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建設プロセス全体で3次元データを活用

建設プロセス全体で3次元データを活用

2018年08月06日更新

i-Constructionで売れるIT商材

―建設工事で進む改革の潮流を読む―

建設現場の生産性革命を実現させるために取り組みが始まった「i-Construction」。3次元データで建設プロセス全体を連携させて、ITの効用をフルに生かそうとする試みだ。建設業界全体へのIT提案の扉が、これまで以上に大きく開かれ始めている。

i-Constructionは、測量、設計、施工、維持管理という建設プロセス全体を3次元データでつなぐ新たな建設手法で建設現場の生産性向上を目指す。

3次元データを全面活用

人手不足で仕事がこなせなくなる

 3次元データやIT機器・サービスを建設プロセス全体で活用するi-Constructionのコンセプトはなぜ生まれたのか。その背景には、日本と建設産業を取り巻く深刻な課題が横たわっている。
 国土交通省の資料によると、現在の建設産業は、政府投資額、民間投資額、就業者数、許可業者数のいずれにおいても、1990年代に迎えたピークから落ち込んでいる。国土交通省のデータでは、2017年度の政府・民間合わせた建設投資額はピーク時の34.5%減となる55兆円、就業者数はピーク時の27.3%減となる498万人、許可業者数はピーク時の22.6%減となる46万5,000業者。この中で、建設投資額については、ここ数年は回復傾向にあるが、就業者数や許可業者数は一向に回復の兆しを見せていない。

 就業者数の低下は、日本の課題となっている少子高齢化と労働人口の減少が大きな要因になっているだろう。現在の建設業の有効求人倍率は介護関係職種以上に高い状況が継続している。現場サイドの調査でも建設技能労働者は不足傾向にある。今後は、人手不足による供給制約の恐れがあると国土交通省は指摘している。

 国土交通省 大臣官房 技術調査課 課長補佐の橋本 亮氏は、「建設業界を支えている60代前後の労働者の大半が引退を迎えている10年後には、仕事がこなせなくなるくらいに人手不足が深刻化する可能性もあります」と危惧する。

 人手不足という側面に加えて、建設業における付加価値労働生産性(従業員一人あたりの付加価値額)の低さも課題だ。国土交通省が示す1994年から2015年までのデータによると、付加価値労働生産性は、全産業平均では20年間で上昇を続けているが、建設業においては20年前と比較してほぼ横ばいという状況なのだ。

 統計データとして建設産業全体の課題がこのように浮き彫りになる中で、2年前から国土交通省が取り組みを開始したのがi-Constructionである。

生産性向上で“新3K”の現場に

 国土交通省は、2016年を「生産性革命元年」と位置づけて、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスでITを活用するi-Constructionの推進を開始した。同年9月12日に開催された第1回未来投資会議では、建設現場の生産性を、2025年度までに2割向上させる指針が示されている。

 i-Constructionで目指されている生産性向上のイメージは右図のようになる。ITの導入によって実現される「省人化」と「工事日数削減」が掛け合わされて、人や日にち当たりの生産性を向上させる。結果として、これまでよりも少ない人数、そして少ない工事日数で同じ工事量を実現することが目的だ。

 現場作業の高度化・効率化によって工事日数が短縮できるメリットは働き方にも好影響を及ぼす。日曜日しか休日がとれないという建設工事現場の休日拡大に寄与するからだ。「これも大きな効果です」と橋本氏は指摘する。日本全体で働き方改革が強く叫ばれる現在の状況下において、休日が少ないというのは、その産業全体において大きなマイナスポイントになる。生産性を向上させて休日を確保できるようにすることは、建設業界にとって非常に大切な試みとなるのだ。

 国土交通省はi-Constructionによって、従来の「3K」(きつい、汚い、危険)のイメージを払拭して、魅力ある「新しい3K」(給与が良い、休暇がとれる、希望が持てる)の現場にしようと考えている。それによって、多様な人材を呼び込み、人手不足を解消しようとしているのだ。

3次元データを工程全体で活用

 i-Constructionの施策の3本柱は、「ICTの全面的な活用」「全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化など)」「施工時期の平準化」だ。この中で、ICT施工と呼ばれる建設プロセス全体へのITの導入が本特集のテーマである。

 建設プロセスは、測量、設計、施工、維持管理の工程で進められる。i-Constructionでは、その全ての工程を3次元データでつないで、作業の効率化を図るのが目的だ。3次元データは文字通り3次元のモデルを作り出せるデータとなる。そのため、2次元(平面)の設計図を用いていた従来のプロセスと比較して、施工計画の確認から実際の施工、点検などでさまざま側面で作業の大幅な効率化が期待できるのだ。「従来は2次元データから3次元データを作り出すような作業も必要でしたが、そうした工程もなくせるようになるのです」(橋本氏)

 3次元データの取得や活用に必要となるのがIT機器やサービスだ。3次元データとITの組み合わせが、建設プロセス全体の生産性を向上させる。利用されるIT製品の例は以下となる。

