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NVIDIAはレイトレーシングに革新を導くGPUアーキテクチャを提供

NVIDIAはレイトレーシングに革新を導くGPUアーキテクチャを提供

2018年12月10日更新

GPUコンピューティングの進化

INNOVATION3 NVIDIA

汎用的な処理に利用するGPGPUから始まり、現在はAI用途で極めて高い性能を発揮するようになったGPU。今後の進化は――。

並列演算能力を汎用的に利用

「ムーアの法則がやや行き詰まりを見せつつあり、CPUの進化が停滞を始めています。単純な一直線の処理性能(シングルスレッド性能)の向上は頭打ちになってきているのですね。クロック周波数などの上限もそれほど伸びていません。これに対してGPUは異なる仕方で処理を行うため、その優位性が顕在化しているのです。GPUはもともと画面上に何百万とある画素の値を平行して計算するような並列演算が得意なプロセッサーです。CPUとはトランジスターの使い方が違っていて、計算のために演算機を横に並べて一斉に処理するようなイメージで、単純で大量の並列処理に強みを発揮します」――エヌビディア エンタープライズマーケティング シニアマネージャー HPC/DL/Cloud担当 佐々木邦暢氏。

 GPUは一貫して並列演算の性能を向上させる方向で進化してきた。現在でも年率1.5倍程度のペースでGPUの並列演算性能は高まっているという。グラフィクス処理のために開発されたGPUを一般的な処理に利用できないか。その問いから始まったGPGPUの試みは、AIの処理に生かされるようになってきている。

「ニューラルネットワークを何層も重ねたディープニューラルネットワークの計算(ディープラーニング)にGPUの並列演算性能が有効なのです。CPUだけで処理する場合と比較して大きな差が出ます。GPUは魔法の道具ではないので、あらゆる計算を速くできるわけではありませんが、GPUの最も得意とする演算性能は、今、最も注目されているディープラーニングにマッチしている状況なのです」(佐々木氏)

 GPUを利用したAI、ディープラーニングは現在、実際のビジネスにも生かされ始めている。例えば、ごみ焼却施設では、炉の中を最適な状態にするために従来まで焼却炉の中のごみに対して目視で燃えやすいものや燃えにくいものなどを選別し、クレーンで分けていた。その判断を監視カメラとAIを使ってコンピューターで行えるようにしているのだ。

「本田技研工業では、車の衝突シミュレーションの際に、不要な計算をなくすためにディープラーニングを使ってコンピューターに判断させるような使い方を始めています。総当たりで全ての計算を実施するのではなく、予想をつけて必要な計算だけを行える環境を構築できるのです。これによって圧倒的な短時間で結果が得られます。他のシミュレーションも行いやすくなるのです」(佐々木氏)

 パナソニックが開発した顔認証システム「FacePRO」にもGPUとディープラーニングが応用されている。ディープラーニングによって、従来は照合が困難だった斜め顔(左右±45度、上下±30度)や経年変化、サングラス、マスクで部分隠蔽された顔の照合も可能にしている。

エヌビディア 佐々木邦暢 氏

「VoltaではAIやディープラーニング用途をアピールしていましたが、Turingではレイトレーシングに革新を導いています」

リアルタイムレイトレーシング

 AIやディープラーニング用途で多大な威力を発揮するGPUの開発において、NVIDIAは8月に「Turing」という新世代のGPUアーキテクチャを発表した。「世代別に分けると、『Pascal』が6、『Volta』が7、そして『Turing』が7.5に該当します。VoltaではAIやディープラーニング用途をアピールしていましたが、Turingではそれらの性能をもとにレイトレーシングに革新を導いています」(佐々木氏)

 レイトレーシングは、光線の反射・屈折などをシミュレートして立体像を作る手法だ。NVIDIAのサイトではTuringについて、「現実のような光源、反射、影のための決定的なソリューションで、従来のレンダリング技術ではなしえなかったリアルな描写が実現する。Turingはリアルタイムのレイトレーシングに対応した初のGPU」と表現している。

 Turingには、数値演算用の「CUDAコア」と、ディープラーニング向けの「Tensorコア」、そしてレイトレーシング向けの「RTコア」が搭載されている。「従来までCUDAコアを使って計算していたレイトレーシング処理をRTコアへオフロードすることによって、極めて高速なレイトレーシング処理を実現させています。レイトレーシングに必要な推論処理はTensorコアで一瞬で行えるので、リアルタイムの高速なレイトレーシングが可能なのです」(佐々木氏)

 Turingは、VFXやゲーム業界において、レイトレーシングを大きく変える存在になると佐々木氏は断言する。

Turingはリアルタイムのレイトレーシングなどによって、完全没入型のVRも推進する。写真はNVIDIAのブログより。

コンピューターが直感を持つ

 Turing世代のGPUとしてNVIDIAが提供を開始したのが、「NVIDIA Tesla T4」だ。AIのさまざまなアプリケーションを加速する多精度の推論パフォーマンスを発揮できる推論アクセラレーターとなる。

 Turing世代のディープラーニング向けTensorコアは、Volta世代から進化し、ディープラーニングの推論をさらに高速化しているという。また、コンパクトなフォームファクターと70Wの電力設計で、スケールアウトサーバー向けに最適化されており、リアルタイムで最先端の推論を実行することに特化している。

 このNVIDIA Tesla T4について佐々木氏は、「データセンターにおけるコスト削減の大きなキーにもなると考えています」と示唆する。クラウドサービスベンダーなどのハイパースケールなデータセンターで稼働しているコンパクトなサーバーにNVIDIA Tesla T4を大量に搭載させることで、サーバー台数や設置面積、電力の削減などが可能になるからだ。

 推論処理において高いパフォーマンスを発揮するNVIDIA Tesla T4は、学習処理で高い性能を発揮する「NVIDIA Tesla V100」との組み合わせによって、さらに効率的なディープラーニング処理が可能になるようだ。

 現在も医療現場における診断補助や新薬開発といった社会貢献の領域から、新製品開発におけるシミュレーション用途などさまざまな目的でGPUの能力が活用されるようになってきている。これからは、さらに並列演算の性能を伸ばしていくことで、新しい利用の仕方も生まれるだろうと佐々木氏は予測する。

「例えば、目の獲得によってカンブリア紀に生物が爆発的な進化を遂げたと言われていますが、現在はディープラーニングによってコンピューターが目を持ち始めたと例えられています。その言葉通り、映像や画像を用いた判断用途でAIやディープラーニングの仕組みが活用され始めています。深海探索を行う探査機の映像から未知の生物を探す試みなども行われています。また、GPUを用いて生み出したシミュレーションデータを、AIの学習データとして利用するような使い方も出てきました。こうしたディープラーニングの強化が進めば今後は、人間特有の“直感”をコンピューターが持つ日も遠くないのかもしれません」(佐々木氏)

ユニバーサル推論アクセラレター「NVIDIA Tesla T4」。多精度の推論パフォーマンスを発揮する。

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