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変化に強くなるコンテナ化で2025年の崖を越えよー日本アイ・ビー・エム

変化に強くなるコンテナ化で2025年の崖を越えよー日本アイ・ビー・エム

2019年02月07日更新

OSSを活用できれば2025年の崖を越えられる

1998年に同社のPCサーバーでLinuxの扱いを開始して以来、20年以上にわたってOSSへの取り組みに注力してきたIBM。昨年、Red Hatの買収を発表した背景には、企業システムにおけるOSSの位置づけの明確な変化がありそうだ。同社のOSSに対する取り組みとこれからの展望を、日本アイ・ビー・エムでクラウド事業を担当する田中孝清氏と斎藤和史氏(いずれも以下、敬称略)が語った。

(左) 日本アイ・ビー・エム HybridCloud Presales Engineer 兼 WebSphere Specialist 田中孝清氏氏 Takakiyo Tanaka
(右) 日本アイ・ビー・エム HybridCloud Presales Engineer 兼 Kubernetes Developer Advocate 斎藤和史氏 Kazufumi Saito

「現在、オープンテクノロジーでクラウドネイティブ環境を構築するソフトウェアの最前線は、KubernetesとIstio、そしてKnativeです」

OSSはイノベーションの源泉

―IBMのOSSに対するこれまでの取り組みを教えてください。

田中 IBMは業界で1、2を争うくらい、OSSにコミットメントしてきました。今では業務システムへのOSSの採用は普通になっていますが、そうした環境の構築にIBMは多大な貢献をしてきたと自負しています。

 そもそもは1998年にIBM PCサーバーにLinuxの導入ディスクを同梱したのが始まりでした。同時期にPCサーバーにおけるLinuxのサポートも開始しています。1999年ごろには、「Apache HTTP Server」をIBMのWebサーバーとして採用しました。その当時は、『あのIBMがオープンソースを?』と大きな衝撃を業界に与えたものです。さらに「WebSphere Application Server」でLinuxを実行環境としてサポートするなど、それ以降も多くのソフトウェア製品でLinux環境をサポートしてきたのです。こうしたIBMの取り組みは、他の企業のOSSへの意識向上に寄与し、ビジネスの世界で本格的にOSSが使われる道筋を作ってきたと考えています。

 2001年には、IBMが製品として開発していたJavaの開発環境である「Eclipse」をOSSとして寄贈しました。同時に「Eclipse Foundation」を設立して、普及促進を図ったのです。IBMだけでは難しかったさまざまな企業での利活用の道がそれによって開けました。ソフトウェアをOSSとして寄贈し、さらに団体を設立して普及活動を推進するような流れもIBMが先駆けて実現してきたと言えるでしょう。

―OSSに取り組む意義を教えてください。

田中 やはりイノベーションにあります。IBMでももちろんソフトウェアの開発は行っていますが、単独の企業だけでソフトウェアを開発していくよりは、多くの参加者に協力してもらいながら作っていく方が、より早くイノベーションを実現させられるからです。業界全体を育てていくこともできますね。

 例えばEclipseは、拡張がしやすいモジュール形式ですが、OSS化によってさまざまな企業が拡張モジュールの開発に参加し、Eclipseとのセット製品として提供するような流れができました。このような、さまざまな企業、ユーザーが関わるエコシステムの形成が、Eclipseの利便性をさらに向上させ、同時に、市場拡大を大きく後押ししたのです。こうしたエコシステムの構築も、OSSへの取り組みの大きな意義と言えるでしょう。

 OSSにすると単純に利用者が増える利点もあります。技術者が技術を身につける場合、単独企業の製品の技術よりも、OSSのような業界標準となっている技術の習得に重きを置くケースが多くなっています。そもそも製品を利用してもらうには、技術者に技術を習得してもらわなければなりません。そうした視点でも、OSS化して業界標準としてエコシステムが形成されるような状況にするほうが、企業として利点があるのです。また、OSSへの取り組みは、直近の成果よりも、今後の企業システムに必要となる要素を予測した上での将来的なメリットが重視されています。

