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キャッシュレス社会実現に潜む課題と解決策

キャッシュレス社会実現に潜む課題と解決策

2019年01月16日更新

Special Feature 2
Make retail business smart with cashless payments
キャッシュレスでリテールビジネスをスマートに

他国と比較して普及が進んでいないと指摘されている、日本のキャッシュレス決済。しかし、裏を返せばキャッシュレスにまつわるビジネスチャンスが存在するということだ。キャッシュレスは消費者の支払いの手間削減だけでなく、店舗側の人手不足解消や、業務効率向上にも役立てられる。小売り(リテール)業を始めとしたビジネスをスマートにする、キャッシュレスの最前線を知り、提案に役立てよう。

経済産業省が見据えるキャッシュレスの未来

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経済産業省は、2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を発表している。キャッシュレス・ビジョンでは、キャッシュレス社会実現のため、キャッシュレス決済の定義や、世界のキャッシュレス動向、日本のキャッシュレスの現状、その現状を踏まえた対応の方向性や具体的な方策などがとりまとめられている。今回はそのキャッシュレス・ビジョン策定に携わった担当者に、現在のキャッシュレス化の動向と、対応のメリットを聞いた。

進まない日本のキャッシュレス対応

 2018年4月に発表された「キャッシュレス・ビジョン」。その中で、現在の日本国内のキャッシュレス動向はどのように言及されているのだろうか。キャッシュレス決済比率を見てみると、2008年の11.9%から2016年には20.0%に推移しており、8年間で8%程度の上昇が認められている。着実にキャッシュレスが浸透している状況にはあるものの、他国と比較するとその普及率は十分とは言いがたい数値だ。キャッシュレス・ビジョンの策定に携わった経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 消費・流通政策課 併 物流企画室 係長の小暮千賀明氏は、日本のキャッシュレス化に対する動きについて、次のように語る。

「他国と比較すると、日本のキャッシュレス化は進んでいません。その社会的背景には、盗難が少なく、現金を落としても返ってくることが多い『治安の良さ』。紙幣が比較的清潔で偽札の流通が少ない『現金に対する高い信頼』。店舗における『POSレジの処理が高速かつ正確』であり、店頭での現金取り扱いの煩雑さが少ないという安心感。またインフラとしてATMの整備が進んでおり『現金の入手が容易』であるなど、現金に対する社会的な整備が整っている点が、キャッシュレス支払いが普及しない要因として挙げられます」

 キャッシュレス化を進めるにあたって、店舗側に負担がかかることも、キャッシュレス支払いが進まない要因として挙げられた。具体的には、支払い端末の導入費や端末の設置スペースコストなどだ。また、現金支払いと比較して、支払いサービス事業者に手数料を支払うコストなどが存在する。実際に導入しても店舗スタッフが端末の使い方が分からなかったり、来店者がキャッシュレス決済を本当に使うか不明であったりと、“導入する前に感じる負担”が大きく、キャッシュレス対応に踏み切れないのだ。

経済産業省
商務情報政策局 商務・サービスグループ
消費・流通政策課 併 物流企画室 係長
小暮千賀明 氏

支払い情報のデータ利活用が進む

 小暮氏は、キャッシュレス決済が進むことによって、店舗側は大きなメリットが得られると指摘する。

「キャッシュレス化が進むことによるメリットは大きく3点あります。一つ目は生産性が向上できる点です。昨年の調査データですが、店舗のレジ締めは1台平均20~25分かかっており、店舗全体で考えると2時間半かかっているケースもあります。それがキャッシュレスの場合は一瞬で終わるのです。人手不足で生産性向上が求められている昨今において、キャッシュレスはそれを解決する一つの手段になり得るのです」

 二つ目のメリットは、キャッシュレスによってデジタル化される支払い情報などの、データ利活用だ。「現在最も重要視しているポイントです」と小暮氏は話す。物理的であった現金をキャッシュレス(=デジタル)にすることで、商流や物流、金流の連動を促進し、新たな顧客サービスに仕立てるなどの新たなビジネスが生まれる可能性が指摘された。

 三つ目はインバウンド対応だ。前述したように日本は他国と比較してキャッシュレス化が進んでいない。裏を返せば日本を観光で訪れる訪日外国人の多くは、母国での購買行動がキャッシュレス化されているということだ。「キャッシュレス決済と一口に言っても、欧米ではカードメイン、中国ではQRコードメインと、決済の仕方が異なるため、それらに対する対応が重要になります」と小暮氏は語る。

