
対話型AIが変えるショッピングセンターの顧客対応
店舗や商品のおすすめ度によって応答を変更する
ショッピングセンター向けの音声対話AI技術
スマートスピーカーなど、ユーザーの問いに最適な回答を返してくれる製品の普及が進んでいる。こうした対話型AIのサービスは、ビジネス現場でもニーズが高く、すでに問い合わせ対応業務などで活用されている。今後は小売店舗などでも対話型AIの技術が用いられそうだが、活用にあたっての課題もある。今回は、そうした店舗での運用課題を解決する音声対話AI技術について東芝デジタルソリューションズに話を聞いた。
実運用始まる対話型AI
人的コストを削減し業務を効率化
顧客からの問い合わせ対応業務などで、AIの利用が広がりつつある。例えば対話型チャットボットなどはすでに企業の問い合わせ対応に活用されており、内容に合わせてサポートページから回答したり、対話内容をもとにユーザーの課題を洗い出し、担当の部署につないだりする用途に利用されている。AIが人間の代わりに対応をすることで、業務効率化も実現できる。
東芝デジタルソリューションズでは、前述したような問い合わせ対応業務に活用できる音声認識や音声合成、翻訳や対話に加えて、意図理解や画像認識などのメディア知識処理技術(メディアインテリジェンス技術)の研究開発を進めており、これらの技術を融合して体系化したサービス「RECAIUS」(リカイアス)を提供している。
同社 RECAIUS事業推進部 事業開発部 事業開発担当 参事 杉浦千加志氏は、RECAIUSについて次のように説明する。「RECAIUSでは、顧客が抱える課題に合わせて、知識処理をもとに対応する技術を揃えています。例えば『音声対話サービス』の技術を用いて、業務目的や用途に応じて、応答する内容を生成して会話をすることで、問い合わせの内容に最適な回答をしたり、『人物ファインダ』(画像認識)の技術を用いて、小売店などに監視カメラを設置して、来店者の属性や混雑具合を判断する用途に活用できます」
金融機関でも活用進む対話型AI
店舗活用では応答シナリオが課題に
RECAIUSの技術は、すでに多くの現場で導入され業務効率の向上を実現している。例えば横浜銀行では、RECAIUSの「音声対話サービス」を用いて、2017年4月から「ネット相続相談サービス」をスタートさせている。本サービスは、音声対話とシナリオ設計によって、顧客からの相続相談に対応できるサービスで、実際に銀行に行かなくても事前に相続手続きの相談ができる点が強みだ。東芝 研究開発本部 研究開発センター メディアAIラボラトリー 研究主務 岩田憲治氏は「遺産相続は手続きが煩雑であったり、必要な書類が多かったりするため、ネット相続相談サービスで事前にどのような手続きが必要になるのかなどを確認できると顧客にとって利便性が高いのです。人は会話をする際に『相続相談がしたい』と明確に切り出すことはほとんどなく、『亡くなってしまって』といった切り出し方をしがちですが、RECAIUSはそういったバリエーション豊かな問い合わせであっても対応できるため、ユーザー企業から高い評価を獲得しています」と語る。
顧客からの問い合わせに応対するサービスは、ショッピングセンターのインフォメーションセンター業務も代用できそうだ。しかし、相続相談の場合は問い合わせ内容の幅が狭く、応答シナリオが作りやすいが、ショッピングセンターのような店舗の場合、例えば買いたい物から店舗を検索するだけでも、店舗ごとに実施しているセール内容や、打ち出したい店舗などに合わせて案内の仕方を変えていく必要があり、応答シナリオが作りにくいという課題があった。「応答シナリオは人が記述しているため、セール内容に応じて案内する店舗を変えるためには、再度シナリオを修正する必要があります。対話シナリオでは『カバンが欲しい』という問い合わせから、それが『男性向け』なのか『女性向け』なのか、予算はどれくらいなのかなど要望に合わせて店舗を提案していきますが、このやり取りを進めていく中で、ショッピングセンター側が提案したい店舗や商品が、選択候補の中から外れてしまう可能性があるのです。それを防ぐためには、店舗からのおすすめ度に合わせて応答シナリオを簡単に変化できるシステムが重要になります」と杉浦氏は語る。
応答選択の強化学習を採用し
店舗顧客双方の満足度が高いAIに
そこで、現在同社はRECAIUSの1機能として、ショッピングセンターの案内システムなどで、店舗や商品などのおすすめ度によって、案内の仕方を変更できる音声対話AI技術を開発している。具体的には、システム運用者が商品や店舗などに設定したおすすめ度に合わせて、音声対話AIが対話シナリオを変更して、おすすめ度の高い商品や店舗をユーザーに自然に提示する技術だ。
音声対話AI技術では、強化学習の枠組みにおすすめ度を導入し、各店舗に割り当てられたおすすめ度を操作するだけで対話シナリオを生成できるようにしている。具体的には、音声対話AI技術の案内画面コンテンツ管理上で、「セール情報編集」設定画面が用意されている。その画面で、セール中の店舗や特に売り出したい店舗のバーを動かすことで数値を設定し、音声対話AI技術がそれをもとに対話シナリオを変更するのだ。
「しかし、いくらおすすめしたい店舗だからといっても、積極的に出しすぎると顧客に抵抗感が生まれてしまいます。ある程度対話で絞り込みを行った段階でおすすめの店舗を提案できるよう、応答選択の強化学習技術を用いています。『おすすめの候補を出す』『適切な数に絞り込んで出す』という二つの報酬で学習させることで、店舗側からも顧客側からも満足度の高いシステムに仕上げています」と岩田氏。現在開発を進めている本技術は、2019年度にRECAIUSからサービス展開予定だ。
人から受けた問いに会話で返すスマートスピーカーは、すでに利用している家庭も少なくない。コンシューマー用途で馴染みが出てきた技術であれば、銀行やショッピングセンターなどで導入しても抵抗感が少なく、受け入れられやすい側面がある。そして、これらのスマートスピーカーは、スマートホームなど家庭内のIoT環境の要となる製品だ。
東芝デジタルソリューションズのRECAIUSは、AIロボット「Kibiro」に音声認識と音声合成技術が採用されているなど、店舗のIoT環境の一角を担うツールとなる可能性は多いにある。音声対話AI技術のこれからの可能性に期待したい。
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