 OSSは、自社製品に取り入れる面でも大きなメリットがあります。必要な全てのソフトウェアを自社で開発するのは非常に手間がかかりますから。すでにOSSとして開発されたソフトウェアを適宜採用していくほうが、最新の技術などをスピーディーに取り入れられるのです。そうした中で、当社としては、EclipseにIBM独自の機能を追加したソフトウェアを「Rational」ブランドで提供してきました。また、「IBM Notes」などはEclipseのGUI部品で実装されているなど、当社のさまざまな製品の中にもEclipseの技術が採用されているのです。OSS化したEclipseの成果をIBM自身が享受しているわけです。

 OSS化には他の利点もあります。例えば、2017年に「WebSphere Liberty」をOSSとして公開していますが、ソースコードがオープンになることで、プログラムのバグを修正した際に、お客さまにソースコードのどこを直したのかを具体的に説明できるようになるなどのメリットがありました。売り上げについても、OSS化したからといって下がっているわけではありません。IBMが提供してきたサポートへの信頼性から、そのまま当社から購入していただいているお客さまが多いですね。

―企業のOSSの捉え方に変化はありますか?

田中 非常に変わってきています。例えばシステムへの導入では、誰が作成したソフトウェアなのかといった視点は重視されなくなってきています。OSSが普及し始めた初期の頃は、社内の稟議などを通すためにそのような視点が重視されました。しかし、最近は、サポートを提供する企業があるかどうかを気にされるお客さまはもちろん存在しますが、システムにOSSが入っているからといって問題視されるケースはありません。

 一方、OSSを自社のビジネスに活用するという側面では、ライセンスの部分で整備が進んできました。当社では「Eclipse Public License(EPL)」というOSSライセンスを利用するケースが多いのですが、このライセンスはビジネス活用が行いやすい点が特長です。派生製品を開発した際も、派生部分のコードの公開が不要なのです。このようなライセンスを多くのOSSが採用することで、OSSがビジネスに利用されやすくなってきたのですね。

 もちろん、IBMにとってもOSSはソフトウェア開発において欠かせない存在になってきています。例えば、WebSphereはIBM独自で開発している部分よりも、OSSから採用している部分の方が多くなってきています。OSSなしでは当社の製品開発やソリューション提供が難しい状況になってきているのです。

オープンテクノロジーとクラウドネイティブ

―OSSの最新の潮流について教えてください。

斎藤 現在は、ビジネスの変化にITシステムを迅速に対応させるため、クラウドの特性を最大限に活用できるクラウドネイティブの環境作りが進められています。そのポイントは、仮想化技術のコンテナベースでマイクロサービス(用途・目的ごとにつくられた小さなサービス)を動的にスケーリングさせられるようにすることです。

 例えば、コンテナを実現するソフトウェアとしてDockerがあります。Dockerで実現するコンテナは、従来のハイパーバイザーを利用した仮想化と比較して、リソース効率の高さ、環境の起動の早さ、ポータビリティ面で優れています。そして、多くのDocker環境を統合管理できるオーケストレーションツールがKubernetesになります。これらを含めて、現在、オープンテクノロジーでクラウドネイティブ環境を構築するソフトウェアの最前線は、Kubernetesと「Istio(イスティオ)」、そして「Knative(ケイネイティブ)」になるでしょう。IBMは、これらに積極的な投資を行っており、当社だけでなく他の企業と共同で開発を進めています。

 その盛り上がりを示す一例としては、Kubernetesやその他のクラウドネイティブテクノロジーに特化したカンファレンス「KubeCon/CloudNativeCon」への参加者の増加があります。昨年末に米シアトルで開催された同カンファレンスにおいては8,000人以上の技術者が世界各国から参加しました。日本からも約200名ほどが参加しています。また、国内最大のコンテナカンファレンス「Japan Container Days」(2018年4月、12月開催)においても、約1,000名の来場者があり、セッション数は60を超えました。これらのカンファレンスの中心テーマになっているのが、Kubernetesなのです。ここまで盛り上がっているのは、従来の先端的な開発者だけでなく、エンタープライズのユーザーが参加し始めている背景があります。