 キャッシュレスに対応していくことにより得られる上記のようなメリットを受け、今後キャッシュレス社会の実現に向けた取り組みの推進母体として2018年7月に産学官からなる「キャッシュレス推進協議会」が民主導で設立された。経済産業省も協議会にオブザーバーで参画し、今後のキャッシュレス・ビジョンなどは協議会主導で策定を進めていく。

 協議会では現在、QRコード決済の標準化や自動サービス機におけるキャッシュレス普及促進、キャッシュレス支払時におけるペーパー(レシート)レスなどについての協議を進めている。「APIガイドラインの整備も進めています。4月にキャッシュレス・ビジョンと同時に『クレジットカードデータ利用に係るAPIガイドライン』※を策定しており、API仕様やセキュリティ、利用者保護の対策について、規範としての方向性を示すことで、API連携に係る事業者におけるカードサービス提供の効率化や安心・安全な利用環境の創出などを目指しています」と小暮氏。

※本ガイドラインは、クレジットカード会社におけるAPI開放を強制するものではなく、カード会社が個社の判断においてAPIを開放する場合に、規範となる事項をとりまとめたもの。

スマートフォンの決済は停電時でも使える

 キャッシュレス支払いの手段について、小暮氏は「大きく分けて、カードによる支払いと、スマートフォンによる支払いに分けられます。また、資金の移動するタイミングで分けると、カードであればプリペイド、デビット、クレジットの三種類があります。また接触型と非接触型のカードにも分けられます。スマートフォンの場合は非接触型のNFC(FeliCa含む)による支払いと、QRコードを読み込むコード式に分けられます」と語る。これらの支払い手段の中で現在最も利用されているのはクレジットカードだ。また、定額の支払いは交通系や流通系のプリペイドカードで決済するケースも増えてきている。特にクレジットカードによる使いすぎを懸念する消費者は、プリペイドカードによる支払いを選択するケースが多いという。クレジットカードは口座から引き落とされるまで期間があるが、消費者によっては口座から即時に引き落とされるデビットカードの方が分かりやすいと考えるケースもあり、今後の伸びしろが期待できると指摘する。

「近年特に注目を集めているのがQRコードによる決済です。キャッシュレスシステムの中でも事業者側が導入するコストが低い点や、消費者側がスマートフォンを持っている比率が高まっておりQRコードによる決済を利用しやすい点などから、今後利用者数の増加が見込まれています。また、スマートフォンによる支払い方式としてNFCを利用した決済が挙げられますが、NFCはスマートフォンがなくても、ブレスレットやプラスチックカードなどに組み込めるため、高齢者や子供でも使いやすい支払い方法といえるでしょう」

 今後の普及推進に向けて、小規模事業者向け手引き書の作成なども進めている。加えて、スマートフォンなどの電子端末を使って決済するキャッシュレスは災害時に使えないという先入観により、活用が進まない側面もある。そこで経済産業省では、“災害に強いキャッシュレス”をキーワードに普及推進を促していきたい考えだ。小暮氏は「2018年は災害が多く、停電が起きた場合はキャッシュレス決済ができないという懸念の声がありました。しかし、スマートフォンさえ使えればキャッシュレス決済は可能です」と指摘する。

 例えばQRコードを使用した決済の場合、紙にQRコードを印字しておけば、消費者側はそれを読み込んで決済ができる。またクレジットカードは、災害時ではインプリンタのような利用として、カード番号を店舗で伝えれば利用できるため、オフライン環境でもキャッシュレス決済が可能だ。

「意外と考えられていないことですが、現金を流通させるためには、被災地に現金を運ぶ必要があります。しかし、災害が起こった際に物資よりも先に現金が輸送されるとは限りません。災害時に現金が手元にない環境でも、食べ物などを購入するために、キャッシュレス決済ができる環境を整えておくことも必要な取り組みです」と小暮氏。

 利用率を踏まえれば、まだまだ伸びしろのあるキャッシュレス決済。昨今では店舗が導入するキャッシュレス決済のための端末も低価格になっており、提案もしやすくなっている。また、消費増税に合わせたキャッシュレス決済普及推進なども検討されており、大きなビジネスチャンスが到来していると言えるだろう。

キャッシュレス支払いを導入しない理由の上位に「手数料が高い」「導入によるメリットを感じられない」「現場スタッフによる対応が困難」が挙げられている。この三つの項目が解消できる製品提案が、キャッシュレス化を進める鍵になりそうだ。

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