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医療IoTの課題を解決する無線規格

医療IoTの課題を解決する無線規格

2018年11月21日更新

無線でセンサーの時間同期を実現する
医療向けIoTの新規格“SmartBAN”

ヘルスケアの分野において、ウェアラブルデバイスなどのセンサーの活用が進んでいる。しかし、医療の現場においては、センサーからデータを取得する通信規格に課題があり、有線によるセンサー連携を行っている場合も依然として多くある。そうした医療現場に最適な無線通信規格「SmartBAN」の実用化技術を、東芝デベロップメントエンジニアリングと広島市立大学が共同で開発した。

医療現場で求められる
センサーデータの精度

 医療現場においては、心筋を動かしている電位を測定する心電位や、心拍による血管の拍動を測定する脈拍、脳の活動から生じる電位を測定する脳波など、さまざまな生体データが計測されている。

 これらの生体データをワイヤレスで送受信する場合に求められるのが、高い信頼性だ。生体情報に応じた許容誤り率でのデータ送受信や、緊急信号の低遅延伝送、他人との干渉回避など、医療現場で用いるからこそ、取得したデータに高い信頼性が求められている。
 また、複数のセンサーを人体の適切な部位に装着することが求められるケースもある。その場合、複数のセンサーの時間が同期して動作することも重要だ。例えば手首に装着する脈波センサーと、胸部に装着する心電位センサーが取得したデータを組み合わせると、血圧変動の解析が可能になる。しかし、既存の無線規格の場合、複数のセンサーの時間同期が難しく、センシングデータを連携できなかった。また、複数センサーを使用している場合、センサー同士が干渉してしまう課題もあった。そのため、医療現場において生体データをセンシングする場合は有線によるデータ取得が一般的となっていた。

 その課題を解決する無線規格が、「BAN」(Body Area Network)だ。BANは人体に近い範囲(約2m)で通信を行うために開発されたネットワーク規格で、医療やヘルスケア分野での利用が期待されている技術だ。特長として、既存の無線規格では対応が難しかった時間同期が可能である点が挙げられる。消費電力や伝送速度もBluetooth規格とほぼ同等であり、IoTで利用する上で最適な規格なのだ。

今年中の製品化を予定している「SmartBAN実験キット」。右から脈波センサー、心電センサー、ハブの構成だ。アプリケーションも提供される。

シンプルにBANを構築する
SmartBANの技術とは

 BAN規格において、東芝デベロップメントエンジニアリングはシンプルにBANを構築できる無線規格「SmartBAN」の技術開発を2015年から進めていた。SmartBANの技術仕様について、東芝デベロップメントエンジニアリング ソフトウェアセンター アプリケーション&プラットフォームソフトウェア担当 APソフトウェア第二チーム プリンシパルエンジニア 小森達也氏は次のように語る。

「SmartBANの優れたポイントは、既存のBAN規格と比較してシンプルな仕様である点です。スター型で最大16台のセンサーが接続でき、これらのセンサーの時間同期が可能です。センサーを接続するハブは、制御とデータの2チャネル構成となっており、異なるハブに接続されたセンサーと干渉しないようにチャンネルの自動変更を行いながら(制御チャネル)、センサーからデータを取得しています(データチャネル)」

 このSmartBANの実用化技術が、2018年7月17日にホノルルで開催した「IEEE国際会議40th International Engineering in Medicine and Biology Conference(EMBC)2018」で発表された。発表されたのは、冒頭で既存の無線規格における時間同期の課題として例示した「脈波伝搬速度(PWTT)による血圧の変動推定」における活用で、SmartBANによって時間同期をとりながらデータを取得する機能の評価に関する発表を実施した。

「手首に脈波センサーを装着し、胸部に心電位センサーを取り付けて、それらのセンサーから取得したデータを時間同期して確認することで、血圧の変動を推定する技術です。心拍の拍動によって生じた脈波が血管上を伝わる時間を脈波伝播時間といい、脈波伝播時間が短くなると血圧が上昇しており、長くなると血圧が低下しているという推定が可能です。人の血圧を常時監視するためには、腕などに常時圧をかけて計測する必要がありますが、SmartBANによる時間同期のセンシングを活用すれば、二つのセンサーデータを組み合わせた測定値から血圧の変化を推計できるのです」(小森氏)

 小森氏が語った血圧の推定は、従来の技術であれば有線によるセンサーデータ取得で行われていた。しかしSmartBANを利用しワイヤレスに推計することで、有線接続による煩わしさから解放されるため、患者のQOLを向上させられるのだ。時間同期の精度も高く、プラスマイナス200μ秒という高精度の同期が実現できるのだという。

SmartBANによる通信イメージ。センサー2台がハブと接続するスター型ネットワークで、ハブで受けたセンサーデータはWi-Fiを経由してスマートフォンアプリで可視化できる。
脈波と心電から血圧変動を監視するSmartBANの構成。

センサー間の時間同期は
交通の現場でも需要あり

 SmartBANを活用した自律神経バランス解析も行われた。SmartBANの開発に携わった広島市立大学の田中宏和教授と、広島市立広島市民病院が連携して、会議でプレゼンテーションを行う2名に心拍センサーを取り付け、心拍変動間隔を計測してその周波数を解析することで、交感神経(緊張)と副交感神経(リラックス)の活性度を推測した。被験者Aがプレゼンテーションをしているときは、被験者Aだけでなく次に発表を控えている被験者Bの交感神経も活発に動いているなど、時間同期によってセンサーデータを組み合わせた神経の動きの可視化が実現できたという。

 東芝デベロップメントエンジニアリングでは、このSmartBANの技術を製品化し「SmartBAN実験キット」として年内に発売する予定だ。実験キットではセンサーが取得したデータをグラフィカルに確認できるアプリケーションと、センサーを接続するハブ、心電位センサー、脈波センサーをセットで提供し、時間同期の精度などを検証する用途として活用してもらう方針だ。「この実験キットで検証できるのは血圧変動の推定です。精度などを検証してもらい、お客さまのニーズに合わせたカスタマイズやセンサーの個別開発などを進めていきたいですね」と小森氏は語る。

 すでに複数の展示会でデモ環境を展示しているSmartBANは、多くの企業から興味や関心を獲得しているという。特に交通関係の企業から需要があり、ドライバーの眠気と自律神経を同時にセンシングするような活用への応用が期待されている。

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