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ARによる遠隔指示を映像伝送技術を用いてスムーズに

ARによる遠隔指示を映像伝送技術を用いてスムーズに

2018年12月21日更新

マーカー不要で使用できるAR作業支援システム

保守点検などの作業を非熟練者が対応する場合、多くは熟練者がサポートとして隣で指示する。しかし深刻な人材不足が叫ばれる昨今、常に熟練者がサポートにつけるわけではない。そこで有用となるのが、ARを活用した遠隔作業支援システムだ。

映像伝送技術をAR作業支援に

 ネットワークをはじめとしたインフラの設備は、保守点検作業で継続的な運用をサポートする必要がある。保守点検作業を非熟練者が行う場合、熟練者が遠隔から指示を出すことが多い。ただし、遠隔から指示を出すオペレーターは現地の様子が分からず、ちょっとしたケーブルの差し替え作業であってもスムーズな指示を伝えるのは難しいという課題が生じていた。

 そうした現場で有用性を指摘されているのが、AR(拡張現実)だ。実在する風景にバーチャルの視覚情報を重ねて表示する技術を指す。例えば前述したようなケーブルの差し替えにおいても、作業者が実際に目で見ている設備に指示を重ねれば意図が伝わりやすく、作業の誤りも大幅に低減できるメリットがある。

 KDDI総合研究所では、遠隔の作業現場の支援をARで実現する遠隔作業支援システム「VistaFinder Mx」を提供している。VistaFinder Mxは、スマートグラスやスマートフォン、ノートPCなどで撮影した映像をあらゆるネットワーク回線を用いて、簡単かつ安全、高品質に生中継するシステムだ。現場作業員がスマートフォンやスマートグラスで現場の映像や音声をライブで本部に報告すると、本部のスタッフがリアルタイムに音声やARで作業を指示できる。

 VistaFinder Mxの開発の経緯について、KDDI総合研究所 ソフトウェアインテグレーショングループ 研究マネージャー 辻 智弘氏は次のように語る。「当社では30年前から映像伝送の技術開発を進めており、VistaFinder Mxはその流れをくんだプロダクトです。従来は放送局向けに、衛星回線しか届かないようなへき地に映像を送れる技術として展開していましたが、ネットワーク運用に携わっていた当社のスタッフが、その映像伝送技術とARの技術を組み合わせれば遠隔作業支援に使えるのではないかと提案したことがきっかけです」

ハンズフリーに作業可能

 映像伝送技術とARを組み合わせ、遠隔作業支援システムとして提供をスタートしたのが2014年のことだ。VistaFinder MxのARによる作業支援の最大の特長として、マーカーを使わなくても画像を認識して、ARコンテンツを表示できる点がある。

「高い画像認識技術を用いて、現場作業員側が表示させているケーブルなどに本部側のスタッフが手書きで文字を書き入れれば、そのケーブルに重ねてARを表示します。また現場作業員側が動いても、画像認識によって手書き文字を書き入れた場所を追従するので、例えば斜めから作業するケーブルを見ても、手書き文字が書き入れられた箇所がずれずに表示できます。また、画像認識によってARを表示させるため、事前にARマーカーを設置しておくような準備も必要なく、初めて保守点検に訪れた現場でも円滑な作業支援が可能です」(辻氏)

 同社が従来から研究開発を進めてきた映像伝送技術も、VistaFinder Mxによる円滑な作業支援を支えている。モバイルネットワークは、場所や時間によっては安定せず、通信品質が変動してしまうが、同社の映像伝送技術を用いればネットワーク品質が安定しなくても、品質に合わせて映像を送るため遠隔からの指示が行いやすい。

 セキュリティも担保されている。伝送する映像は、同社が開発した電子政府推奨暗号に選定された超高速超軽量ストリーム暗号アルゴリズム「KCipher-2」を使用して暗号化しているため、機密情報の存在する環境下においても安心して使用できる。またKCipher-2は既存の暗号アルゴリズムと比較して処理速度が速く、スマートフォンで映像を伝送する場合でも負荷が少ない。

 作業者側が使用する端末は、iOS、Androidが搭載されたスマートデバイスやWindows PCに加え、2メーカーのスマートグラス※に対応しており、ARで指示を受けながらハンズフリーで点検作業が行える。

※「Vuzix M100/M300」、または、「EPSON MOVERIO BT-300/350/2000/2200」。

災害現場の情報伝達に活用

 KDDI総合研究所 ソフトウェアインテグレーショングループ グループリーダー 菅野 勝氏は活用のメリットを次のように紹介する。「ARによる作業指示が可能になれば、非熟練者に熟練者の技術を教えやすくなります。ミスを減らすだけでなく、的確に作業できるようになるため、人材の有効活用が可能です。また作業者の映像を取得できるため、作業ログの蓄積や実際の作業に対するフィードバックなども容易になります。作業者と本部をつなぐネットワークは、クラウドはもちろんのこと、閉域網や社内ネットワーク、衛星通信などあらゆる回線を使用できます」

 衛星回線が使用できることで、保守点検などの作業支援以外にも、活用シーンは多様に広がっている。例えば災害が発生した自治体の職員が、災害現場でスマートフォンを利用して現場の情報を伝える場合、モバイルネットワークだと回線がパンクして伝送できない場合がある。しかし本製品であれば衛星回線が使えるため、セキュアに現場の映像データを本部に伝えることが可能だ。

 ユーザー企業への提供は、主にKDDIテクノロジーが行っているが、代理店契約を締結している企業がキッティングからシステム開発、ネットワーク構築など含めて納品した事例もある。「業界に特化してカスタマイズしている事例が多いですね。デバイスからネットワークまで柔軟な提供が可能な点も、作り込みがしやすいポイントです」と菅野氏は語る。

 今後の展開としては、バイタル情報などとの連携を検討しているという。例えば脈拍や体温、周囲の温度などの取得で、映像だけでは分からない作業員の環境を把握しつつ作業指示にあたれるシステムの構築を進めたい考えだ。

「ここ2~3年で市場が大きく伸張しました。特に最近はAIやIoT、5Gなどのキーワードが登場しており、それらの概念と本製品はマッチするポイントが多いです。IoTはスマートグラスやスマートウォッチ、スマートフォンなどさまざまなデバイスから情報を取って、業務や生活を効率化します。そうしたIoTデバイス同士を連携させ、集めた情報をビッグデータで解析し、ミス傾向を分析するAIを開発するなど、本製品を軸にさまざまな展開が考えられます。一つひとつ検証を進めながら、お客さまの期待に応えられる製品開発を進めていきたいですね」と辻氏は展望を語った。

VistaFinder Mxを活用すれば、作業者と本部をリアルタイムにつなぎ、ARで直感的な作業指示が実現できる。スマートグラスにも対応しており、ハンズフリーでの作業が可能だ。

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