
提供されるAPIや連携ツールの利用により企業の既存システムとの連携を実現 【サプライヤーも得するクラウドの売り方 Renewal vol.9】
1.既存システムとクラウドを連携させる
販売店がクラウドサービスを提案する上で課題に感じるポイントの一つが、柔軟性の低さだ。例えばアプリケーション機能を提供するクラウドは多いが、提案する場合そのクラウドサービス単体の提案になってしまうケースが多い。そのため企業の既存のインフラとの連携や、他のクラウドサービスとの連携を行うのが難しく、独自の提案力が活かせないと考える販売店は多い。
しかし、クラウドサービスベンダーの中には他のクラウドサービスやオンプレミス製品との連携を柔軟に行えるよう、APIや連携ツールを提供している企業もある。顧客管理(以下、CRM)を始めとするSaaSのクラウドサービスを数多く提供しているセールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)も、そうした企業の一つだ。
同社のマーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアディレクター 御代茂樹氏は、同社のクラウドサービスについて次のように語る。「当社と他社のクラウドサービスの最大の違いはその柔軟性にあります。もともとエンタープライズ向けに提供しているため、企業の既存システムと連携しやすい仕組みを提供しているのです。具体的には当社のクラウドサービスのアプリケーションインターフェースはすべてAPI化されているのです。なぜなら、企業における業務はクラウドだけでは完遂しないケースはほとんどだからです。例えばERPや基幹系システムなどはすでに企業に導入されており、後から導入されるクラウドサービスはこれらと柔軟に連携しなくてはなりません」
2.アプリ開発でカスタマイズ性を追求
セールスフォースのクラウドサービスがカスタマイズ性に優れているのは、従来からエンタープライズ向けに提供されてきたことが背景にある。例えば、企業においては課長がアクセスできるデータと一般従業員がアクセスできるデータには違いがあるため、それぞれのユーザーに見える画面をカスタマイズする必要がある。そうしたエンタープライズ向けの要望に柔軟に応えられる製品が、同社のクラウドサービスなのだ。
また、同社が提供するクラウドサービスと既存システムとの連携だけでなく、ユーザーニーズに応じてクラウドアプリケーションを作り変えることも可能だ。通常、クラウドサービスはクラウドベンダーから提供されたアプリケーションに、ユーザーがログインして使用するためカスタマイズ性に乏しい。しかし、同社ではPaaSの上でアプリケーションを作れるプラットフォームを提供しており、ユーザーが希望する独自の環境に構築できるためだ。
「そのようにユーザーがカスタマイズしたアプリは、『AppExchange』というマーケットで公開できます。実際にAppExchangeでは3,000タイトルものアプリが公開されており、セールスフォースとは全く関係のないベンダーから新しいアプリが生まれたりしています」(御代氏)
3.ユーザーからクラウドベンダーへ転じた事例
アプリケーション開発の例として、御代氏は老舗旅館「陣屋」の事例を紹介した。
陣屋は100年以上続く老舗旅館だが、経営状態が芳しくない状況にあった。しかし2009年にこの旅館を継いだ宮崎富夫氏がセールスフォースのクラウド上で開発したクラウドアプリケーション「陣屋コネクト」で経営の改善を図ったことで業績が黒字に転じたという。
陣屋コネクトとは旅館経営の上で必要となる予約情報から顧客情報の管理、会計処理、勤怠管理、社内SNSなどを一元管理できるクラウドサービスで、タブレットやスマートフォンなどからもアクセスが可能だ。
「陣屋コネクトを開発するまでは、紙の台帳で顧客管理をしていたり、顧客の好みなどのデータはすべて女将の頭の中に蓄積されていたりする状況でした。陣屋コネクトを開発して利用を開始したことで、朝礼を行わなくても情報共有や情報発信ができるようになるなど、経営の効率化につながったようです」と御代氏。
陣屋では、自社で開発した「陣屋コネクト」を同じような課題を抱えている旅館に提案しており、現在170以上の旅館で陣屋コネクトが導入されているという。
このように、最初はクラウドサービスの利用者であったユーザーが、自分の望むアプリケーションを開発することでクラウドベンダーになるケースは少なくない。販売店自身が自社の課題を解決するアプリを開発して横展開をするような活用をすれば、販売店自身がクラウドベンダーになるようなことも可能になるのだ。
4.バックエンドとフロントエンドを結ぶクラウド
このように、ユーザーや販売パートナーによるカスタマイズが柔軟に行えるクラウドサービスやツールを提供しているセールスフォース。だが半面、そのカスタマイズの自由度が提案側の負担を増やすことにつながっていることを踏まえ、今年の2月に新たなプラットフォーム「Salesforce Lightning」を発表。ブロックを組み替えるようにUIの変更の要望に対応できるようにすることで、作り直しの手間とコストを削減できるサービスを新たに提供することで、操作画面の細かい変更点などに柔軟に対応できるようにした。
同社のクラウドサービスの柔軟性について、御代氏は「コンピューターとはもともと在庫の管理などのバックエンドの業務を行うために利用されてきました。しかし当社が提供しているCRMのようなクラウドサービスは、営業担当者が利用するため顧客に触れるフロントのテクノロジーであると言えます。このように、従来からテクノロジーが使われてきたバックエンドと、新しくテクノロジーが活用されだしたフロントエンドをつなげるためには、APIや連携ツールによるオープン性が必須になります」と語る。
すでに同社のクラウドサービスを基盤として新たなソリューションを提供している企業は数多い。「クラウドはすでにレンタルのように使うツールからパートナーシップを結べるツールへと変わってきています」と御代氏。販売店はクラウドサービスを自社ビジネスに取り込むことで、新たなサービスの創出やビジネスパートナーの創出につなげられるだろう。
本日の講師
セールスフォース・ドットコム
マーケティング本部
プロダクトマーケティング
シニアディレクター
御代茂樹 氏
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