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IT人材育成協会が語る「OJL」によるチームでの育成

IT人材育成協会が語る「OJL」によるチームでの育成

2019年04月10日更新

Special Feature 2
2030年、IT人材枯渇

経済産業省の調査によると、日本のIT人材は2019年の92万3,273人をピークに大きく減少していくという。2030年には約59万人が不足すると予測されており、早急な対策が求められる。そこで本特集では、IT人材育成のために必要な取り組みと、IT人材不足に対応するツールの二つの側面から、IT人材枯渇が迫る未来への解決策を提示していく。

研修だけでは育たない!
組織を巻き込んだチームでのIT人材育成が急務

TRAINING

情報セキュリティなどに対するニーズの増大や、ビッグデータ、IoTなどのいわゆる先端技術の活用が拡大しており、今後ますますIT需要の拡大が予想される。しかし肝心のIT人材は、労働人口の減少によって不足の一途をたどる。企業は、自社の競争力を保つため、また新たなビジネスに参入していくためにも、IT人材の確保および育成が急務だ。本項では、IT人材を育成するための組織について解説していく。

IT人材の不足規模は約59万人

 経済産業省が2016年に発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、近い将来日本のIT人材供給力は大きく低下していくという。具体的には、2019年の92万3,273人をピークに入職率が退職率を下回り、産業人口は減少に向かう。そのため2030年のIT人材は85万6,845人に減少する推計となっている。またIT関連産業従事者の平均年齢も上昇の一途をたどり、産業全体としての高齢化も進む見込みだ。

 IT人材の供給力が低下するにもかかわらず、ITニーズの増加によってIT市場は拡大を続けていく。IT人材不足は今後ますます深刻化する見込みで、経済産業省が予測した中位シナリオ(IT市場の伸び率を1.5~2.5%程度と仮定した予測)では、2030年の人材不足規模は約59万人まで拡大すると推計されている。

 このようにIT人材の不足が深刻化していく中で、企業が取るべき対策はいくつかある。その一つが、現在雇用している従業員のITスキル・能力の向上や、新たに雇用した従業員をIT人材として育成していくことだ。

 IT人材を育成する上で必要になるのは、研修などの教育コンテンツはもちろんだが、IT人材を育成・指導する立場の人材もまた必要になる。そうした指導者の立場となる人材の育成に取り組んでいるのがIT人材育成協会だ。同協会の会長を務める加藤正彦氏は「IT業界に限らず、人材を育てるためには研修を実施するケースが多いです。しかし、実際にはただ研修を受講しただけではスキルや知識は身に付きません。研修は自発的に受講することで初めて知識やスキルとして身に付くのです」と語る。


IT人材育成協会の取り組み

(1)IT人材の育成を担う人材の育成支援
・対象:エデュケーション職(インストラクター、ファシリテーター、プランナー、コンサルタント)、現場の指導層など
・教育技術向上のための研修
・ラーニングプロフェッショナル認定制度による資格認定
・セミナー、情報交換会等による情報の提供、コミュニテイ活動

(2)ユーザー企業と教育サービス事業者との交流
・ユーザー企業が抱える共通課題の抽出
・課題解決の検討と対応
・新しい育成方法の研究、新しいテクノロジーの取り込み
・教育サービス紹介セミナーの実施

(3)標準化の推進
・教育のIT化対応(ペーパーレス研修等)
・研修情報の標準化推進(ラーニングXML、EDI化)


職場を育成の場とする“OJL”

 研修で受講した内容を生かす場がないことも、研修の内容が受講者に身に付かない要因として挙げられた。例えば、AIやロボットに関するスキルを習得する研修を受講しても、自社や配属先の企業でそれらを生かす体制が整っていなければ実際にそのスキルや知識が生かせないため、身に付かないまま終わってしまうのだという。特にIT企業の多くはSI企業で、受託開発が業務の中心であるケースが多い。配属先の企業が開発内容を左右するため、研修で学んだスキルを使う機会を作りづらいのだ。

 そこでIT人材育成協会が提唱しているのが、OJL(On the Job Learning)による学びだ。OJLとは、職場を人材育成の場とする活動のことだ。「研修でスキルや知識が身に付かない要因として、研修前の準備や、研修後の学びが不足していることが挙げられます。OJLでは職場のメンバーでチームを構成し、業務の問題や課題を共有したり、対話やコミュニケーションを通じて、継続的に教え合いや学び合いを実施する環境を構築します」と加藤氏。


OJL(オンザジョブラーニング)
→職場を人材育成の場とする活動
・職場のメンバーでチームを構成し、業務の問題や課題を共有し、対話やコミュニケーションを通じて継続的に教え合い学び合う
・専門研修を受けたラーニングファシリテーター(LF)がチームファシリテーションとラーニングファシリテーションを行う
・チームごとに実施計画を策定し、定期的なミーティングや対話を継続し、振り返りと業務への反映を繰り返す
・実施計画の検証や見直しをしてリフレクションサイクルを回す


 業務を継続的に改善していく手法として、PDCAサイクルはよく知られている。OJLでは、PDCAにおけるCheckおよびActionを振り返り(Reflection)としてチームで行う。具体的には、チームで仕事の結果がよかった点や悪かった点、改善点や経験を共有したり、結果から新しい方法を考案し、次の仕事に対応する経験学習を実施するのだ。毎日や毎週のミーティングで対話を通じて学習し、教え合う、学び合う文化を醸成することで、個人の成長と組織の成長を同時に図る。

 加藤氏は「こうしたチームでの学習に必要となるのがファシリテーター(指導者)です。会議を進行したり合意を形成するチームファシリテーションや、学習を支援・経験学習の実践をするラーニングファシリテーションを行う人材が必要になります。学ぶ場を作ること、そして学びを導く人材を育成することが、IT人材の育成には不可欠なのです」と指摘する。


OJLファシリテーター
→OJLをけん引する人材
・チームファシリテーション
 会議を進行 合意形成
・ラーニングファシリテーション
 学習を支援 経験学習の実践


知識やスキルを共有して育成

 実際に約150人の部門にOJLのスキームを取り入れた企業では、コミュニケーションの活発化などチームへの影響だけでなく、半分以上のメンバーが行動によい変化が出ているという結果が出たという。また学習意欲についても、学習意欲の向上やほかのメンバーのよい点を学ぶといったよい影響が見られた。

 加藤氏は「研修もファシリテーターが“どうして受ける必要があるのか”“どういった業務・開発に生かせるのか”といった動機付けをすることで、その学習効果が大きく向上します。特にコミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルを身に付けるヒューマン系の研修は実践しなければ1カ月も経たずに内容を忘れてしまうでしょう。研修で学んだスキルを生かす機会を作ったり、チーム内でその知識やスキルを共有したりすることが重要になります」と語る。

 実際に組織でOJLのスキームを導入するためには、組織改革も並行して進めていく必要がある。「まずは1部門でやってみる姿勢も重要です。その部門のパフォーマンスが上がればほかの部門でも導入する動きに変わっていくでしょう。実験的な取り組みをトップが許容しながら、現場が実績を積んで全社的によい効果を広げていくというのが理想的でしょう」(加藤氏)

 特に今後のIT業界では、純粋なITスキルの高さはもちろんのこと、顧客の動向を素早く感じ取れる人材や、異なる素材を組み合わせて新たな製品やサービスを発想できる人材が求められている。そうした人材を生み出すために、経験の機会やメンバー間の対話を通じて、お互いに刺激し合いながら学ぶ習慣をつけていくことが重要だ。

IT人材育成協会 会長 加藤正彦 氏

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