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クラウドに生じている地殻変動とOSSとの関係をレッドハット 岡下浩明氏 が語る

クラウドに生じている地殻変動とOSSとの関係をレッドハット 岡下浩明氏 が語る

2019年02月06日更新

仮想化ベースからコンテナベースのクラウドへ大きな地殻変動が起こっている

Red Hat Enterprise Linuxなどの提供で、企業によるオープンソースソフトウェア(OSS)の利用をけん引してきたRed Hatは、オープンソースという文化が、企業のシステムの在り方さえも変えると考えている。めまぐるしく変化するビジネス環境の中で、デジタルトランスフォーメーション(DX)が求められる昨今、OSSの積極的な活用が変化への迅速な対応を可能にするというのだ。OSSと企業システムの現在と未来について、レッドハット プロダクトソリューション本部 本部長 岡下浩明氏に話していただいた。

レッドハット プロダクトソリューション本部 本部長 岡下浩明氏 Hiroaki Okashita
「OSS を活用しオープンで柔軟なインフラ環境の構築を実現するのが、オープンハイブリッドクラウドです」

代替から革新へ、OSSの役割が変化

―まず、現在のOSSの位置付けについてどのように捉えていますか。

 OSSについては、まだまだ誤解があるようです。誤解というのは、旧来の考え方を指します。当社は現在OSSについて、“イノベーションを起こす源泉”であると捉えています。ただし、残念ながらそうした認識は市場には十分に浸透していません。

 OSSが生まれたのは1990年前後です。それから2000年ごろまでに登場したOSSは、すでに存在するソリューションの代替であるケースがほとんどでした。例えばLinuxは、x86の世界でUNIXのようなOSが欲しいという要求への答えとして開発されました。ただし登場当時のLinuxは、高度なUNIXに比べればとても非力な存在でした。また、MySQLやPostgreSQLなども商用のRDB(Relational Database)の代替として、例えば、個人でRDBを使いたいというようなニーズから生まれました。

 これらのOSSが企業に浸透していったのが2000年~2010年ごろです。この時期は、UNIXや高価なRDBやアプリケーションサーバーの代替としてOSSが選定されました。その大きな動機はコスト削減でした。これによって、「OSS=コスト削減」というイメージが強くなったのです。

 しかし、2010年ごろからOSSの流れが大きく変わりました。そもそもOSSが生まれる背景が、“代替としてではなくイノベーションを実現するため”に変化したのです。その結果、OSSを利用する目的もコスト削減ではなく、採用した側のイノベーションを実現するためという理由に変わったのです。最も分かりやすい例は、大量のデータの分散処理基盤となるOSS「Hadoop」が挙げられます。Hadoopは、Googleが検索などで収集した膨大なテキストデータのインデックス化の手法について発表した論文をもとにOSS化されました。Hadoopは何かの代替ではなく、大規模なデータ処理の効率化の目的で生まれたのです。現在では、Hadoopの採用が企業の成長エンジンとなってビッグデータを分析する企業のイノベーションを牽引しています。

 クラウド基盤となる「OpenStack」も2010年ごろの端境期に登場したOSSです。当時、AmazonのIaaSがクラウドで利用できるようになっていましたが、NASA(米航空宇宙局)がプライベートのクラウド環境でIaaSのような仕組みを欲しました。そこで、NASAとRackspaceによって開発されたのがOpenStackです。OSSとして公開されたことで、OpenStackコミュニティは多くのユーザーが参加でき、簡単に利用できるようになりました。

 構成管理ツールのOSS「Ansible」はRed Hat社内で生まれました。同じような作業の繰り返しで非常に多くの時間が必要とされる大量のサーバーのセットアップに課題を抱えていた中で、それらの作業をコマンド一つで済ませられないかと考えたRed Hatの技術者が開発して公開したのが始まりです。さらに、コンテナ型の仮想環境を構築できる「Docker」などは、PaaSを構築する際のさまざまな環境依存を回避するためのソリューションとして開発されています。

 このように、近年は、特定の問題を解決するためにOSSが生まれています。すでに存在するソフトウェアの代替として生まれた昔のOSSの流れと、革新(イノベーション)を導くために生み出されている現在のOSSの流れでは全く異なっているのです。Red Hatでは、Red Hat Enterprise Linuxだけでなく、近年のイノベーション目的で生まれた各種OSSの安定性向上に貢献し、企業向けのサポートを加えて、「Red Hat OpenStack Platform」や「Red Hat Ansible Automation」などとして提供しているのです。つまり、これらのOSSを利用するということは、お客さまご自身のイノベーションにも大いに貢献できるということを意味しています。

