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多メディア化、多言語化による新たなニーズへの対応と、見やすさ、読みやすさの追求でフォント事業を伸ばす

多メディア化、多言語化による新たなニーズへの対応と、見やすさ、読みやすさの追求でフォント事業を伸ばす

2018年02月05日更新

VISION
リーダーたちのまなざし

1987年、まだ紙の制作物しか流通していなかったころにモリサワはDTPの将来性を見出し、アドビ システムズと業務提携した。その陣頭指揮を最前線で執ったのが同社の現社長である森澤彰彦氏だ。フォント(書体)は当時、電算写植機という機器とセットで販売されており、フォントを単品で販売するというビジネスは存在しなかった。しかしモリサワは国内でいち早くフォントを専用機器からオープン化して、アドビ システムズにライセンス提供した。そして現在、多メディア化、多言語化が同社の成長を加速させている。

フォント以外の事業にも注力

─情報の伝達・流通媒体が紙からデジタルに移行してデジタルメディア、ソーシャルメディアの勢いが増すなど、メディア業界は再編成の渦中にあります。しかしながら紙にもデジタルにも文字を提供している貴社のビジネスは好調を維持していると伺っています。貴社の事業の現況についてお聞かせください。

森澤氏(以下、敬称略)■ありがとうございます。当社では大きく分けて三つの領域で事業を営んでいます。まず当社の売上の約50%を占めるのがフォント事業です。そしてソフトウェア事業とソリューション事業を合わせて約50%といった構成です。

 ソフトウェア事業では印刷出版を中心とした業界向けに、辞書や教科書、学習参考書など複雑な紙面構成の書籍を作成するためのソフトウェアを開発・提供しています。このほか「MVP」(モリサワ・バリアブル・プリント)という可変印刷物を作成するためのソフトウェアも開発・提供しています。

 これは宛名や名前、ナンバリング、プライスカードなど可変データを利用して印刷物を作るためのものです。印刷用のデジタルデータを読み込んで高性能のレーザープリンターに直接印刷する「オンデマンド印刷」と組み合わせることで、DMや名刺などを必要に応じてその場で作成できます。

 MVPでは購買履歴に応じて案内の内容や写真などを変えて印刷できるため、旅行会社や自動車販売会社など印刷系以外のお客様にもご利用いただいています。

 そしてもう一つ、「MCCatalog+」というサービスをクラウドで提供しています。これはインバウンド対応情報発信ツールで、観光ガイドや自治体などの広報誌、地域情報誌(フリーペーパー)、さらにはレストランのメニューや施設案内など、さまざまなコンテンツを多言語でスマートフォンやタブレット用の無料ビューアアプリ「Catalog Pocket」に配信するクラウドサービスです。

 「Premium Plan」で提供されるオーサリングツール「MCCatalog+Maker」を使えば日本語、英語、中国語簡体字、中国語繁体字、韓国語、タイ語、ポルトガル語の7言語に対応した自動翻訳機能が利用でき、例えば日本語で作成したコンテンツを英語に自動翻訳できるなど、一つのコンテンツを複数の言語(多言語)に翻訳して配信できます。

─MCCatalog+の主な顧客は自治体などの公共領域でしょうか。

森澤■地域に住む外国人に提供する情報量を増やしたいと考えている自治体のお客様が多いのですが、コストや業務の負担などに課題があり実現が難しいのが実情のようです。

 MCCatalog+を使えば日本語の情報を自動的に多言語で配信できるため、コストと手間を軽減できます。現在、約50の自治体にご利用いただいています。

 さらにインバウンド市場に向けて広く活用できるため、自治体以外のお客様にも有用です。ユニークなところでは高齢者へのサービス提供が挙げられます。MCCatalog+Makerには多言語に対応した自動音声読み上げ機能が利用できますので、画面の文字が見づらいと感じる高齢者などへの情報提供に適しています。しかもナレーションを収録するコストも手間もかかりません。

多メディア化、多言語化で成長

─三つ目のソリューション事業はどのような事業内容でしょうか。

森澤■ソリューション事業では印刷物の作成に必要な機器とソフトウェア、そしてフォントを組み合わせてトータルで提供しています。お客様の約90%が印刷出版の企業です。今後は、さらに広い分野にソリューション提供できるように事業を発展させる必要があります。

─フォント事業の主な顧客は印刷出版や、それに関連する制作会社、デザイナーなどでした。好調な貴社のフォント事業の展望をお聞かせください。

森澤■おかげさまで当社のフォント事業は堅調に成長を続けています。紙だけではなくWebサイトやデジタル分野への対応も必要となり、当社のフォント事業も変化を続けています。

 近年最も大きな変化と言えるのが2005年に発売開始した「MORISAWA PASSPORT」です。従来はフォントをパッケージ販売していましたが、MORISAWA PASSPORTはPC1台につき年額4万9,800円(税抜)で全てのモリサワフォントを含む1,000書体以上のフォントが利用できるというライセンス製品です。

 MORISAWA PASSPORTを提供した当初はほぼ100%のお客様が印刷出版関連でした。しかし、この数年は印刷出版以外の業種での導入が進んでおり、この傾向は続くと思います。

