを活用するなど、授業の場面ごとにアプリケーションを使い分けているようだ。実際に昨年、先行導入校である熊本市立楠小学校の校長を務めていた本田氏は「教科を選ばず、多様な授業でiPadを活用していました。体育では児童自身の側転のフォームをiPadで撮影して比較し、自分のフォームのどこが問題なのか、どこを改善すればより良くなるのかなど、自身を客観的に見つめるツールとしても活用していました」と話す。学びで活用したデータはクラウド上に保存され、学びの過程や振り返りにも利用されている。

 iPadだけではなく、思考をアウトプットする場合に活用できるハードウェアキーボードも整備した。「小学校では3年生からローマ字を学びます。アルファベットに親しむ意味でもフリック入力ではなく、キーボード入力に重きを置いて学ばせようと考えました」(本田氏)

 産学官による連携協定の一つとして、熊本市では市内の小中学校の中から「協働的学習」「情報活用能力」「情報モラル教育」の三つの分野でそれぞれ指定校を選出し、熊本市としてのモデルカリキュラムの構築を進めていく。モデルカリキュラムを開発することで、学校や教員ごとの学びの差をなくし、組織的で体系的な教育活動を実現することが目的だ。

体育の授業でもiPadを活用している。
側転や走り幅跳びのフォームを撮影し、よりよい記録を出すためにはどうすればよいのか考えて改善に役立てている。

ICT支援員と研修の充実で教員をサポート

 教員に対するサポートも強化している。教育センターで教員に対する研修を定期的に実施したり、ICT支援員を充実させたりして、学びへのICT活用を円滑に進められるようにしている。本田氏は「ICT支援員は現在17人ですが、2021年までに21人に増やしていきたい考えです。また一週間の内半日は学校に常駐させるようにして、それぞれの学校で求められるiPadの使い方の支援や、授業における学びへの活用をサポートしていきたいと考えています」と語る。

 熊本市の小学校では、すでに全校でICT教育がスタートしている。「現場からは期待感が大きいです。実際にiPadを活用した授業を実践したら面白い授業になった、やりたかった授業ができるようになったといった好意的なフィードバックが多く寄せられています」と本田氏。特に児童自身が自分の考えをアウトプットできるツールとして活用効果が大きいのだという。

 半面、市内でも学校現場によって活用の温度差が出てきている。そこで、授業支援アプリがどれくらい活用されているかといったデータを連携協定の中で取得・分析し、活用の妨げになっているポイントを改善していきたい考えだ。

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