―イノベーションのために生まれたOSSを採用する企業の現在の環境については、どのように分析されていますか。

 企業は今、DXへの対応に迫られています。迅速な変化が求められていますが、数ある選択肢の中で、企画書(仮説)から生まれたソフトウェアでは、企画書を超えた世界を作ることは困難です。DXの先駆者とも言える企業は、自らが変化するためにソフトウェアを開発・公開しています。そうしたソフトウェアがOSSの中に数多く存在します。他の企業はそれらのOSSの利用によって、先駆者と同じようなスピード感でITシステムを構築できる可能性があるのです。このような認識を持つ企業においては、DXを実現させるためにはOSSを活用する方がより望ましいという認識に変わってきています。

 OSSが生まれたそもそもの背景には、ソフトウェアは公開して共有することで初めて成長するという思想があります。例えば、ライセンスの考え方としてプロプライエタリの世界では、著作権である「コピーライト(copyright)」が基本です。これは、ソフトウェアの権利、そして企業の利益を守るためのものです。一方、OSSの世界では、「コピーレフト(copyleft)」というライセンスの考え方が主となります。コピーレフトは、著作権については著作者が保持したまま、ソフトウェアの発展のためであれば、だれでも自由に改変や再配布ができるという考え方です。こうしたコピーレフトの考え方によって、新しいアイデアがどんどん追加されて、さまざまなOSSが成長してきたのです。そして現在では、イノベーションを生むための源泉として、企業システムに取り入れられているのです。

オープンハイブリッドクラウド戦略

―現在Red Hatが進めるオープンハイブリッドクラウド戦略について教えてください。

 まずハイブリッドクラウドとは何かについてですが、ハイブリッドクラウドとはオンプレミスの物理/仮想環境、プライベートクラウド、パブリッククラウドを自在に活用できるシステム環境を指します。ハイブリッドクラウドこそ、次世代のデータセンターの姿であると目されているのです。

 ただし現状では、各環境それぞれにおいて、ネットワークの仕様やストレージ、アプリケーションの使用言語などさまざま違いが生じています。当社が提供するRed Hat Enterprise Linuxだけでは吸収できない差異が多くあるのです。そのため、それぞれの環境のために技術者や運用管理の仕組みが必要になっています。さらに、プライベートクラウドの運用管理とパブリッククラウドの運用管理なども異なります。そうなることで、物理、仮想、プライベート、パブリックなどそれぞれがサイロ化してしまっているのです。

 ハイブリッドクラウドを実現させるためには、さまざまなレイヤーの差異を隠蔽する仕組みが必要です。それができることによって、環境やシステム種別に依存せずに、共通の技術要素でアプリケーションの開発やシステムの運用管理が可能なハイブリッドクラウド環境を実現することができます。このようなハイブリッドクラウドの環境を実現するOSSが、「OpenShift」です。OpenShiftは、Dockerを含む標準的なコンテナの実行環境と、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイや自動スケーリング、自動的な運用管理を実現するOSS「Kubernetes」を統合した基盤を提供しており、まさに企業向けコンテナアプリケーションのためのプラットフォームとも言えます。

 OpenShiftのコアとなるKubernetes は、Google のデータセンターの運用モデルから生まれました。限られた人数で膨大なシステムの運用を実現させるには、さまざまな環境やデータセンターをまたがった共通の運用モデルを適用すべきです。そのモデルを実現させたソフトウェアのOSS版がKubernetesです。端的に言えば、大規模なデータセンターを少人数で運用可能にするOSSですね。そのためKubernetesは、さまざまな環境の共通基盤の役割を果たせます。

 Kubernetesがパブリッククラウドとオンプレミス環境との間に存在する「技術格差」を解消するという指摘をした記事がありましたが、まさにその通りだと感じています。Kubernetesによって、Googleのような運用効率のいいデータセンターの管理をどのような企業でも簡単に実現できるようになるのです。そして、このKubernetesにエンタープライズ向けのサポートを付加して提供しているのが「Red Hat OpenShift Container Platform」です。

