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ダイキンの空調とNECのIoT/AIが眠くならないオフィスを作る

ダイキンの空調とNECのIoT/AIが眠くならないオフィスを作る

2018年11月09日更新

空気で働き方を変える

眠くならない空間作りに挑む
ダイキンの空調とNECのIoT/AI

 空間の視点から、オフィス業務の生産性を高めるアプローチが試みられている。空調機器を提供するダイキン工業とNECが共同で、知的生産性を高める空気・空間の実現に向けた研究を2016年10月から開始しているのだ。具体的には、ダイキン工業の「空気を最適にコントロールする技術」「空気・空間が人に与える影響に関する知見」と、NECのIoT/AI技術を掛け合わせて、新たな価値を提供する技術の確立に挑んでいる。研究内容は次の通りだ。

・空間利用状況のモニタリング情報に基づき、NECのAI技術で室内の温湿度を学習・予測し、空調や照明などのオフィス設備を最適な状態に自動で制御。快適性と省エネ性を両立する。
・人の状態(ストレス、心理要素)の可視化や、個々のオフィスワーカーのバイタルデータ(血圧、心拍数など)を加味した温湿度、照度との相関関係の研究を実施。
・個々のオフィスワーカーの業務内容と心身状態に相応しい環境をダイナミックに構成し、知的生産性を高める空気・空間を創出する。

 研究では両社が保有する以下の技術が活用される。

・ダイキン工業の空調関連技術および人体情報に関する知見
 温度/湿度コントロール技術
 気流制御技術
 光/音/色などが人にもたらす効果に関する知見
 知的生産性に影響がある因子に関する知見

・NECのIoT/AI技術
 個人を特定する顔認証技術
 人の行動を把握、予測する群衆行動解析技術
 感情を推定する音声認識技術
 振動や匂いなどのさまざまなセンシング技術
 センシング情報の分析に基づく最適空間モデリング技術

「共同研究では、IoTとAIで人の状態を推定し、執務内容に適した状態になるように空気・空間を制御できるソリューションの提供を目指しています」(ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター 西野 淳氏)

空調とIoT/AIの連携で業務に最適な空間の提供を目指すダイキン工業の実証ルーム。

環境制御によって覚醒度を適正領域に

 共同研究の開始から2年弱が経過した今年の7月、両社は執務空間の知的生産性向上に効果的な温度刺激の与え方を実証したと発表した。

「覚醒度から作業効率の推定が可能な点に着目しました。覚醒レベルとパフォーマンスには逆U字型の相関関係が成立するという心理学分野の法則『Yerkes-Dodsonの法則』があります。作業効率は適度な覚醒度で最大になり、覚醒度が低くても高くても効率は低下してしまうのです。そこで、覚醒度が適正領域から外れているときには、環境制御によって覚醒度を適正領域に導くことで、常に作業効率が高い状態に維持できると考えたのです」(西野氏)

 この場合の覚醒度は、脳の興奮度(リラックス-緊張)を示す指標となる。覚醒度が低いときは眠くなっている状態で、覚醒度が高いときは非常に興奮している状態だ。いずれの状態も作業効率は低下する。そこでダイキン工業とNECは、覚醒度の推定とそれに合わせた空調の制御によって、覚醒度を一定に保てる手法を検証したのだ。

 覚醒度の推定(センシング)技術の開発はNECが担当した。覚醒度については、本人申告や心拍に加えて、まぶたの動きから判断する推定方法が存在していたが、従来のやり方では、精度や利便性とコストの両立が難しかった。中でも精度と利便性がともに高いまぶたの動きを利用した手法では、顔を撮影した映像からまぶたの動きを抽出し、眼を閉じている時間やまばたきの回数から導き出していた。覚醒度の推定は高精度に実現するが、1回数100msecと動きの速いまばたきをリアルタイムに捉えるためには、毎秒15フレーム以上の高速な画像処理が行える高性能の端末が必要だった。

 そこで今回は、覚醒度の低下の兆候として、より低速な「まぶたの重さに耐える動き(まぶたの揺らぎ)」に着目して、低フレームレートの顔映像データからでも精度よく覚醒度を推定できるような技術を開発した。従来の3分の1に相当する毎秒5フレームの映像から、2種類のまぶたの揺らぎ(時間揺らぎ、左右差)を覚醒度の低下の兆候として捉え、覚醒度の低下レベルを従来と同じ精度で推定できることを確認したのだ。安価なIoT端末でも利用できるようになるので、コストが抑えられる。

「眠気の兆しが現れた早期の段階で少し涼しい状態になるように温度刺激を作って、覚醒度を適性な範囲に戻します」

ダイキン工業
橋本 哲氏(左)
西野 淳氏(右)

社会の課題を空気で解決

 ダイキン工業が担当したのは、温度刺激による覚醒制御技術の開発だ。「眠気の兆しが現れた早期の段階で少し涼しい状態になるように温度刺激を作って、覚醒度を適性範囲に戻します。完全に眠くなる前の兆候の段階で刺激を与えるのが効果的なのです」(ダイキン工業 テクノロジー・イノベーションセンター 橋本 哲氏)

 メカニズムは以下のようになる。人の覚醒と眠気に関わっている自律神経機能(交感神経と副交感神経)が体温調節にも関わっていることに注目。温熱的に中立な状態から涼しい状態になると交感神経が刺激されて覚醒度が高くなるメカニズムを応用している。

 覚醒度を適切に保つための刺激については、空調に加えて、照明とアロマも試した。検証の結果、温度刺激が最も高い効果が得られることが確認された。温度刺激による効果的なタイミングについても、眠くなってから刺激を与えるよりも、眠くなる前(眠気の兆しを検出した際)に刺激を与えた方が、覚醒を維持できることが実証された。また、温度刺激の状態への慣れを防ぐために、温度刺激を与えてから短時間で戻すようにすると、慣れによる覚醒度の低下が防止できることも分かった。

 これらの技術を連携させると、作業者の眠気の兆候を捉えたら、自動的に空調の温度がコントロールされて(例えば27度から24度に変更)、作業者の覚醒度を適正に維持できる環境が構築できるようになる。実際のシステムは、作業者を撮影するカメラと覚醒度を推定する端末、解析サーバー、Wi-Fiルーター、環境制御コントローラー、空調機などで構成される。

 すでにプロトタイプの制御システムが構築されていて、ダイキン工業やNECの検証用オフィスで実証が開始されている。今後は、フィールド実証のパートナーを拡大させていく予定だ。

「ダイキン工業は、社会の課題に対して、空気からのアプローチで解決を目指しています。いわば空気のプロフェッショナルです。NECさんとの共同研究では、IoTやAIの活用で、人の状態に合わせて空調を自動制御し、仕事に集中できる空気・空間を実現しようとしています。これまで空調は不快(暑さや寒さ、匂いなど)を取り除くような目的が強かったのですが、これからは+αの新しい価値を提供できるように研究を進めていきます」(橋本氏)

カメラの映像で作業者の眠気を検知すると、空調が自動的に制御され、一定時間温度が下がる。眠気の兆候が出た段階での早期の温度刺激が重要だ。

 続きを読む  成長の原動力はリモートワーク×5時〜22時のフレックスタイム制ーーWaris

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