 例えば、Kubernetesを利用すれば、開発環境、テスト/本番環境を同様の仕組みで1発で作り上げられます。1コマンドでリリースを実行でき、ロールバックも可能です。一括運用と自動管理も実現します。これらは従来、IBM製品の独自機能として提供していましたが、利用できる環境の制限が生じていました。Kubernetesベースにすることで、さまざまな環境で同一の仕組みを利用でき、ユーザーの負荷を大幅に減らせるようになるのです。ここに業界標準のOSSを使うメリットが存在します。近年のIBMは、お客さまの選択肢を増やす方向にかじを切っているのです。

―IBMでも最新OSSの活用は進んでいるのでしょうか。

斎藤 はい、IBM自身もこれらの仕組みを自社サービスに採用しています。例えば、「IBM Watson」は従来SaaSのようなクラウドサービス型で提供されてきましたが、現在は、コンテナ化されていてKubernetesで動くようになっています。そのため、AWSやユーザーのデータセンター上でも利用できるようになりました。こうした可搬性の実現にコンテナは欠かせない存在であり、実際の運用や管理においてKubernetesが利用されているのです。同様に、WebSphere、Db2などIBMのあらゆるサービスをコンテナ化して、どのような環境でも動かせるようにしています。そうすることで、IBM Cloudだけではなく、他のクラウドサービスやオンプレミスの環境などユーザーの好みの環境でIBMのサービスを利用してもらえるようになるのです。

 また、IBMがGoogleやRed Hatなどと設立した、クラウドネイティブを促進するプロジェクト管理団体「Cloud Native Computing Foundation」では、クラウドネイティブ化への道のりとして、コンテナ化、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)、オーケストレーション、サービスメッシュなどを挙げていますが、企業がこれらを実現するOSSを組み合わせてシステム化するにはそれなりのサポートが必要です。そこでIBMでは、最適なOSSの組み合わせをサポート付きで提供していきます。

 オープンソースはさまざまな細かい流れがたくさんあり、それらをお客さまが一つひとつ試していくのは無理があります。そうした中でIBMが最適なOSSを選択して、製品としてパッケージングして提供していくことで、お客さまのOSS活用を後押ししているのです。

OSSで2025年の崖を越える

―OSSと企業システムの今後の関係について、どのように捉えているのでしょうか。

田中 IBMのミドルウェアは現在、基本的にコンテナ対応を基本としており、お客さまシステムのクラウドネイティブ化をサポートしていきます。コンテナ化はつまり、変化に対して強くなることを意味します。最近は「2025年の崖」(既存システムの課題が克服できない場合、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じる可能性があること)という表現も使用され始めたように、古いシステム運用の改善が指摘されています。国内企業においては、塩漬けのシステムばかりでそのメンテナンスに多額の費用がかかってしまっているケースが少なくありません。

 そうした課題を解決する手段として、OSSやコンテナ技術が存在するのです。OSSはイノベーションを促進する要素であり、運用面などの守りの部分をいかに効率化するかという側面でも大きな力を発揮します。コンテナ技術の採用は、日本のIT業界にとって必須と言えるでしょう。イノベーションの源泉として、あるいはお客さまへの質の高い選択肢を提供していく手段としてOSSの採用は重要になってきているのです。IBMとしてはこうした取り組みにこれからさらに注力していきます。

斎藤 これからはコンテナ技術を中核としたハイブリッドクラウドの世界が広がることになりますが、IBMが買収を発表したRed Hatもまた、製品の中核にコンテナ技術を据えています。具体的にはDockerとKubernetesを企業向けに提供するコンテナアプリケーションプラットフォーム「Red Hat OpenShift Container Platform」などがそうですね。このRed Hat OpenShift Container Platformを中心に、さまざまな製品やソリューションを開発している部分が、IBMとの共通項でもあるのです。

 OSSの最新ストリームを迅速に取り入れて、サポート付きでお客さまに提供していくというこれまでの取り組みが、Red Hatと一緒になることでさらに強化されていくでしょう。Kubernetesを愛する一個人としても、Red Hatとの今後が非常に楽しみです。

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