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学びの基本インフラをiPadに集約したBYOD活用事例

学びの基本インフラをiPadに集約したBYOD活用事例

2018年11月26日更新

コミュニケーションを重視した教育変革を目指し
BYODによる1人1台タブレット環境を構築

学校現場で1人1台のタブレット環境を実現する場合、学校側から端末を貸与するか、生徒個人所有の端末をBYODで運用するかの二つのパターンがある。佼成学園中学校・高等学校は、後者のBYODによる運用で1人1台のタブレット環境を実現させた中高一貫の男子校だ。同校のICT教育への取り組みについて取材した。

検索型知識基盤社会に対応する
新しい授業スタイルに挑戦

 佼成学園中学校・高等学校は、東京都杉並区に校舎を構える中高一貫の男子校だ。同校では、2015年度から1人1台のiPadを活用したICT教育をスタートしている。佼成学園のICT教育を推進している同校の教頭 簗瀬 誠氏は同校のICT教育導入の経緯を次のように語る。

「きっかけは使いやすい電子黒板の登場でした。2011年ごろに発売された電子黒板が教育に活用しやすい機能を備えていたことを受け、教室への導入を検討していました。2013年にはICT委員会を設立し、韓国にICT教育の視察へ伺った内容をもとに職員会議でICTツール導入の答申・提案を行いました」

 簗瀬氏が佼成学園にICT環境を整備し、教育改革を進めていくことを決めた背景には、教育環境自体が大きく変わってきたことが挙げられる。すでに多くの生徒が、答えを教えてくれるデバイス(=スマートフォン)を持っており、検索すれば大半の知識は手に入ってしまう。そうした検索型知識基盤社会の中では、学びの場においてもICT機器が整備された環境であることが望ましい。また学びに求められる環境も、21世紀型能力の育成や、主体的・対話的で深い学びの実現など、大きく変化しており、教員は従来までの授業スタイルから、新しい授業スタイルへ挑戦していくことが求められている。このような変化を受け、ICT教育を推進していくことを決めたのだ。

 2013年の簗瀬氏の提案を受け、同校では2015年4月から8月にかけて全教室に電子黒板機能を搭載したプロジェクターを設置した。同年4月には同じく全教室にWi-Fi環境を整備、非常勤講師を含む全ての教員にiPadを貸与し、6月から高校1年生を対象に1人1台のiPadを活用した学習環境を整えた。2016年6月には中学校1年生から高校2年生までの学年にiPadを導入し、2017年6月には高校3年生までの全学年に、1人1台のiPad環境が整備された。

個人所有端末をMDMツールで管理
学びの基本インフラをiPadに集約

 同校の1人1台環境は、学校からの端末貸与ではなく個人所有の端末を授業で活用するBYODスタイルで運用している。ICT環境の整備を進めていく上で、貸与によるタブレット活用も視野に入れていたが「本格導入の前にトライアルを行い、個人所有で運用したほうが生徒自身も積極的に活用すると判断しました」と簗瀬氏。BYODで運用するため、自宅でiPadを所有している生徒は、その端末を持ち込んでもよい。しかし「学習に使う端末なので、もともと所有していた端末であってもMDMツール『MobiConnect for Education』(以下、MobiConnect)を設定しています」と簗瀬氏は学びで使うツールだからこその決まりを話す。

 MobiConnectによってAppStoreを非表示にする代わり、MobiConnectのストア機能『mobiAppsオンデマンド』を利用できるようにしており、教員や生徒のリクエストによって、認められたアプリの表示やダウンロードを可能にしている。タブレットの購入費や設定費用は各家庭が負担しており、新規にiPadを購入する生徒の場合、合計で7万300円を負担してもらっている(2018年度の場合。端末費のほか、管理ソフトウェアや保険の費用なども含まれる)。

 簗瀬氏は「当校で推進するICT教育の目的は四つあります。一つ目は、生徒たちの学びの変化。二つ目は、教員の指導力の変化。三つ目は学校の進化。そして四つ目は、ICTのC(Communication)をより充実させ、生徒・保護者・教員間のコミュニケーションを活性化させることです。これらの目的を実現させるために、iPadの導入をはじめとしたICT活用を進めていくことを決めました」と振り返る。

