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人口減少などの課題をブロックチェーン技術で解決へ~加賀市の取り組み~

人口減少などの課題をブロックチェーン技術で解決へ~加賀市の取り組み~

2018年08月24日更新

加賀市が日本初の「ブロックチェーン都市」構築を宣言
〜人口減少、人手不足……地方の課題解決へ〜

石川県加賀市で、ブロックチェーンを人口減少問題の解決、電子行政や産業の育成に活用しようという構想が動き出した。この3月、大阪のIT企業であるスマートバリューとシビラの2社と包括連携協定を結び、2019年度にKYC(本人認証基盤)の構築、公開を目指す。全国に先駆けて「ブロックチェーン都市」構築を宣言した加賀市に、構想の背景、具体的な取り組み、実現によって期待できるメリット、これからの課題・目標を聞いた。

ブロックチェーン技術を行政に応用

 ブロックチェーン(分散型台帳技術)は、大ざっぱに言えば、複数のシステムで一つの台帳情報を共有して運用する技術だ。仮想通貨のビットコインを支える技術として脚光を浴びた。ビットコインの登場までは、改ざんや複製などを防ぐことができないため、有効な電子通貨は存在しなかった。ビットコイン誕生の際、ブロックチェーン技術によって改ざんなどの不正を防げることが示され、その後さまざまな仮想通貨が生まれた。

 ブロックチェーン技術があらゆる電子的な手続きに応用できるのではないかということで、さまざまな分野で検討が進められており、加賀市のケースは地方自治体では初の試みとなる。加賀市が「ブロックチェーン都市」を目指した背景にはどのような課題があったのだろうか。

 加賀市は山代温泉、片山津温泉など全国有数の温泉地で、山中漆器や九谷焼など日本を代表する器の発祥地でもある。年間の観光客は200万人。観光や製造業で栄えてきたが、日本社会の人口減少元年と言われる2005年より10年も早い時期から転出超過が始まり、ピーク時には8万人だった人口が6万7,000人ほどに減るなど、人口減少が深刻な問題となってきていた。IoTの活用を通じて魅力ある就職先やそこで働く人材を教育する場の提供が急務だったと、加賀市 経済環境部 イノベーション政策課 課長の岡田隆之氏が語る。

「多くの自治体と同様に、人口減少は当市にとっても深刻な問題です。人口減少に歯止めをかけ、地域を活性化する。その手段としてIoTの活用を考えました。宮元市長の発案です。AIやロボット技術の活用、IoTの推進を通じて技術者を育成し、技術者が活躍できる場所を作って、その活性化を目指したのです」

 さまざまな手段がある中で、加賀市が特に注目したのがブロックチェーンの技術だった。「仮想通貨の分野以外にも使えるのではないか。そう考え、検討を進めていたところ、スマートバリューとシビラの2社による研究を新聞記事で知りました。そこで2社と包括連携協定を結びました。ブロックチェーン技術で当市の課題を解決して、新たな経済圏を創出、地域が自律・自走できる都市にする。これが、当市の生き残りをかけた戦略となったのです」

ブロックチェーン上にKYC認証基盤を構築

 加賀市が特区申請の検討や地域への呼びかけなどの実証フィールドを提供。スマートバリューがプロジェクトの関連事業の企画・事業設計を行い、シビラがブロックチェーン技術やノウハウを提供することとなった。

 締結された包括連携協定(2018年3月16日)の内容は以下の通り。

■目的
・ブロックチェーン技術を核とし、電子行政などの社会コストの削減と利便性の向上、地域活性化分野での共同研究開発に取り組む
・IT分野の教育・雇用に関する事業の協働や実証を通じて、地域が自律・自走していくモデルの創出を目指す=ブロックチェーン都市づくり

