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漁業経営の安定化と安心安全な体制をICTで実現へ~北海道奥尻町の試み~

漁業経営の安定化と安心安全な体制をICTで実現へ~北海道奥尻町の試み~

2017年12月22日更新

漁業経営の安定化と安心安全な漁業体制をICTで実現
〜北海道奥尻町のスマート漁業〜

北海道南西部の日本海上に浮かぶ奥尻島(奥尻町)で、スマート漁業の取り組みがスタートした。イカ、ホッケなどの回遊漁業からウニ、アワビ、ナマコなどの磯根漁業へ転換。漁船に搭載したGPSセンサーや「うみのレントゲン」「うみのアメダス」によるデータを活用して高収益漁業や海難救助体制、担い手の育成に力を入れる。経験と勘が頼りだった漁業がICT活用でどう変わるのだろうか。

成功モデルを活用してICT漁業を推進

 総務省は今年の春、「ICTスマートシティ整備推進事業」のうち、これまでに成功したモデル事業の普及展開を図るため、「地域IoT実装推進事業」を実現する事業を公募した。公募する事業は次のいずれかの要件を満たすものとされた。

地域IoT実装推進タスクフォースで策定されたロードマップの「分野別モデル」の中の優れた実装事業……例えば、地理空間情報を活用した防災システム、ICTを利活用した水産業のリソースシェアリング、観光資源のオープンデータを利活用した観光クラウドなど

地域への実装を推進する観点からの先進事例や成功事例の実践事業……例えば、公的機関や民間団体による表彰(ICT地域活性化対象受賞)などを受けた事例

 全国から39件の申請があり、「小規模校のハンディキャップを乗り越えるグローカル人材の育成(岐阜県郡上市)」「遠隔地の距離的・時間的な制約の克服(岐阜県白川町)」「自治体防災情報管理システムのクラウド連携と運用(熊本県など)」「空間地域防災システムの構築(佐賀県多久市)」など17件が採択候補として決定された。

 その中で、スマート漁業の推進を目指して奥尻町が提案したのが「ICT漁業を利活用したリソース・シェアリング実装事業」だった。ICTを活用して漁業経営の安定化と安心安全な漁業体制を構築しようというものである。

漁業従事者の減少で漁業の存続が危うい

 奥尻島は、面積142.97k㎡で北海道では2番目に面積の広い島である(北方領土を除く)。島全体で奥尻町を形成し、人口は2,739人(2017年10月31日時点)。漁業と観光の町である。奥尻町の状況について水産農林課水産係長の横田稔氏は次のように話す。

「奥尻町の主要産業は水産業です。ホッケやイカなど回遊魚が中心となって水揚げ量のほとんどを占めていました。近年、回遊魚の漁獲量が減少し、漁協組合員が高齢化して漁業従事者が減少したことで、漁業の存続が危うい状況となってきました」

 今回の公募は、そうした危機から脱出するための窮余の一策だった。奥尻町の漁業がどういう状況になっているか、平成18年度と平成27年度の比較では、

•水揚量=4,184t→966t(77%減)
•水揚げ金額=11億7,900万円→6億6,300万円(44%減)

となっている。

 最も大きな原因は漁業従事者の高齢化だという。平成29年4月現在、漁協の組合員は146人。そのうち70才以上の高齢者が68%を占めるというのだ。

「毎年、漁に出る人が減っています。当地の漁業の中心であるイカやホッケの漁場が沿岸から離れているのも原因の一つなのですが、大型船でないと離れた大型漁場に行けないのです。当地の漁船のほとんどが0.3tクラスの1人乗りの『磯舟』と呼ばれるもので、0.7~1tクラスの『和船』も1人か、せいぜい親子の2人乗りです。事故が発生しても、少人数では対応しきれません。ICTを使うことで、陸にいる第三者が事故を発見したり救助する体制を構築できれば、家族も安心して漁に送り出せるので、漁業従事者の減少を抑えることができます」

 ICT活用で資源管理を行い、安定した島の漁業の存続・発展を目指し、新人や高齢者が安全に操業できる体制を作ることが今回の事業の目的だったと横田氏は言う。

「勘と経験」に「情報」をプラス

「先進事例の利活用」が総務省への公募の要件だったが、奥尻町が採用したのが「総務省地域情報化大賞2015」の最高賞である総務大臣賞に選ばれた「IT漁業による地方創生」だった。沿岸漁業が抱える課題を解消するため、はこだて未来大学マリンIT・ラボ(和田雅昭所長)が情報と資源の共有化を目指した取り組みである。

