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ボーカロイドを活用した歌作りで主体性を育む

ボーカロイドを活用した歌作りで主体性を育む

2018年10月25日更新

音楽作りの学びにボーカロイドを活用
村のPRソングや学級歌作りに主体的に取り組む

算数や国語、理科の教科においては、タブレットを活用したICT 教育の事例は数多くある。しかし、音楽の授業でタブレットをはじめとしたICT 教育が実践されている事例は、決して多くない。そこでヤマハは、音楽の授業で活用できるデジタル教材「ボーカロイド教育版」を開発し、昨年2 月より提供をスタートしている。

学習指導要領で定められた音楽作り
基礎知識の差や指導方法に課題

 教育現場では生徒1 人につき1 台のタブレットを導入し、ICT 教材を活用した学びを実践している。しかし、教科によってはタブレットを活用した授業が実施できないケースも少なくない。例えば音楽の授業では、演奏などを通じて音楽に対する学びを深めていくが、使用する教材はピアニカやリコーダーなどであり、タブレットを含むデジタル教材を授業内で活用するのは難しかった。

 そうした音楽におけるICT 活用の課題を解決するため、ヤマハが提供をスタートしたのがデジタル音楽教材だ。ヤマハは、元々ハーモニカやリコーダー、ピアニカなどの学校教材用楽器をはじめ、100 種類以上の楽器を生産する総合楽器メーカーで、学校現場との関わりが深い。そこで、学校の音楽の授業で有効に活用できるデジタル教材の開発を目指し、4 年前にSES(Smart Education System)事業推進グループを発足し、学校現場に対してのヒアリングを実施していた。

 その中で見えてきた学校現場の課題について、同社の音響事業本部クラウドビジネス推進部SES 事業推進グループ主幹の玉井洋行氏は「小中学校の音楽科では、学習指導要領において“ 音楽作り” をするように定められています。しかし、児童生徒によって音楽に対しての基礎知識にばらつきがあったり、教員自身が音楽を作る指導が難しかったりといった課題がありました」と語る。

 そこで2017 年2 月より提供をスタートしたのが「ボーカロイド教育版」だ。同社では従来から、PC 上で歌声を合成するソフトウェア「ボーカロイド」(VOCALOID)を提供していた。ボーカロイドを活用することで、人間の歌声を録音しなくとも、人間が歌っているような旋律のボーカルパートが作成できるのだ。ボーカロイド教育版は、このボーカロイドの技術を活用して、より簡単にボーカルパートを作成できるように開発されたデジタル音楽教材なのだ。

音のマスを配置するだけの簡単操作で
オリジナルの楽曲をボーカロイドが歌う

 同社の音響事業本部クラウドビジネス推進部SES 事業推進グループ主任の竹原洋輔氏は「当社から提供しているボーカロイドを利用して、多様なユーザーさまに楽曲を作っていただいています。そのため、児童生徒からのボーカロイドの知名度は高く、『自分たちでもボーカロイドで曲を作れるの!?』と好意的に受け入れられているようです」と語る。

 それではボーカロイド教育版では、どのように音楽作りを行うのだろうか。ボーカロイド教育版の画面では、まず歌詞を入力する。次に鍵盤の隣に並んでいるマス目をタップして、音のマスを配置していく。例えば、ドの鍵盤の延長線上にあるマス目に、音のマスを置けば、ドの音が出る仕組みだ。音を伸ばしたい場合は音のマスの長さを変更すればよい。音のマスを並べ終えたら、再生して音を確認し、自分の意図通りの音楽が作れているか確認する。直感的に音楽作りができるため、楽譜が読めない児童生徒であっても、楽しみながら音楽が作れるのがメリットだ。

 ボーカロイド教育版では、サンプル伴奏音源も収録されている。また、伴奏音源に合わせて作曲できるよう、コードガイド機能も搭載されており、ガイドに沿って音のマスを設定していけば、調和の取れた音楽が作れるようになっているのだ。

 玉井氏は「定められた授業の時間内で作曲をするのは難しいです。そのためボーカロイド教育版では伴奏やコードガイド機能を用意することで、授業の時間内で無理なく作曲が学べるように工夫しています。また、当社のWeb サイトにはボーカロイド教育版を用いた授業モデルを用意していますので、初めてボーカロイド教育版を利用する教員の方でも授業に取り入れやすいと考えています」と語る。

 ボーカロイド教育版は、既に70~80 校に導入されており、学年歌や学級歌作り、自治体のPR ソング作りなどに活用されている。

 竹原氏は「長野県喬木村立喬木中学校では、毎年3 年生が喬木村のPR ソングを制作していましたが、楽器演奏や歌唱が得意な生徒と、そうでない生徒の間で授業への取り組み方に差が出ていたそうです。そこでボーカロイド教育版を導入したところ、入力や再生の試行錯誤を繰り返し、積極的に制作に取り組むようになるなど、大きな効果を上げたようです」と語る。PR ソングを制作する上で、“PR ソングらしいものは何か” ということを考え、PR ソングらしさの要素をピックアップしながら歌詞やメロディを考えるなど、主体的・対話的で深い学びが実現できたのだという。制作した楽曲は、データを書き出してフリーソフトなどで読み込むことで、楽譜として出力も可能だ。そのため、制作した楽曲を楽譜として出力して、学級や学年単位で合唱することもあるのだとい

ボーカロイド教育版を活用して歌を作っている様子。直感的な操作でボーカルパートが作成できるため、音楽に対する知識に差があっても楽しんで取り組める。

試行錯誤する音楽作りのプロセスが
プログラミング的思考力も育成する

 ボーカロイド教育版は、本格展開を前に15校の教育現場協力のもと実証実験を実施し、教育の現場において有効に活用できるICT ソリューションのノウハウや知見を蓄積した。その実証実験の中で、意外なポイントが注目されたという。

「歌作りのプロセスが、プログラミング的思考の育成にも有効だという指摘をいただきました。プログラミング的思考を養うためには、試行錯誤を繰り返しながら自分が考える動作の実現を目指すことが不可欠です。歌作りのプロセスにおいても、当初イメージしたものに近づけるために試行錯誤するフローが存在します。この流れがプログラミング的思考を育むのではないか、という指摘をいただいており、今後はプログラミング教育への展開も視野に入れています」と玉井氏は語る。

 実際、文部科学省が告示した「小学校プログラミング教育の手引(第一版)」においても、「様々なリズム・パターンを組み合わせて音楽を作ることをプログラミングを通して学習する場面(音楽 第3学年~第6学年)」と、音楽におけるプログラミング教育の場面が明示されており、音楽の学びを通して、プログラミング的思考能力を育む学びが活発になっていく可能性も秘めている。

 今後の展望として玉井氏は「ビジネスをスタートしたのは昨年からですが、既に多くの教育現場で導入されており、音楽科にとどまらず、総合的な学習の時間や社会科、また特別支援教育などで活用が進んでいます。しかし、学級担任制で授業を行う小学校の先生などは、歌作りを指導することが難しい場合もあり、今後はそうした先生方をサポートするための人材派遣、人的支援などが必要だと感じています。またSES 事業に関しても拡充を図り、学校の音楽教育の現場に提案しているデジタル教材を増やしていきます」と語った。

ボーカロイド教育版のUI。Windows OS に対応している。①歌詞を打ち込み、②音のマスを鍵盤を参照して並べ、③再生ボタンを押すと、作詞作曲した歌をボーカロイドが歌ってくれる。

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