─印刷出版以外にどのような需要が伸びているのでしょうか。

森澤■インターネットやスマートフォン向けコンテンツなど新しいメディアが増えています。それに伴ってモニターに表示される文字を扱う機会が増えています。

 従来は文字を扱うデータを作るのは印刷会社など専門業者に限られていました。しかしDTPが普及し、さらにワープロソフトやプレゼンテーションソフトなど一般的なビジネスでも文字を扱うデータを誰もが簡単に作ることができるようになりました。

 その結果、広報や宣伝に利用する文書などの制作物を内製する企業が増えたほか、Webサイト制作やゲーム制作など新しい市場が拡大したことにより、より多くのメディアでモリサワの文字が使われるようになりました。

 お客様が多メディア化した結果、新しいニーズが生まれ、そのニーズに応える書体を開発し続けることが新たな収益を生み出していくと考えています。

見やすさ、読みやすさを学術的に研究

─貴社が提供しているフォントの中で需要の傾向などはありますか。

森澤■現在、需要が伸びているインターネットのコンテンツやゲームなどのアミューズメント関連では多言語の要望が増えています。MORISAWA PASSPORTのフォントで170以上の言語に対応することで、こうした需要に応えています。

 MORISAWA PASSPORTは主にコンテンツやゲームなどを制作するプロに利用されています。今後は一般のビジネス文書の作成など、もっと広い領域でも利用してもらえることが重要だと考えています。

─2017年10月17日にリリースされたマイクロソフトの「Windows 10 Fall Creators Update」にも貴社の「UDデジタル教科書体」が採用されています。このフォントの特徴を教えてください。

森澤■当社は「文字を通じて社会に貢献する。」を企業理念としています。モリサワUD書体はユニバーサルデザインを意識して「文字のかたちがわかりやすいこと」「読みまちがえにくいこと」「文章が読みやすいこと」をコンセプトに開発しています。

 第三者機関の研究によって元となった書体や同カテゴリーの書体と比較した時の読みやすさ、判別のしやすさに関する学術的研究結果が報告されており、当社のWebサイトで報告書を公開しています。(モリサワWebサイト http://www.morisawa.co.jp/fonts/udfont/study/)

 今回、Windows10に採用された「UDデジタル教科書体」は、デジタル教科書をはじめとしたICT教育の現場に効果的なUD書体です。学習指導要領に準拠し、書き方の方向や点、ハライの形状を保ちながらも、太さの強弱を抑え、ロービジョン(弱視)、ディスレクシア(読み書き障害)に配慮したデザインで、リーダビリティについての科学的根拠も取得しています。また2016年度より施行された障害者差別解消法の理念にも基づいて設計しています。

印刷出版以外の領域で事業拡大を目指す

─2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、さまざまな言語による情報やサービスの提供が求められます。貴社はどのように貢献したいと考えていますか。

森澤■実は1964年の東京オリンピックでは当社が開発・製造したテレビテロップ機が国産初の製品としてNHKに採用され、東京オリンピックの放送に使われました。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックも文字で貢献したいと考えています。例えばMCCatalog+の技術とフォントを組み合わせてさまざまな貢献ができると期待しています。

─国内の事業の成長に向けた展望をお聞かせください。

森澤■当社のフォント製品はデザインの世界では大きなシェアを持っています。しかし今後はデジタルメディアやソーシャルメディアの分野にもビジネスを拡大していく必要があります。その領域でビジネスを拡大するには、パートナー様の協力が欠かせません。

 当社の製品やサービスを販売しているのは、ダイワボウ情報システム様と全国の販売店様などのパートナー様ですから。そしてパートナー様はさまざまな業種の企業と取引をしています。パートナー様を通じて新しい領域のお客様に、モリサワのフォントやソフトウェアといった製品やサービスを提供できると期待しています。

「インターネットやスマートフォン向けコンテンツなど新しいメディアが増え、それに伴って文字を扱う機会が増えています」

PROFILE
1963年(昭和38年)10月6日生まれ。兵庫県出身。1986年にモリサワに入社。モリサワとアドビ システムズが日本語ポストスクリプトフォントの共同開発で業務提携した1987年に技術取得のために渡米。帰国後にDTPやデジタルフォントに関する事業に携わる。2006年に常務取締役執行役員営業本部長、2007年に専務取締役執行役員営業本部長、2009年より現職。

武蔵野
「武蔵野」は、手になじんだ万年筆でなにげなく書き綴ったような、趣きと知性を感じさせる書体です。味わいのあるにじみの表現が、手書きのタッチや紙の質感を感じさせ、文字本来の豊かな生命力が息づいています。ナチュラルな運筆で颯爽とした印象の「草かな」を組み合わせることもでき、可読性にも優れていますので、誠実さや温かみを伝える書体として、幅広い場面で品のよいイメージを演出します。(モリサワWebサイトより http://www.morisawa.co.jp/fonts/specimen/1515

森澤氏はMORISAWA PASSPORTが現在提供している1,000書体以上のフォントの中で、「武蔵野」と呼ばれるフォントの手書きの雰囲気が好きだという。

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