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国内農業に新しいビジネスモデルを創る、国内栽培に適さない珍しい果物を栽培可能に

国内農業に新しいビジネスモデルを創る、国内栽培に適さない珍しい果物を栽培可能に

2018年08月22日更新

国内農業に新しいビジネスモデルを創る
国内栽培に適さない珍しい果物を栽培可能に

国内の農業は就業人口の減少と高齢化により衰退の危機に直面している。関西電力グループの大手電気通信事業者であるケイ・オプティコムでは国内での栽培が難しく、しかし付加価値の高い作物を容易に栽培できるようにするためのシステムの実用化に向けて実証実験を進めている。付加価値の高い作物を栽培することで、国内農業に高収益モデルを築くのが狙いだ。

国内では栽培が困難な
希少な農作物の栽培を実現

 関西電力グループの大手電気通信事業者であるケイ・オプティコムは農業にIoTを活用するユニークな実証実験を行っている。同社が栽培の実現に取り組んでいる農作物は、バンレイシ(釈迦頭)やフィンガーライム、バナナ、パパイア、バーベナ、ミニチュアドラゴン、マンゴーなどだ。聞き慣れない農作物が含まれているが、特にバンレイシやフィンガーライムなどは記者も初めて聞いた。

 さらにこれらの栽培に成功したらジャックフルーツ、龍眼、マンゴスチン、ライチ、きゅうりメロンの栽培にも取り組む計画だという。

 植物工場でよく栽培されているレタスなどのいわゆる「葉物」(葉菜類)は栽培が容易で流通量も多い。そのため価格競争になってしまう。しかしIoTを活用した栽培施設の構築と運用にはそれなりのコストがかかるため、投資を回収するのに時間がかかる。さらに利益を確保するには大量栽培も必要だ。

 一方でケイ・オプティコムが取り組む実証実験は栽培する農作物に高い付加価値があるため、収益性が高いのが特長だ。ちなみにインターネットの通販サイトで調べてみると、バンレイシは食品サンプル、つまり模型しか見つけられず、フィンガーライムは40〜50グラム(おそらく1個)で1,000円程度、接ぎ木苗は1ポット(1株)で6,000円以上する。いずれも相当な希少品であることが分かった。

 バンレイシやフィンガーライムはアメリカのフロリダ州や東南アジアなどの暑い地域で栽培されており、国内で栽培するのは困難だという。また鮮度を保つのが難しいらしく傷むのが早いため、輸入もほとんどされておらず国内での流通もほぼないようだ。

種子から幼苗までを専用の施設「育苗棟」で栽培する。
料理の付け合わせに使われるなど世界的に人気が高まっているという高級フルーツ「フィンガーライム」。
「釈迦頭」(バンレイシ)と呼ばれる国内では珍しい果物。アメリカのフロリダ州や東南アジアなど暖かい地域で栽培されている。

栽培コストを低減するために
種子から苗までを屋内で育苗

 こうした農作物に目を付けたきっかけについて同社で農業IoTの実証実験を担当する経営本部 経営戦略グループ IoTプロジェクトチームの吉川幹人氏によると、この実証実験に参画しているアクトウォーターフォーラムの代表を務める岸岡 俊氏から提案があったという。もともと同社の通信事業のサービス拡大への取り組みとしてLPWAサービスの提供を計画しており、IoTの活用領域の一つとして農業を想定していた。

 そしてビジネスでつながりがあった岸岡氏と農業IoTについて話をする中で、国内で栽培が困難で流通もしていない希少な農作物を栽培できるようにすることで、国内の農家の農業経営に貢献できると考えて実証実験が開始されたという。

 この実証実験ではネットワークやシステムをケイ・オプティコムが担当し、栽培する農作物の種子や苗の調達、「育苗棟」と呼ばれる建物で使用する栽培環境に関わる電気設備や機器などをアクトウォーターフォーラムの岸岡氏が担当し、育苗棟の建材をシリアス(大阪府守口市)が提供している。

 栽培の手順と仕組みについては次の通りだ。まず育苗棟では種子を発芽させて苗まで栽培する。苗がある程度の大きさまで育つと、その後は育苗棟から出して路地やビニールハウスで栽培する。

 吉川氏は「収穫まで育苗棟で栽培するには天井を高くしなければならないなど、広いスペースが必要となります。スペースが広くなると栽培環境を実現・維持するための設備の規模も大きくなり、いずれもコスト増につながってしまいます。人工的な環境で栽培するため苗を育てる時期を調節でき、苗を春までに育てれば夏の暑い時期に路地で栽培が可能となります」と説明する。

栽培のノウハウをデータ化して
栽培を自動化することが目標

 この実証実験でユニークなのは、独特な栽培を行っていることだ。種子や発芽した苗に電気的な刺激を与えるとともに、水中の溶存酸素濃度を調節して促成栽培を行っている。これは岸岡氏の発案だという。

 吉川氏は「電気的な刺激で発芽や育苗を促成するのは広く知られているようで、この実証実験でも通常20日かかる発芽が10日に短縮できた成果を得ています」と説明する。

 育苗棟内には照度センサーや温湿度センサー、そしてEC(電気伝導率)センサーが設置されており、収集したデータは栽培環境の制御と溶存酸素濃度の調節に利用されている。なお各センサーが収集したデータはLPWAの規格の一つである「LoRaWAN」でアクセスポイントに伝送し、ケイ・オプティコムのクラウド上のプラットフォームに収集される。

 収集したデータを統計し、分析した結果から育苗棟内の温度や湿度、照明の明るさや水の量、さらに電気的な刺激や水中の溶存酸素濃度の調節などをシステムが行うことで、理想的な栽培環境の実現と維持を自動化することが目標だ。

 この実証実験は今年4月16日から開始されており、2019年3月末まで行われる。すでにバナナやパパイアなどの育苗に成功しており、バンレイシやフィンガーライムの育苗も成功が見えているという。

 吉川氏は「栽培に必要な環境および作業や手順をデータ化することで、ノウハウがない人でも手軽に農作物の栽培ができるようになります。後継者不足が深刻化している国内農業の課題解決にも貢献できると期待しています」と力強く語る。同社では今後も農業IoTにおけるネットワークとシステムの領域で取り組みを継続する計画だ。

育苗棟内で栽培されている苗。奥には温度センサーとLPWAネットワークの「LoRaWAN」対応の子機が見える。
種子を発芽させて苗までの栽培が最も難しく、苗の提供もビジネスモデルの一つとなる。写真の装置は照度センサーだ。
ケイ・オプティコムで農業IoTの実証実験を担当する経営本部 経営戦略グループ IoTプロジェクトチームの吉川幹人氏。

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