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音声翻訳システム本格稼働で言葉の壁に挑戦する綾瀬市

音声翻訳システム本格稼働で言葉の壁に挑戦する綾瀬市

2019年03月29日更新

自治体窓口の音声翻訳システムが本格稼働へ
~「言葉の壁」に挑戦する神奈川県綾瀬市~

神奈川県綾瀬市で進められてきた「自治体向け音声翻訳システム」の実証利用が2019年3月31日で終了し、4月から本格利用をスタートさせることになった。本実証実験は2020年のオリンピックイヤーに完成を目指して国が進める「世界の言葉の壁をなくすためのグローバルコミュニケーション計画」の一環として行われている。実証利用で見えてきた自治体向け音声翻訳システム利用によるメリットや今後の課題について聞いた。
Text by 古俣慎吾 Shingo Komata

言葉の壁をなくすための音声翻訳システム

「グローバルコミュニケーション計画」は、外国人による空港から地方都市への移動、ショッピング、タクシーでの周遊、体調不良時の病院受診といった一連のストーリーに沿って、2014年度から国と国立研究開発法人情報通信研究機構(以下、NICT)が進めてきたプロジェクトだ。ICTを活用した革新的な技術を開発し、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの際に「言葉の壁」がない社会を、ショーケースとして世界に発信することを目的としている。

 NICTは同プロジェクトにおいて民間の企業や組織と連携し、さまざまな分野の研究開発、実証利用を進めてきた。その中でも、自治体窓口での音声翻訳システム導入を目指した研究開発には凸版印刷が本研究の受託先として参加している。凸版印刷により、群馬県前橋市、東京都板橋区で模擬実証実験に伴う開発が行われ、現場レベルでの運用が可能な段階に達したのが自治体向け音声翻訳システムだ。本システムが実際の窓口でデータ収集が行われるようになったことを知った綾瀬市が手を挙げ、2017年11月22日に実証利用がスタートした。本実証利用は今年度で終了し、綾瀬市は来年度4月から凸版印刷の有償音声翻訳サービス「VoiceBiz」の利用を開始する。この「VoiceBiz」は多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra」が前身となっている。

 VoiceBizを導入したスマートフォンなどに話しかけると、即座にほかの言語に翻訳して音声で出力してくれる。最新バージョンは、テキスト出力では30カ国語に対応。タイ、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、スペイン、フランス語の旅行会話の翻訳精度を英語、中国語、韓国語レベルに向上させるなど機能を充実させている。

自治体窓口に求められる外国人対応

 綾瀬市は神奈川県の中央部に位置しており、総人口は約8万4,000人だ。自動車関連の中小企業が集積している(政令指定都市を除くと県内1位)。外国人人口は約3,600人、外国人比率は約4.3%で県内2位(2019年1月1日現在)。しかも、その外国人の構成比率にも特徴があるようだ。

 綾瀬市経営企画部 企画課総括副主幹の瀧川 泉氏が現状と導入の背景を聞かせてくれた。

「当市には外国人市民が多いという事情がありました。しかも、出身国の比率について、国や神奈川県と比べて大きな特徴があったのです。国や県では中国、韓国が上位を占め、ベトナム、フィリピンの順ですが、綾瀬市の場合、トップはベトナム(18.6%)、2位はブラジル(17.3%)、次いでスリランカ、フィリピン、タイが続き、中国は6位、韓国は8位です。英語や中国語、韓国語を中心に対応すればOKという状況にはありませんでした」

 市役所の各窓口での対応はどのような状況だったのだろうか。

■各課ごとの窓口対応

・市民課(住民票や戸籍関係)……転入・転出、婚姻、出生、離婚など、比較的定型的な業務のため通訳・翻訳なしでも対応可能
・子育て支援課……児童手当や小児医療費助成の申請、保育園入所関係
・健康づくり推進課(保健医療関係)……母子健康手帳の交付、乳児健診やがん検診など
・保険年金課(国保・年金関係)……国民健康保険や国民年金の加入
・学校教育関係……就学援助の申請、入学・転学手続き、各種相談
・課税課、収納課(税金関係)……課税関係→所得証明交付、市県民税申告、仮ナンバーの申請 収納関係→税の納付、督促状等の説明、分割納付の相談など
・福祉総務課、障がい福祉課(福祉課)……生活保護関係、障がい福祉サービス関係など。いずれは、介護・医療関連の相談も増加見込み
・企画課(総合的な相談・支援)……日本語教室の紹介や公営住宅入居、翻訳・通訳依頼、労働問題など各種支援機関への橋渡し

 窓口業務では、市民課以外の課の外国人対応が十分に追いついていない。ほとんどの場合、申請者ごとに状況が異なり、それぞれ専門的な通訳や翻訳が必要なのだという。市役所窓口で「言語の壁」が抱える問題は想像以上に高いことが分かる。

希少言語に対応し、ランニングコストが低下

「外国人来訪者で最も多いのは、日本語が話せる友人や家族との来庁か、本人が日本語を話せるというケースです。英語を話す外国人来訪者には、英語が話せる職員に応援を要請します。問題はその職員への負担が増大することや、そのほかの言語を話す人たちへの対応です。ベトナム語、スリランカ語、ポルトガル語、スペイン語などを話す方たちには、来庁日時を予約して改めて来庁していただき、市の専門通訳員が対応しました。あるいは、他の行政機関が実施している通訳支援窓口に協力を仰ぎ、電話などで3者通話による支援を要請する必要がありました」(瀧川氏)

 外国人来訪者に早口で話されると、どういう目的で来庁したのかを区役所員が理解できない場合もあり、最後は身振り手振り、イラストなどで意思疎通に努めるという。理解したような素振りで帰るものの、本当に分かってくれたかどうか判断できないケースもあった。

「本システムは、希少言語もある程度カバーでき、通訳者など第三者が媒介しないのでランニングコストが少ないです。相談者の心理的な壁も低くなります。翻訳結果が日本語で再翻訳表示され、正しく伝えられているかを確認できるので安心して会話ができるでしょう。申請要件や必要書類などが伝わりやすくなり、書類不備の減少も期待できそうです」(瀧川氏)

課題は定型フレーズと専門用語の充実

 現在、綾瀬市には7台のタブレットが導入されている。このタブレットで英語とベトナム語の2言語に対応した自動翻訳の実証利用が行われ、全庁で12の部署が利用している。

 音声翻訳システム導入の効果としては以下のような効果があったという。

・担当部署へのスムーズな案内
・何も解決できずに外国人来訪者が帰庁するケースがなくなった
・職員の外国人に対する不安が減った
・外国人市民の窓口対応に要する時間の減少

 その一方で課題も見えてきた。例えば、定型フレーズ集と専門用語の充実などが求められている。総合案内や市民課などは、定型的なやりとりが多いため、定型文が充実すれば円滑な対応が可能となる。

「所帯を持っているか、どのような仕事をしているかといったよく使う質問の定例化や、選択肢を『はい』『いいえ』で簡単に答えられるようにします。音声翻訳技術のみで窓口業務を完結できるようにするため、専門用語の一層の充実が必要です」(瀧川氏)

 今後、日本のほとんどの地域で人口減少が進み、中小企業や介護、医療の現場などで必然的に外国人労働者の増加が見込まれる。自治体の窓口をはじめ、社会のあらゆる場面で「言葉の壁」が立ちはだかるようになるだろう。

 瀧川氏は、「本システムの実証利用やこれからの活用を通じて、グローバルコミュニケーション計画に貢献していきたいです」と語った。

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