 このように、OSSを活用しオープンで柔軟なインフラ環境の構築を実現するのがオープンハイブリッドクラウドであり、当社はRed Hat OpenShiftをはじめとする製品群の提供で、オープンハイブリッドクラウド戦略を推進しています。目指す世界は、皆さんのデータセンターのイメージにあるビルディングやサーバールームの壁を取り払い、物理環境や仮想環境だけでなく、プライベートクラウドやさまざまなな地域にあるパブリッククラウドをも一つのデータセンターにとらまえた地球規模のハイブリッドクラウドを実現する次世代のデータセンターモデルです。このようなオープンハイブリッドクラウドの実現によって、企業のデータセンターやアプリケーションの運用は、Googleなどの大規模なクラウドプロバイダーと同じように、非常に効率良く実行できるようになります。

潜在市場規模は100兆円

―販売パートナーのビジネスチャンスはどこにあるのでしょうか。

 現在のパブリッククラウドのグローバルの市場規模は20兆円ほどですが、潜在的な市場規模は企業のデータセンターなどプライベートクラウド市場を合わせると100兆円と言われています。企業のデータセンターではまだまだレガシーなシステムが稼働していて、多くの改善の余地があるからです。オープンハイブリッドクラウドで実現する新たなデータセンターのモデルは、100兆円という広大な市場を開拓できるチャンスを創出するでしょう。

 オープンハイブリッドクラウドは、イノベーションを実現させるだけではなく、既存のシステム環境で足かせとなっていた運用や管理、そしてコストの無駄も解消できます。例えば、現在のITシステムのモデルでは、システムが膨れ上がると同時に、人も工数も増大します。多くの無駄が発生しており、将来的には必ず行き詰まるはずです。

 一方で、システムの規模が膨れ上がっても、そのシステムの運用管理に関わる人数は増えず、開発や変更に関わる工数を少なくすることができれば、企業に多大なメリットをもたらします。こうした世界は、既存の物理や仮想化のシステム環境ではとても難しいです。それに対してOpenShiftなどのOSSを活用したオープンハイブリッドクラウドやAnsibleなどを利用すれば、そうした世界が可能になります。

 ただし、オープンハイブリッドクラウドはまだまだ新しい環境であるため、そのノウハウを伝え切れていません。販売パートナーの皆さまにもその魅力やビジネスチャンスについて、広めていきたいと考えています。もちろんソリューションのデリバリーだけでなく、いかに付加価値を付けた提案が実践できるかが鍵になるでしょう。そうした提案のお手伝いも販売パートナーさまにさせていただきます。

 パートナーさまとの協業を深めることで、2019年はオープンハイブリッドクラウドを戦略から実践へとシフトさせるフェーズと当社は捉えているのです。

―実践フェーズへと移行できる理由を教えてください。

 まず、コンテナなどハイブリッドクラウドを構成する技術の認知度が高まってきたことがあります。加えて、ソフトウェアスタックが年内にそろうことも大きいですね。実際には、いくつかのソフトウェアがバージョンアップします。それによって、ベアメタルの世界を簡単にクラウド化できるようになります。具体的にはRed Hat OpenStack Platformのベアメタルデプロイメントの機能が強化されて安定性が増します。これによって、ベアメタル上でRed Hat OpenShiftを稼働させられるようになるのです。つまり、スケールアウト型のコンテナプラットフォームをベアメタル環境で手に入れられるようになります。

 現在、Red Hat OpenShiftの8~9割は仮想環境のハイパーバイザー上で動いており、依然として無駄なリソースが使われています。それに対して、ベアメタル上にハイパーバイザー抜きでRed Hat OpenShiftの環境を自動的にデプロイできるようになれば、リソースを大幅に効率化できます。例えば、100台のサーバーが必要だったシステムが50台で実現できるというようなことも可能になるかもしれません。この技術の採用によって、今後、お客さまのシステムのさらなるスリム化が可能になるでしょう。

 現在は仮想化ベースのクラウドからコンテナべースのクラウドへと移行する大きな地殻変動の時期を迎えています。このような中で、昨年、IBMによるRed Hatの買収が発表されましたが、IBMのリソースがRed Hatに加わることで、オープンハイブリッドクラウド戦略をさらに強力に推進できると期待しています。

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