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空間UIを採用したアクティブラーニングルームで深く学ぶ川口高校

空間UIを採用したアクティブラーニングルームで深く学ぶ川口高校

2019年03月15日更新

空間全体をデジタル化する“空間UI技術”と
知識構成型ジグソー法の融合で実現する深い学び

学校現場のICT化と言うと、タブレットの導入やWi-Fiの整備、電子黒板の設置などが思い浮かぶ。しかし中には、より深い学びを実現するために、先進的な環境を取り入れている学校現場もある。今回は“空間UI技術”を採用したアクティブラーニングルームを設置している新設校「川口市立高等学校」に取材した。

先進的な学びの空間を採用

 川口市立高等学校は、川口総合高等学校、川口高等学校、県陽高等学校の3校を再編・統合して2018年4月に開校した新設校だ。新設にあたって、同校では校舎全館に無線LANを整備し、教員1人につき1台の2in1端末や、生徒用に学習用端末として2in1端末の導入、教室への据え置きプロジェクターの設置など、ICT環境の整備を整えた。

 同校の主幹教諭 岩本太一氏は「社会全体がICTをベースとしている中で、教育現場でも普段の授業の中でICT環境を日常的に使える環境が求められていると考え、機器の整備を進めました」とICT環境を整えた経緯を語る。教員用端末には富士通の13.3インチタブレット「ARROWS Tab Q737シリーズ」から手のひら静脈センサー内蔵のモデルを選定している。生徒用端末には同じく富士通のARROWS Tabの10.1インチWindowsタブレット「FUJITSU Tablet ARROWS Tab Q508/SE」を320台採用しており、生徒用教員用ともにオプションのキーボードをセットで導入して2in1端末として利用している。

 同校のICT環境として、特に特長的であるのが協働的な学びを行うアクティブラーニングルームに富士通研究所が開発した「空間UI技術」を導入している点だ。空間UI技術は、端的に言うと部屋全体をまるごとデジタル化する技術を指す。例えば、従来タブレットなどを活用してアクティブラーニングを実施する場合、生徒は個人の端末の画面を見せ合いながら自分の考えを話したり、協働学習ツールを活用してそれぞれの考えを共有したりしていた。空間UI技術は、教室内にプロジェクターとカメラ、PCを組み合わせた装置を複数設置し、空間全体を一つのWindowsシステムとしてまるごとデジタル化する。

アクティブラーニングルーム
空間UI技術を採用したアクティブラーニングルーム。空間全体がデジタル化されており、テーブルの上や壁の仮想ディスプレイに手書きで意見を書き込むような活動が可能だ。

未来を見据えたICT環境

 簡単な活用シーンを挙げると、アイデアを出し合う際にテーブルに付箋アプリを起動させ、単語を一つずつ書き出していく。その中からさらに話し合いたいテーマ、あるいは発表したいテーマなどが出てきた場合は、テーブルの端にその付箋をペンで移動させ、スライドさせるとそのデータが壁面に表示される。これまで紙とペンで行っていたようなディスカッションスタイルが、デジタルのメリットを取り入れてより便利かつインタラクティブに議論できるようになったのが空間UIだと言えるだろう。

 導入のきっかけについて岩本氏は「当校に入学した生徒たちに、ちょっと先のICT環境を体験させたいという考えからです。現在はキーボードで文字を入力したり、タブレットで情報を表示させたりといったスタイルが中心ですが、今後は空間UI技術のような新しいスタイルのICT環境が一般的になるかもしれません」と語る。

 先進的なICT環境も構築し、生徒に充実した学びの環境を提供している川口市立高等学校。「夏休み前までは機器の使い方の研修などを進めており、本格的な活用は二学期以降に広がり始めました。埼玉県では『未来を拓く“学び”プロジェクト』を埼玉県教育委員会と東京大学CoREFが協働で実施しており、東京大学CoREFが開発した協働学習の手法である『知識構成型ジグソー法』のノウハウが蓄積されていたことから、授業の中でジグソー法を取り入れたアクティブラーニングも積極的に進めていました」(岩本氏)

 そうした活用の中で、同校は知識構成型ジグソー法による学びを深めるため、空間UI技術と融合した知識構成型ジグソー法による授業を2018年10月からスタートした。

 知識構成型ジグソー法では、「事前学習」「グループ活動」「学習発表」「事後学習」「授業評価」という五つのステップで学習を進めていく。通常のグループ発表活動と異なる点は、まずグループごとに特定の観点に関する資料を読み込み、メンバーと議論することで知見を深める「エキスパート活動」を経て、異なる観点の知見を集めたメンバーでグループを再編成し、課題に関する議論を深める「ジグソー活動」を行う点だ。

 空間UI技術はこのグループ活動の議論において、各自のタブレット内のワークシートや画像データを空間UI上に展開してメンバーと共有したり、学習発表時に議論した内容を空間UI上で発表資料としてまとめ、グループごとに発表した。これらの学習履歴は全て富士通の授業支援システム「CoursePower」上に蓄積され、発表内容もCoursePowerから提出を行う。

空間UI×ジグソー法の学び
生徒たちは各テーブルでグループごと課題に関する議論を深める。壁も仮想ディスプレイとして使用できるため、大きなスペースで議論を深めることも可能だ。

学習過程のデジタル化に寄与する

「まずは理科の授業で空間UIと知識構成型ジグソー法を組み合わせた授業を実施しました。そのほかにも音楽の授業で、空間UIとジグソー法を取り入れた学びを実践したようです。空間UI技術のみの活用にはなりますが、英語や芸術、書道などの授業でも活用事例があります。例えば英語では、タブレットを使って発表資料を作成した際に、各テーブルごとに空間UIを利用した発表活動をしました。書道では、生徒が提出した書作品を空間UI上に表示させ、生徒同士で意見交換しながらどこが美しいのか、トメはねがきちんとできているかなど、ペンで丸を付けながら評価し合っていました」と岩本氏は振り返る。

 空間UI技術を導入したことで得られたメリットとして、岩本氏は「生徒たちが間違いを恐れずに答えを出しやすくなった」点を挙げた。紙に書いた内容はなかなか消しにくいが、デジタルデータの内容であればワンタッチで削除できるため“とりあえず書いてみよう”“とりあえずまとめてみよう”というフットワークの軽さにつながっているようだ。また、空間UI技術によって、発表内容やディスカッションなどの記録がCoursePowerに蓄積できるため、2020年の大学入試改革において求められている学習過程のデジタル化に役立てられる点もメリットだ。

「空間UI技術を採用したアクティブラーニングルームは生徒からも人気で、学校説明会があるときなども必ずこの教室を開放しています。この学校で一歩のICTを体験できる、学べるような環境を今後も整えていきたいと考えており、そのために2019年度はiPadを導入して現状のWindows端末と比較した授業効果の検証を進めていきたいと考えています。2020年度には、生徒1人につき1台のタブレット環境を構築できるよう、学びへのICT活用とその効果検証を進めていきたいですね」と岩本氏は展望を語った。

空間UI技術の仕組み
プロジェクターやカメラ、PCを組み合わせてテーブル上や壁面に仮想ディスプレイを表示させる。表示させたアプリケーションは隣接した空間同士を行き来でき、例えば手前のテーブルから壁面、壁面から奥のテーブルに移動させられる。しかし壁面を移動できる範囲は限界があり、動作の自由度については富士通に改善の要望を送っているという。

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