 これまでの漁業は、季節の移り変わりに合わせて毎年同じ作業を繰り返していた。しかし、温暖化が進む現在、環境の変化を無視した漁業では成り立たたない。一方、日本の漁業には「良い漁場は人に教えない」=「情報は共有しない」、つまり「情報の共有という文化」がなかった。経験と勘に頼り、情報を共有しない競争的な漁業も資源の枯渇につながり、将来性はない。

 ところで、漁船のGPSは自動車よりも早く普及し、魚群探知機や潮流計などIoTのセンサーの役割を果たす機器は古くから使われていた。機器はハイテクだったのだが、ネットワークにつながっていなかったので、ICT化とは長い間無縁だった。今でも広大な漁場の9割以上は携帯電話の圏外だが、日帰り可能な沿岸なら圏内であり、活用できれば費用も安くて速度も速い。インターネットとICTを使わない手はないのだ。

 マリンIT・ラボは、ICTによる水産資源(ウニ、アワビ、ナマコ)の漁獲と保護を見える化する仕組み(資源情報=うみのレントゲン)や、海洋観測のブイやGPSの情報で安全に操業できる体制(位置情報=うみのアメダス)を作ることで「経験と勘」に頼っていた漁業に「情報分野」を加え、持続可能な沿岸漁業の可能性を広げたという。

 例えば、北海道の留萌地区では、マリンIT・ラボと協力してナマコの資源データをICTで可視化するプロジェクトを始めた。漁業者が獲りすぎないよう意識し始めた結果、ナマコの資源量が1.6倍に回復したという。レントゲン写真を見るように資源状態を提示することで、漁業者から「もっと獲っても大丈夫だろう」という意識を取り払うことができた結果だという。

「はこだて未来大学マリンIT・ラボのうみのレントゲンとうみのアメダスの事例をモデルにICTを活用すれば、沿岸漁場の資源管理や漁獲状況を把握できる資源管理システムが構築できます。ベテランの勘と経験はシステムによって若手に受け継がれ、漁業者全体の所得の向上を図ることもできます。一方で、安全に操業できる体制を構築することで漁業就業者を増やし、安心できる海難緊急体制で就業者の減少を抑えられます。島の唯一の高校である町立奥尻高校へも資源管理の情報をリソース・シェアリングし、次世代の担い手を育てることにしました」(横田氏)

平均漁業収入を約100万円向上させる

 奥尻町水産農林課では「ICT漁業を活用したリソース・シェアリング実装事業」として、平成27年の数値を基に5年後の31年度までの達成目標のロードマップを次のように描いた。

・平均漁業収入……27年度の399万7,000円を、所得向上と経費削減で508万4,000円に設定する。操業予定漁場の状況が陸にいながら把握できるようになるので、「空戻り」延べ100回分の経費が節減できる(効果=49万円)。

・漁業従事者……27年度148世帯161人が5年後には117世帯130名となる。これを136世帯149人の減少まで抑える。

・総事業費……今年度事業費として2,200万円。

・資源システム構築、情報共有……資源管理、安心できる操業環境の構築のため、ウニ、アワビ、ナマコなどの磯根漁船138隻にGPSセンサーを設置、観測ブイ3基で水温・潮高の蓄積データから資源管理システムを構築し、関係者で情報を共有。

 こうした目標を掲げ、この10月、町にとって最も有利な事業者を選定するため、公募型プロポーザルを実施した。

「事業者も決まり、GPSセンサー85基、ブイ1基でスタートしたばかりです。事業を円滑に進めるための協議会も役場内に設置しました。漁業者からも現場の意見を聞き、目標達成を目指します。事業者同士がよく話し合い、効果を最大に引き出していきたいですね」と横田氏は期待をかける。

 日本の漁業は、国内の他の第一次産業と比較してもICT化が遅れていると言われる。海でもインフラの不利がなくなりつつある今、ICT活用で効率的な漁獲や資源管理、漁業従事者の減少抑制などでぜひ結果を出してもらいたい。

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