
最先端テクノロジーが日本の社会変革とデジタルトランスフォーメーションの起点
マイクロソフトCEO(最高経営責任者)サティア・ナデラ氏が来日
2018年11月5日からの3日間、都内のホテルで開催された日本マイクロソフト主催の『Tech Summit 2018 & Business Leaders Summit』にマイクロソフト CEO(最高経営責任者) サティア・ナデラ氏が来日し、基調講演に登壇した。ナデラ氏はマイクロソフトが作ったテクノロジーが重要なのではなく、マイクロソフトが作ったテクノロジーによって企業や社会がどのような問題を解決できたのかが重要だと話し、企業と社会への貢献に注力していることをアピールした。
変革は最先端テクノロジーが起点
ふさわしいパートナーがけん引
サティア・ナデラ氏は世界中の人々が大きな変化に直面していると指摘し、その変化についてコンピューティングが現実世界のあらゆるところに埋め込まれていることを説明した。実際、自宅や職場、工場といった場所、そして小売り、医療、さまざまな産業といった業種、そして機械や自動車など、あらゆるところでコンピューティングが引き起こした変革を迎えている。
そしてこれらの変革は世界中の全ての人々にチャンスを生み出しているという。ただしそのチャンスを享受するには方程式「Tech intensity=(Tech adoption)^Tech capability」が重要になる。
まず方程式の右側から見ていくとTech adoption、すなわち最先端のテクノロジーをいち早く導入することが変化の起点となり、それが生産性の向上や新たな事業の創造といった具体的な成果につながり、それに伴って企業や組織の文化や考え方も変化していく。
このようなテクノロジーを起点とする変化がうまく連鎖していけば、その企業や組織には独自のTech capability(組織的な能力)が育まれ、ビジネスに独自の価値をもたらすことになる。「intensity」とは直訳すると「強度」や「強烈」という意味で、サッカーでよく使われる。Tech intensityとは差しずめテクノロジーを貪欲に活用して競争力を著しく高める意識や状態という意味になろうか。
この方程式を成立させるには最先端テクノロジーを素早く採用することだが、社外から調達できるものを自社で作るのは時間や労力、コストの無駄である。ただしテクノロジーにはサイバーセキュリティの脅威などさまざまなリスクが潜在するが、そうしたリスクのある信頼できないサプライチェーンに依存してはいけない。
ビジネスモデルにも信頼性が必要だ。足並みのそろった安定した関係を持てるパートナーと組むべきである。そのパートナーとしてふさわしくあるようにマイクロソフトは務めていると強調する。
ナデラ氏は講演の締めくくりに「日本の社会や企業がデジタルテクノロジーによってさらに発展・成長する機会が多くある。マイクロソフトは日本の社会変革に貢献していく」とアピールした。
インテリジェントクラウドと
インテリジェントエッジが基盤
ソフトウェアやデジタルテクノロジーは人間が作り出すものだ。もしも作り出した人がいなくなったとしても、ソフトウェアやデジタルテクノロジーを導入した企業や社会は残り、それを使い続ける。だからテクノロジーは作った人が重要なのではなく、作ったテクノロジーが企業や社会にどのような貢献ができたのかが重要となる。
マイクロソフトはテクノロジーを作ることを重視しているのではなく、企業や社会に貢献できることを重視している。その目標に向けてマイクロソフトは企業や社会がより多くのテクノロジーを活用できるようにするためのテクノロジーを作り、提供している。
今後、テクノロジーはインテリジェントクラウドとインテリジェントエッジを基盤とした変革が起こるだろう。実際にマイクロソフトではインテリジェントクラウドとインテリジェントエッジを基盤として、モダンワークプレース、ビジネスアプリケーション、アプリケーションインフラ、データ、AIなどさまざまなサービスを提供している。
これらのさまざまなサービスは材料だ。ユーザーとなる企業や組織はこれらの材料を積み木のように組み合わせて、最先端テクノロジーを容易に、素早く活用することができる。そして顧客や取引先など人との関わり方を変え、社員が能力を発揮できる文化を育み、サプライチェーンを最適化し、そして製品やサービスの質を変えていく、デジタルトランスフォーメーションの成果につながる。
インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジの上に展開されているさまざまなサービスを通じて、企業や社会が成果を得るための手伝いができると考えている。
世界54地域でデータセンターを展開
日本では容量を2倍に増強する
デジタルトランスフォーメーションの起点、そしてTech intensityを具現化したものがAzureであろう。マイクロソフトはAzureを世界のコンピューターとして構築している。Azureは世界の54の地域にデータセンターを展開しており、それぞれの地域で複数のデータセンターを運用している。
全てのデータセンターは国や地域、業界ごと、データの主権に関するあらゆる認証や認定を世界中のどのクラウドプロバイダーよりも取得している。またデータセンター間を接続するケーブルの長さは地球と月を3往復できる長さに達している。
日本では東日本と西日本の2カ所でデータセンターを運用している。今後、これら日本の2カ所のデータセンターのキャパシティを2倍にする予定だ。
インテリジェントエッジも拡張していく。Azure Stackによって全ての店舗や工場、医療機関などが自分たちのAzureを持つことができる。またIoTの普及にも貢献したい。毎年90億個のセンサーなどのマイクロコントローラーが出荷されている。これはPCやスマートフォンなど、どのようなデバイスよりも多い数だ。
