ホーム > PC-Webzineアーカイブ > 実証校の報告から見るICT教育の効果と課題

実証校の報告から見るICT教育の効果と課題

実証校の報告から見るICT教育の効果と課題

2019年05月14日更新

 それでは、実証団体の取り組みについて、特長的な事例をいくつか見ていこう。

■IEーSchool推進地域成果報告

[長野県教育委員会]【準備期】
 次世代の教育情報化推進事業に2017年度から参加しており、2018年度は中山間地域の小学校3校を推進校として設定した。2017年度実証の成果を踏まえ、「多くの小学校で取り組めること」「プログラミング教育の視点も組み込むこと」を留意して実践を進めた。

 信州大学教育学部と連携し、育成するべき能力と目標を整理しながら推進3校でカリキュラムマネジメントのすり合わせを行った。その中で、今後現場でより実践を充実させるためには、学年ごとにまとめて教科のバランスを見る必要があるという知見を得た。

 プログラミング教育ではまずプログラミングの楽しさや面白さ、達成感などを味わえる題材で情報活用能力の育成を実現するため、「図画工作」と「総合的な学習」でプログラミング教育を取り入れた。また、推進3校をWeb会議システムでつないで公開授業を中継したり、授業研究会を行うなど教員の授業スキル向上を図る活用も実施したようだ。

[横浜国立大学教育学部附属横浜中学校]【実践期】
 横浜中学校は過去に総務省の「フューチャースクール推進事業」や、文部科学省の「ICTを活用した教育に資する実証事業」などの実施校に指定されており、生徒1人につき1台のタブレット端末が活用できる環境が整備されている。そのため家庭学習の課題提出もクラウドを活用して行うなど、ICTの活用に積極的に取り組んでいる。

 その中で、生徒のICTスキルが本当に育成できているのかといった疑問が浮上した。そこで今回の事業では生徒のICTスキル実態把握と校内組織の再編成を実施した。

 ICTスキルの実態把握では、夏期休業中と冬期休業中にそれぞれキーボード入力スキルやグラフ作成問題といった課題を出題し、それらをOffice 365のSharePointを用いてクラウドに提出させた。調査を実施した結果、1分間あたりの文字入力数は半年で約10文字増加、グラフ作成は1年生で約10%、2年生で約20%の正答率など学年ごとのスキル向上が見られた。同校ではこれらのデータをもとに「各問題の正答率に相関関係が見られないことから機器の操作などのスキルは個別に向上を図る必要がある」「2年生の秋には操作スキルの向上が顕著に見られ、アプリやクラウドの活用がスムーズになり、効率的に学習を進められるようになる」「情報手段(タブレット)を用いてデジタル情報を扱う場面を1年次からさらに増やす必要がある」と分析した。

 校内組織の再編成においては、学校内でのICT教育推進や環境整備における各部署の役割が不明確となっており、またつながりが弱いという課題があったため、各部署の役割を明確化し「生徒の情報活用能力の育成に向けた連携」を進めた。

■ICTーSchool推進地域成果報告

[千葉県立袖ケ浦高等学校]
 推進校として指定された千葉県立袖ケ浦高等学校では、2011年度に開設された情報コミュニケーション科でのタブレット導入をきっかけに、学校全体でICTを活用している。今回の実証は情報コミュニケーション科を対象としたものが主だ。

 取り組みの一つでは、世界史の授業においてICTを活用し、現代の出来事と歴史の学習事項の共通項を見いだし、社会生活を関連付けて自らの考えを周囲に伝えられるよう学びに取り組んだ。具体的には現代のニュースと関連する歴史を比較表示できるアプリを活用し、歴史事項からどのような解決策が考えられるかといったキーワードをマインドマップのような形式で記述させた。結果として、ICTを用いると歴史の観点が増加することや、その後のグループ学習でさらに観点が増加することが分かったという。

 また毎時間の授業後に、生徒にタブレットを使ってコメントを書かせて提出させた。4月当初は「分かった」「すごい」などの感想が中心だったが、6月になると「気になる」「~してみよう」など関心を示す内容になっていった。また11月ごろになると授業内容を基に生徒自身が問いを作るようになるなど、一年を通して大きな変化があった。これらの履歴データが蓄積され、生徒がその内容を見て学びを再構築していく相乗的な学びが実現できるようになったのだ。

[京都教育大学附属桃山小学校]
 桃山小学校では「各教科の『見方・考え方』を働かせた『深い学び』を導くICT活用」を研究主題として、知識の理解の質を高めるツールとしてICT活用を進めた。

 研究授業の例として紹介されたのは6年生の国語の授業で、宮沢賢治の「やまなし」「イーハトーブの夢」を教材に、作品世界の理解を深めていく授業を実施した。この学びにおいて、見方・考え方を働かせる学習過程の中でデジタル思考ツールを活用し、作品上の表現の工夫や作者の考え方・生き方などを整理した。デジタル化された思考の履歴を比較したり、関連付けるといった情報の組み替えが容易になるため「言葉の考え方」を理解しやすくなる。

 研究成果として、表現方法を多様にできるため、さまざまな角度から見方や考え方を共有できる点や、デジタル思考ツールで形成的評価をとれるため、どのような見方が身に付いたか分かり、学習者自身も修正が容易であることが挙げられた。半面課題として、評価の鍵となる学習過程を想定し、その場面でデータの収集を行うことが求められていたり、発達段階によってデジタルデータの作成に技能差がでるため、計画段階でどこまで学習者の作業をデジタルで行うのか想定しておく必要があるとした。

■事業総括

 事業総括としてIE-SchoolおよびICT-School両方の主査を務めている東北大学大学院 情報科学研究科 教授 堀田龍也氏が登壇した。堀田氏は小学校・中学校学習指導要領総則から「情報活用能力が言語能力、問題発見・解決能力と並ぶ学習の基盤となる資質能力であると位置付けられた」と提示した。また各教科の特性に応じて「コンピューターで文字を入力するなどの基本的な操作の習得」が求められていると指摘し、情報教育の重要性を説明した。

「2015~2016年に調査された情報活用能力調査では、小学生のキーボードを活用した文字入力数は分速5.9文字と、思考が妨げられるような状態でした。学習の道具として使う基本スキルが求められており、自転車に乗ることと同等に、ある段階で身に付けていつでも使える技能に位置付ける必要があります」と堀田氏。

 こうした情報活用能力を育成していくためには、文部科学省が発表している「ICTを活用した学習場面」などを参考に、各学校で真似をして授業モデルのバリエーションを増やしていくことが必要だ。

 また情報活用能力の育成に取り組むためにはIE-Schoolで実施したカリキュラムマネジメントの手法や、ICT-Schoolで実施した授業設計手法が不可欠だ。今回の事業では別の実証地域で平行して研究を進めたが、本来はこれらの事柄を同じ学校で進めていき、互いに作用していく必要がある。今後学力調査も徐々にCBT化していくことを踏まえ、実証研究地域の事例をもとに、学校現場の情報教育の推進を進めていきたい。

“自転車の乗り方を習得するようにPCの操作スキルを身につける”

横浜国立大学教育学部付属 横浜中学校 主幹教諭 土谷 満 氏
千葉県立袖ケ浦高等学校 教諭 廣川みどり 氏

キーワードから記事を探す