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位置情報を検知する床が住民を見守る

位置情報を検知する床が住民を見守る

2018年10月23日更新

生活の中にIoT機器が溶け込む
センサーと組み合わせた建装材

生活を便利にしたり、一人暮らしの住民を見守ったりできるスマートハウス。その要となるのがセンサーデバイスだ。しかし、住宅にセンサーデバイスを組み込むと、住民が“監視されている”と抵抗感を覚えてしまう可能性もある。そうした、生活する上での違和感を極力排除した「IoT建材」を凸版印刷が開発している。生活に溶け込むセンサーデバイスが生み出す効果について、取材した。

建装材事業のノウハウを生かし
日常になじむIoT 建材を開発

 IoT技術を用いた家電などを活用することで、住民の生活状況を把握できるスマートハウスに注目が集まっている。特に高齢化が進む社会においては、家族と離れて暮らす独居老人が増えてきており、そうした高齢者の見守りの用途として需要が高い市場だ。

 半面、スマートハウスの普及には課題もある。それはIoT の要となるセンサーデバイスに対する、心理的抵抗感だ。例えば、見守り用途でカメラを設置した場合、そこで生活する住民に“監視されている”という不安感を与えてしまう可能性が高い。住民が必ず通る生活動線にセンサーを設置する場合も、壁や天井にセンサーが設置されているということが目で見れば分かってしまうため、生活する上での居心地の悪さにつながる恐れがある。見守り用途におけるIoT技術の普及において、日常に溶け込めるセンサーデバイスが求められている。

 その課題を解決するため、凸版印刷はセンサーを組み合わせた建装材「IoT建材」の開発を進めている。IoT建材とは、“生活の中に建装材を通じてIoT機器がさりげなく溶け込む”ことをコンセプトに開発されたセンサーデバイスだ。凸版印刷では従来から意匠性や機能性、環境適性に優れた建装材事業を展開していた。建装材とは、木目や石目模様などを印刷した化粧シートを指し、床材などの仕上げに用いられるものだ。床に位置検出センサーを組み込み住民の生活動線を可視化する

 IoT 建材開発の経緯について、凸版印刷生活・産業事業本部ビジネスイノベーションセンター主任小林浩希氏は次のように語る。「元々当社では建装材事業を展開していましたが、今後の住宅環境を見据え、IoTに対応していく方法を検討していました。その中で、2016年に“もしも印刷会社が家を建てたなら”というコンセプトで、当社の木目の建装材を用いて、デザイナー・原研哉氏と共同開発した未来の生活空間を考えるエキシビジョンハウスを『HOUSE VISION 2 / 2016東京展』に出展しました」

 この建築物では、床が健康情報を読み取ったり、音声やLEDで情報を伝えたり、透明・不透明を瞬時に切り替えられるフィルムを貼ったガラスでプライバシーを守るなど、印刷によって日常に溶け込むテクノロジーが用いられている。そして同社では、エキシビジョンハウスで展示していたIoT建材の一つを、今年6月に「位置検出床」(仮称)として発表した。位置検出床とは、床材と圧力センサーを組み合わせて位置検出を実現する新技術を用いたセンサーデバイスだ。

 位置検出床では具体的にどういった技術が用いられているのだろうか。まず建装材の構造から見てみると、下から位置検出デバイス層、特殊衝撃吸収層、特殊樹脂基材装(木粉含有プラスチック)、特殊UVハードコート層が重なっている。この一番下の位置検出デバイス層は、住民が床を踏んだことを検知して、どこが踏まれたかを位置情報として検出し、住民がどこにいるか、どこを歩いているかを可視化できるようになっている。

 検出した位置情報は、ゲートウェイからクラウドに送信され、スマートフォンなどで確認できる仕組みだ。踏んだ振動で発電・発信するため電池や給電が不要であり、住宅の外観が変わらないため、違和感なくセンサーデバイスを住宅に導入できる点が特長だ。

 すでに実証実験も進められている。凸版印刷生活・産業事業本部ビジネスイノベーションセンター主任三木祐二氏は「NTTドコモ、横浜市、and factoryが実施している『未来の家プロジェクト』の取り組みの一つである『IoTスマートホームを用いた生活モニタリング実証実験』に参画しています。本実証実験では、被験者がIoTスマートホームで、自宅にいるときと同じように1週間生活し、実験前後での被験者の状態変化、意識変化、行動変容について評価・検証するものです。当社の位置検出床においては、被験者が床を踏むことで検出される位置情報や日時データの収集、それらを活用した効果的な見守りサービスの実現可能性などについて検証しています」と語る。実証実験期間は6月12日~9月24日までを予定している。

横浜で実施されている「未来の家プロジェクト」の実証実験で利用されているIoT スマートホーム。
IoT スマートホームの内部の様子。一見普通の住宅と変わらないように見える内装だが、位置検出センサーが組み込まれた位置検出床が採用されている。ほかにもスマートフォンから操作できるIoT シャッターやIoT美容デバイスなど、日常に溶け込むIoT デバイスが設置されている。

床の一部を位置検出センサーに
簡単なリフォームで見守りを実現

 同社は今年4月から、シート型生体センサーにより心拍・呼吸データなどを取得し、リアルタイムに睡眠状態を解析できる見守りサービス「SensingWave 介護見守りシステム」の販売をスタートしている。今回の実証実験への参画も、本サービスを知ったNTTドコモからIoTスマートホームでの検証に利用したいという声がかかったことがきっかけだった。そのため、今回の実証実験には、SensingWave 介護見守りシステムと位置検出床の二つを導入し、効果検証を行っている。

 実証実験では合計14 名の被験者にIoT スマートホームを体験してもらう予定で、取材当時は11名の検証が終了していた。同社が被験者に位置検出床について聞くと「位置検出センサーの存在を気にすることなく生活できた」という、“IoT機器が生活に溶け込む”コンセプト通りの生活を送れたことが分かったという。

 今後の展開について、凸版印刷生活・産業事業本部ビジネスイノベーションセンター課長藤川君夫氏は「2018年度中の販売開始を予定しています。実証実験では、施設の床材を全て位置検出床にしていますが、製品展開をする際には床の一部に位置検出床を張り付けるといった、簡単なリフォームで導入できるようにしていく予定です。例えば、手洗い場や浴室などの床材に位置検出床を導入することで、一人暮らしの高齢者の見守りサービスとして利用できると考えています」と語る。日々利用する手洗い場を通ると、その情報が遠方の親族のスマートフォンに通知されるといった利用方法だ。販路としてはハウスメーカーやデベロッパーなどと連携して、システム的に提案を進めていきたいと話す。

「将来的には、床だけではなく壁にIoT技術を組み込んでいくことも検討しています。IoTを住宅に組み込んでいくと、どうしても空間がゴツゴツしてしまい、美しい、居心地のよい空間からは離れてしまいがちです。当社では空間作りに重点を置き、家電機能を分解し、意匠性よく仕上げることをコンセプトに、今後もIoT建材の開発を進めていきます」と小林氏は展望を語った。

位置検出床で検出した位置情報は、図のようにスマートフォンなどで確認できる。オレンジの四角で示されているのが、住民が立ったり、歩いたりしている場所だ。

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