このIoTデバイスの接続や監視、制御、IoTデバイスから収集するデータの分析などIoTソリューションに必要なサービスをAzure IoTで提供している。いずれ電子レンジや冷蔵庫もAzureの一部になるだろう。
分散型コンピューティングで重要なのは開発者にとってシンプルであることだ。シンプルにアプリケーションを開発できるよう、Azureはエッジでもクラウドでも共通の認証基盤や共通の開発モデルを提供し続ける。
テクノロジーはコモディティ化
差別化する部分は事業
これからはどのようなアプリケーションも全てAIが関連するだろう。マイクロソフトはAIの分野においても最先端の研究を続けている。その成果として、物体認識、音声認識、機械読解、機械翻訳などにおいて人間並みの能力をすでに実現している。
なぜマイクロソフトはAIへ取り組むのか。それはAIを民主化したいからだ。AIという最先端テクノロジーをAzureを通じて積み木として提供しており、誰もがAIを活用できる環境を実現している。
マイクロソフトも私(ナデラ氏)自身もAzureやMicrosoft 365、Dynamics 365を活用している。例えばスケジュールの確認やすぐにするべき仕事の指示などをコルタナに助けてもらっている。その結果、時間の節約になるし、しなければならない仕事に集中でき確実に行える。これらはAIによる効果だ。
こうしたAIの効果はMicrosoft 365やDynamics 365にも搭載されており、さまざまなアプリケーションで活用できる。こうしたマイクロソフト自身、私自身も変革を起こしている。
テクノロジーはコモディティ化している。差別化する部分は事業が生み出す成果の部分だ。マイクロソフトは企業や社会が成果を得るために活用できるテクノロジーをサービス提供して、企業や社会の成功に貢献していくと強調した。
最後にナデラ氏はマイクロソフトがAIによって社会の課題を解決するための取り組み「AI for Good」の一環として、東北大学 災害科学国際研究所 研究員のバイ・ヤンビン氏がAzure、AI、リモートセンシングを活用した災害に強く、災害を予防できる社会づくりに向けた研究を紹介した。
また新たな4,000万ドル規模の5年間にわたるプログラム「AI for Humanitarian Action」も紹介した。これは災害対策、児童保護、難民支援、人権保護においてAIを活用する活動だ。
ナデラ氏は「日本の社会や企業がデジタルテクノロジーによってさらに発展・成長する機会が多くある」と指摘し、「マイクロソフトは日本の社会変革に貢献していく」と締めくくった。
Tech Summit 2018 & Business Leaders Summit
基調講演レポート
講演のオープニングでステージの大型スクリーンに舞台裏にいる日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏の姿が映し出された。そして平野氏は「このネクタイどうかな?」とスマートフォンに問いかける。するとスマートフォンが電子音で「今のネクタイでいいと思うよ」と答えた。これは現在日本マイクロソフトが開発中の「共感視覚モデル」を採用したスマートフォン向けAI「りんな」のデモンストレーションだった。
人とAIのコミュニケーションを実現
スマホ向けAI「りんな」を発表
日本で開発し日本で最初にリリース
ステージに登壇した平野氏が「皆さんこんにちは、日本マイクロソフトの平野です」と話し始めると、胸ポケットに収められたスマートフォンのりんなが「おつです」と答え会場が笑いに包まれた。
さらにりんなが「見えないよ。ステージってまぶしいね」と会話を始め、平野氏がそれに応えてステージの照明を明るくすると「うわー、人がたくさんいるね。緊張するね。平野さん緊張してるでしょ」とりんなが話しかける。
平野氏は「AIと人が同じものを見てそれに対して会話ができるようになった。日本の開発チームがりんなに採用されている共感視覚モデルをはじめとする最先端テクノロジーを開発しており、スマートフォン向けAI りんなは他の地域に先駆けて日本でリリースする計画だ」と発表した。
会話を実現する三つのテクノロジー
従来のAIは画像に含まれる風景やモノに対する認識結果を提示する。しかしこれでは会話が継続できない。りんなはスマートフォンに搭載されたカメラを自分の目として使い、目で見た画像の認識結果を回答するのではなく、人間と同じように感情を伴った感想を自発的にコメントし、それをリアルタイムで音声を生成して会話を実現している。
例えば複数の人や自動車が写った画像に対して「家族」「素敵」「クルマ」「動きそう」「気を付けて」という感情を含めた認識が可能となっている。その結果、人と同じ視線で会話ができ、人とAIとのコミュニケーションが実現できたのだ。
平野氏はりんなを実現した三つのテクノロジーを説明した。まず画像認識にすでに説明した共感視覚モデルを採用している。そして電話のようにお互いが会話している最中に話したり聞いたりできるよう、音声会話に全二重方式を採用している。さらにユーザーとコミュニケーションが長く継続できるようにするために、会話の内容からAIが自ら考える共感チャットモデルが採用されている。
人間の創造性の拡張が目的
平野氏は「AIのテクノロジーは人を置き換えるものではない。人間の創造性を拡張することが目的だ。AIのテクノロジーを使って社会やビジネス、日常生活がより充実するように活用していく」と強調した。
具体的には「インダストリーイノベーション」「ワークスタイルイノベーション」「ライフスタイルイノベーション」の三つの領域での変革を推進して日本の社会変革に貢献していきたいと意欲を語った。
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