・CADソフト(3次元データで設計)
・BIM/CIMソフト(3次元データを利用した建設物のライフサイクルマネジメント)
・ドローン(3次元測量や点検)
・VR/MR(3次元データで現場を仮想的に確認)
・スマートデバイス(3次元データを現場で閲覧)
・ICT建機(衛星測位システムと3次元データで自動制御)
 など

 国土交通省は建設現場で活用できる新技術の発掘を目的にした「新技術のニーズ・シーズマッチング決定会議」も実施している。これは、実際の現場ニーズを抱えている建設関連の企業や自治体などと、具体的な製品やサービスを提案するベンダーとをマッチングさせて、新技術の活用を促す場だ。

 昨年の10月と今年の5月に行われた会議では、遠隔で工事現場の指示を実現するための遠隔ビジュアルコラボレーションツールとウェアラブルカメラを組み合わせたソリューションや、360度カメラで撮影したデータをクラウドで共有する技術などのマッチングが行われた。

「2016年から開始されたi-Constructionは3年目を迎えました。今年のキーワードは『深化』です。これまでにICT活用が進められてきた土工や舗装工、浚渫工に加えて、維持管理や建築分野、港湾基礎工などの分野へのICT活用も積極的に促していきます。また、中小企業への浸透を深めるために、ICTの導入や人材育成の支援も展開します。積算基準(工事費用)の改善や3次元施工データの提供、ICTに関する研修を充実させて、ICTを導入しやすい土壌を構築します」(橋本氏)

地元企業が主体的に取り組む

 i-Constructionの各地域での普及状況はどうなのか。i-Constructionの取り組みが開始される以前から、国土交通省 中部地方整備局(岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、長野県の一部が所轄区域)を中心に「建設ICT導入普及研究会」を立ち上げて、建設現場でのIT活用を促進してきた中部地方では、中小企業が主体となったICT活用工事が普及しつつある。

 国土交通省 中部地方整備局 企画部 総括技術検査官 中部i-Constructionサポートセンター長の筒井保博氏は、「大規模土工ではなく、小規模土工でもICT活用工事が進んでいます」と状況を説明する。

 中部地方整備局が発注する直轄工事の中で、工事の施工プロセスでICTの活用が要件に含まれるICT活用工事は、2016年度にICT土工が96件、2017年度には同じくICT土工が137件実施された。2017年度はICT土工に加えて、ICT舗装工、ICT砂防、ICT浚渫工もそれぞれ、8件、6件、3件実施。2018年3月末までの数値では、中部地方整備局管内におけるICT活用工事の受注者数は135社。1企業あたりの受注件数は1件が81社(60%)で、複数件を受注している企業は54社(40%)存在する。

 工事規模別のICT活用工事の受注件数では、工事金額が6,000万円以上3億円未満までの「一般土木Cランク」の件数が121で最多となっている。中部地方整備局管内の一般土木Cランク工事の受注者の半数以上がICT活用工事をすでに行っている状況だ。さらに、中部地方整備局管内の地方自治体においても、2016年度、2017年度の2年間で71のICT活用工事が実施されている。「各地域の地元企業が主体的に取り組んでいる結果です」と筒井氏は評価する。

砂防現場はドローンの3次元測量が有効

 中部地方におけるICT活用工事の効果検証の結果も公表されている(100社のアンケート調査)。例えば、ICT土工においては、起工測量からデータ納品までの一連の作業時間(人・日)が、従来の施工と比較して約31%削減できたという。「3次元データの活用によって、現場でのコミュニケーションが取りやすくなったり、説明がしやすくなったりしたという声が上がっています」(筒井氏)

 3次元データやICT建機などの活用によって、施工時に丁張りと呼ばれる作業が不要になることで、建機と作業員の接触事故なども減少する。アンケート調査では、建機と作業員が錯綜する建機周辺の作業時間が従来施工と比較して約46%減少し、安全性の向上に大きく寄与していることが判明した。「施工の安全性向上」についての評価では、74%が安全性が向上したと回答している。

 中部地方で行われているICT活用工事の中で、ICT砂防などは独自施策となる。「土砂災害を防ぐ砂防の現場は急峻な地形が多く、作業員の安全性を考慮すると、ドローン(UAV)を利用した3次元測量や、自動制御できるICT建機の活用が有効です。危険な作業を解消でき、さらに測量作業などの時間短縮も実現します」(筒井氏)

 こうした、施工時の安全性の確保や作業時間の短縮は、i-Constructionを通じた建設関係者の働き方の改革を促す。前出の調査では、土木施工時の平均作業日数についてのアンケートも行っているが、それによると、ICT施工によって従来施工よりも作業日数を平均で13.5日(22%)削減できたという結果が出ている。

「ICTの活用は、建設関連企業での働きやすさの改善にもつながるでしょう」(筒井氏)

「ICTの全面的な活用は、建設関連企業での働きやすさの改善にもつながるでしょう」

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