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薬箱が薬の飲み忘れを教えて、クラウドで患者を遠隔で見守る

薬箱が薬の飲み忘れを教えて、クラウドで患者を遠隔で見守る

2017年11月15日更新

処方薬の飲み忘れ防止と遠隔見守りを
ICタグ薬包と通信機能付き薬箱で実現

少子高齢化の進行が大きな社会問題となっているが、中でも医療財政の圧迫は深刻だ。その原因の一つとして残薬問題が挙げられる。医師から処方された薬を飲まずに余らせてしまい、厚生労働省化学特別研究所の調査によるとその金額は年間100億円〜6,500億円も無駄になっているという。残薬問題は経済的な悪影響だけではなく、処方薬を正しく服用しないと病気の回復も遅くなるなど健康にも悪影響を及ぼす。こうした問題の解決に向けて凸版印刷とデンソーウェーブがICタグ薬包とIoT薬箱を共同開発した。

薬箱が薬の飲み忘れを教えてくれる
クラウドで患者を遠隔で見守り

凸版印刷とデンソーウェーブが共同開発したICタグ薬包とIoT薬箱は処方薬の正しい服用を支援するとともに、遠隔での見守りが行える新しいソリューションだ。

現在、処方薬は一度に服用する複数の薬をまとめて「一包化」して処方することが多い。この一包化された一つひとつの薬包にICタグを取り付ける。薬包のICタグに書き込まれたIDは、薬剤の製品名と朝・昼・晩など服用する時間帯、そして服用する人の名前とひも付けられる。

IoT薬箱には非接触で複数のICタグの情報を一括して読み取ることができるデンソーウェーブが開発した920MHz帯RFIDリーダーが搭載されている。このRFIDリーダーが読み取った情報をIoT薬箱とBluetoothで接続したiPadの専用アプリで利用する仕組みだ。

ICタグ薬包をIoT薬箱から取り出してふたを閉じるとICタグとの通信が遮断され、専用アプリに服用したICタグ薬包と日時が記録される。また専用アプリの画面にはハートマークが表示され、服用するとハートマークが赤く着色される。1日に薬包しなければならない薬包をすべて服用すると、ハートマーク全体が赤く染まるようになっている。

専用アプリではIoT薬箱に保管されている薬包の数を朝・昼・晩で個別にリアルタイムで確認できる。さらに服用する時間を設定し、服用する時間を過ぎるとアラームで知らせて飲み忘れを防いでくれる機能もある。

服用記録やIoT薬箱に保管されている薬包の情報はインターネットを通じて専用のクラウドに伝送され、PCやスマートフォンのブラウザーから確認できる。患者が正しく薬を服用しているかを医師や薬剤師が確認したり、遠隔地にいる家族が見守りに利用したりすることが可能だ。

凸版印刷とデンソーウェーブが共同開発したIoT薬箱とICタグ薬包。

ICタグ薬包と通信機能付き薬箱で
処方薬の服用状況を把握する

処方薬の飲み忘れによる残薬は病気の回復が遅くなるだけではなく、少子高齢化に伴う医療財政のひっ迫を悪化させる要因の一つでもある。しかし患者が処方薬を服用しているかを正確に把握する術がない。

そのため症状の改善が見られない際に処方薬が効いていないのか、それとも処方薬を正しく服用していないのかを医師が判断するのが難しいという問題もある。そこで凸版印刷は処方薬の服用を正確に把握するための仕組みとしてICタグ薬包とIoT薬箱の開発に取り組んだ。

現在のICタグ薬包とIoT薬箱はまだ開発途上にあり、市販化については未定だ。その開発の過程について凸版印刷 ICT総括本部 ICT戦略センター 課長 中里正行氏は次のように説明する。

「iPad用の専用アプリの開発にアップルの健康管理用フレームワークである『CareKit』を利用しており、ユーザーインターフェースなどアプリの開発はスムーズに進められました」(中里氏)

IoT薬箱について同社の生活・産業事業本部ビジネスイノベーションセンター 課長 藤川君夫氏は「一般的な薬箱のデザインは薬を飲まなければならないというネガティブな印象を与えてしまう恐れがあるため、優しい印象で部屋のインテリアになじむデザインを目指しました」と説明する。

しかし「薬包をどのような向きに保管しても正確にすべてのICタグの情報を読み取れる薬箱の内部形状と、薬箱から取り出したICタグ薬包と通信しないようにふたを閉じると電波を遮断できることなども薬箱のデザインに求められ、これらを実現するのに時間がかかりました」と中里氏が話を続ける。

薬箱に収納されているICタグが印刷された薬包の情報を、RFIDによって非接触で読み取る。薬箱の外にある薬包を読み取らないように薬箱のふたを閉じるとRFIDの通信を遮断する工夫が施されている。また薬包を開けるとICタグが破れ、使用した薬包の通信を不能にする。

初期の実証実験で高い効果を確認
事業化には検証と実績づくりが必要

開発初期のICタグ薬包とIoT薬箱の試作品を実際に利用してみたところ、いくつかの課題に直面した。

同社はICタグ薬包とIoT薬箱の機能を実証するために8名のモニターを対象に、医師の協力を得て今年6月27日から7月4日にかけて実験を実施した。

実験の結果、クラウド上で管理した服用率とモニター自身がノートに手書きで記録した服用率の誤差は1%と、機能的に実装可能に近いレベルにあることが確認できた。

またアラームで服用時間に気付いた回数が21.4%あり、通知機能にも効果があることが確認できた。

さらにアプリのセットアップや使い方も全員がすぐに理解できたと回答したほか、服用してハートを赤く着色していくインターフェースについてもゲーム感覚で楽しいという声もあり、ソリューションへの評価はおおむね良好だったという。

しかし改善すべき課題も明確になった。中里氏は「余分に取り出した薬包をしばらく時間が経ってから気付いて再び薬箱に戻すなど、想定外の出し入れのパターンが発生するとクラウドで管理されている服用記録と薬箱内の薬包の数との整合性が維持できず、データ管理の仕組みを改善するのに苦労しました」と語る。

現状は朝・昼・晩で服用する場合ならばさまざまなパターンの出し入れに対応できる。しかし今後はより複雑な服用方法にも対応していくという。

IoT薬箱の事業化について藤川氏は「実証実験を重ねて機能や仕組みの検証が必要です。またIoT薬箱やICタグ薬包の提供方法やコスト負担についても検討が必要です。ほかの仕組みと組み合わせたり、ほかのシステムと連携させたりするなど、いろいろな可能性が考えられます。まずは特定の用途に絞って実績を作りたいと考えています」と説明した。

薬箱を使用するための専用アプリの画面。薬を飲むとハートマークが着色され、すべて飲み終えるとハートマーク全体が赤くなる。
薬箱の情報はクラウドに送られ、PCやスマートフォンのブラウザーから確認できる。医師や薬剤師は業務に利用でき、家族は見守りにも利用できる。

左から凸版印刷 ICT総括本部 ICT戦略センター 課長 中里正行氏と
同社 生活・産業事業本部 ビジネスイノベーションセンター 課長 藤川君夫氏。

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