 同校の1人1台iPad環境で、基本インフラとして採用しているのが授業支援サービスだ。ホームルーム、クラブ、授業などの連絡や、書類配布、教材配布などを行っている。「生徒がiPadを毎日確認するためには、そこに必要な情報、コンテンツがなければいけません。当校では学年や授業クラスごとの校内グループによる交流や、学習記録、出欠や成績などの生徒カルテ、アンケート機能に至るまで、授業支援サービス内で行っています。連絡が全員に徹底されるようになるといったメリットが生まれ、生徒からは『先生との距離が近くなった』といったコミュニケーションに対する好意的な意見がありました」と簗瀬氏。

生徒同士での学び合いを実践した英語の授業風景。英語でプレゼンテーションをしてビデオを撮影するなど、iPadを活用した学びを積極的に行う。同校では海外の二つの大学で、英語を用いてプレゼンテーションを行った実績もある。

アクティブラーニングの実証実験も実施
自発的に学ぶことで養われる学力

 授業支援アプリ「ロイロノート・スクール」や、授業動画配信アプリ「スタディサプリ」を活用して、新たな授業形態へ挑戦し始めた教員も増えたという。例えばロイロノートでは、ジグソー法とルーブリック評価を組み合わせた学びや、反転授業などを行っている。また、英語の定期考査では、ロイロノートで問題を配信し、スピーキングテストを行っている。簗瀬氏は「スピーキングテストは試験前の授業において、音読やパッセージの要約、質問に音声で答えるといった課題が出題され、その課題に対して制限時間内に音声で回答して、その録音データを教員に提出しています。英語のスピーキングテストをCBT(コンピューターを利用した試験の総称)の形式で、定期考査の一部として組織的に導入した事例は全国初ではないかと自負しています」とその取り組みを語る。

 今後の同校の取り組みとして、eポートフォリオの利用を検討しているという。eポートフォリオとは、学習履歴や学習活動など、学びに関わるあらゆる記録をデジタル化して残すシステムのことを指す。現在、文部科学省が高大接続システム改革を打ち出しており、前述した学習活動の記録のほか、総合的な探求の時間や部活動、委員会活動といった活動の成果や学びを記録し、大学への願書提出時に活用することでも話題になっている。より多面的な評価の入試を実現できる点や、主体的な学びの実現に向けた指導に役立てられる。

 同校では、このeポートフォリオを活用した実証実験を行っている。2017年度2学期には、中学校1年生において、英語の授業の調べ学習や、校内の行事、ホームルームなどの振り返りを記録したことで、学習意欲向上や平均点上昇などの効果が見られたという。

「実証実験における英語の授業では、学び合いと振り返りを中心とした授業を実施しました。教員が一方的に教えるのではなく、教員から与えられた課題をもとに生徒同士で話し合いながら調べ学習を行い、プレゼンテーションするといった主体的な学びを実施したのです。授業時間ごとに学んだ内容をeポートフォリオに入力して振り返ることで、学びに対する主体性が変化していったように思います」と簗瀬氏。実証実験を行った学級以外は、このようなアクティブラーニングの授業スタイルではなく講義型のスタイルで授業を実施していたが、それらの学級と比較しても学力は同等であり、主体的に学びに取り組んだことによる学力へのデメリットは生じていなかったという。

 iPadを導入したICT教育を実践したことで、「教員の授業に対する引き出しが増えました」と簗瀬氏は効果を明かす。また、コミュニケーションが密に行えるようになり、従来と比較して生徒と教員の距離が近くなったという。同校では今後も、生徒や教員、ひいては学校の成長を目的としたICT活用を進めていく方針だ。

発表したクラスメイトにルーブリック評価を送る様子。ルーブリックとは生徒の学習到達状況を評価するための評価基準で、ルーブリック表を用いて生徒同士が互いに評価を行うことで発表内容の客観的な評価を得られる。

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