■概要
・ブロックチェーン技術を活用した地域活性化の共同研究
・ICT技術を活用した地域経済・産業振興
・電子自治体の推進
・地域でのIT人材育成、雇用創出

 協定による研究開発のプロジェクトは始動したばかり。チームの発表資料によると、当面は行政サービスの効率化を目的とするプラットフォーム(土台)の構築がテーマとなる。初年度である2019年度はブロックチェーン技術を基盤としたKYC認証基盤の構築・公開とラボの建設に取り組むという。

 KYC(Know Your Customer)認証基盤とは、個人を特定するために公的書類で確認し、不正をなくすための手続きの基盤のこと。KYC認証基盤のアプリケーションを構築し、そこに地域で展開する各種サービスのアプリケーションをつなぎ合わせ、デジタルな地域空間を生み出す。これによってサービスの一元化が可能になり、コストの削減やプラットフォームに集積したデータを活用した研究開発を行える。

 シビラが提供している「Broof」というブロックチェーン技術は、KYC認証基盤だけでなく都市基盤として必要な機能を容易に実装できる。高速で高度な堅牢性を備えており、IoTデバイスにウォレットを手軽に組み込めるので、IoTとの連携サービスも実現できるという。

 スマートバリューは、地域活性化に役立つ技術やサービスの研究開発を進めるため、2019年度から加賀市内にラボを建設していく。テーマは「LOCAL×TECH」。ラボにR&Dの機能を持たせてブロックチェーン、AI、IoTなどの研究開発に取り組み、ラボのメンバーが開催するハンズオンなどを通じてIT人材育成、雇用の創出を図るという。

どんな行政サービスが電子化できるのか

 ブロックチェーン技術の採用で庁内業務はどのように変わっていくのか。あるいは、市民は具体的にどのような恩恵を受けられるのか。現状では、「どんなサービスが可能になるか、各種サービスに向けたコンソーシアム設立が必要か、どのような基盤を作ろうかなど3者で検討を続けているところです。まだ具体的な取り組みを申し上げられる状況ではありません」と岡田氏は話す。

 ブロックチェーンを使わなくても電子化は可能だが、それに対応した強固なセキュリティシステムを構築しなければならず、その分コストがかさんでしまう。ブロックチェーン技術を採用すればコストが削減でき、高度なセキュリティも実現可能となる。ブロックチェーン技術の採用で多くの行政手続きが電子化されていき、いずれほとんどの行政サービスが電子上で実現できるようになっていくかもしれない。

 ITの活用で庁内の作業は自動化、省力化、コンパクト化が進むだろうし、市民の側でも印鑑を持って役所に出向くといった面倒で時間のかかる作業もなくなるだろう。将来はマイナンバー制度との連携も考えているという。加賀市の実験はそうした可能性を探る先進的な試みと言える。

 冒頭の岡田氏のコメントで紹介したように、加賀市はすでにIoT、具体的にはAI、ロボット技術などの技術者の育成や活躍できる場の構築に取り組んでいる。以下がその例だ。

・小中学生へのプログラミング教育
2016年に総務省から補助事業に採択され、指導者となる教員の育成とモデル校で講座開設などを実施。17年度からは市内の全小中学校を対象としている。

・中学生へのAIワークショップ
大学の研究者を招き、人工知能の技術を体験させる。

・採用支援サービスの専用サイトを開設
人手不足が深刻な加賀温泉郷の人材確保のため、採用支援サービス会社の専用サイトやサテライトオフィスを開設。

・市役所業務の一部でRPAを採用
データ入力を自動化するRPAを採用。「時間外勤務」「契約管理システム・電子入札システムの相互連絡」「財産貸付・使用許可」の3業務で昨年度に試行し、引き続き活用していく。

「AIやロボット技術の活用など、すでに成果が見えているものもあります。ブロックチェーンの研究でも、どんな可能性があるかを検討していく際に企業に実証の場を提供するなど、人と企業が集まり活性化する仕組みを作っていきます。特に、人口減少と人手不足など、全国の自治体が抱える喫緊の課題に対して、ブロックチェーンの利用で生き残り策を考えます。取り組みは始まったばかりですが、先進技術を生かしたモデルを示したいですね」(岡田氏)

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