クラウドサービスを活用して小さく始めるテレワーク
ワーキング革命を実現するためのテクノロジーには様々なものがあるが、それらに共通するキーワードがある。それは「クラウドサービス」だ。いつでもどこからでも柔軟に働ける環境を整えるために、クラウドサービスと高速移動体通信とデバイスの組み合わせは、必須となっている。
先進的なワーキング革命と企業のIT投資の規模
多くの先進的なITの導入事例を取材していると、これまであまり働き方の改革には縁がないと思われていた業種でも、ワーキング革命に取り組もうとしている話を聞くようになった。その背景には、日本の少子高齢化という社会的な現象がある。育児や介護で優秀な人材が職場を離脱してしまうことの損失を、経営者が明確に意識してきたのだ。
また、働き方の多様化や柔軟性が、「人」を大切にする企業の経営姿勢として現れることで、さらに有能な人材の確保や育成にもつながると考えられるようになってきた。しかし、そうした事例の多くは、大手のメーカーや金融機関などが中心になっている。人も予算も潤沢なので、かなり本格的な仮想化基盤を構築したり、テレワーク向けの環境を導入している。
こうした投資の中心にあるのは、Windowsを基本としたデスクトップ環境の仮想化と、OfficeやWebブラウザーなどのアプリケーション仮想化の推進にある。中には、Windows XPのサポート終了に対応するために、やむなくデスクトップ仮想化を導入した例もあるが…。それでも、社内のシステムをWindows系のリッチなPCクライアントから、端末には何もデータを残さないシンクライアントへと交換していく取り組みは、サーバー側で集約した仮想デスクトップ環境を社内外から安全に便利に使えるようにするものだ。
こうしたIT投資ができる規模の企業に比べて、中堅や中小企業では数千万から億に及ぶIT予算を確保するのは難しい。そこで注目する解決策が、クラウドサービスを活用したテレワークの実現にある。
GoogleドライブやOneDriveを中心とした働き方の改革
多くのビジネスユーザーは、Officeを中心としたアプリケーションで、仕事に必要な資料を作成している。そして、メールで情報をやりとりし、Webブラウザーでインターネットを閲覧し、イントラネットで社内の業務システムにアクセスしている。こうした使い方の中心というか、ベースに存在しているのが、Windowsに代表されるOSであり、そのデスクトップだ。
そのため、多くのビジネスユーザーは、「自分のデスクトップ」を使うために通勤してきて自分のPCの電源を入れる。そのデスクトップには、さまざまなアプリケーションのショートカットやファイルやフォルダーが並び、まさに自分の机の上のように、使いたいものがすぐにクリックできるようになっている。仮想デスクトップという技術は、この「個人のデスクトップ」を固有のPCに限定するのではなく、サーバー側に用意して、アクセスするクライアント側の依存度をなくす仕組みになる。その結果、どこからでもどんなデバイスからでも「自分のデスクトップ」を使えるようになるのだが、投資も必要になる。
そこで、ちょっと視点を変えてみよう。よくよく考えてみると、そこまでして「個人のデスクトップ」にこだわる理由はあるのだろうかと。そして、その理由を突き詰めていくと、各自が利用したいデータとアプリに帰結する。Word、Excel、PowerPointの三大アプリと、それによって作られた文書や表やスライドなどのデータ。これらを使うために、「個人のデスクトップ」は存在している。まずは、この常識を疑ってみる。
もしも、必要とする文書や表やスライドが、特定のPCに依存していないとしたら、果たしてデスクトップは必要なのだろうか。つまり、最初から目的とするデータが、固有のPCやOSやアプリに依存していなかったならば、「各自のデスクトップは、不要になるのではないか」という新常識だ。それが、GoogleドライブやOneDriveを活用したワーキング革命の提案なのだ。
デスクトップを捨ててクラウドへ旅立とう
筆者は、中古のPCを数多く所有し、バージョンの異なるWindowsやMac OS、Linuxなどで利用しているが、必須となっているのはGoogleドライブに代表されるクラウドストレージだ。この原稿も、昨日まではLinuxをインストールしたデスクトップPCで書いていたが、今日はWindows 10にアップグレードしたノートPCのChromeで書いている。さらに、最後の仕上げとしてLinuxのChromeからアクセスしている。このように使うOSやPCが違っても、Googleドライブのドキュメントは、まったく違和感なく使えるので、どこで作業を中断しても、安心して異なるデバイスやOSから継続できる。ときには、移動中の電車の中でスマートフォンからGoogleドライブを開いて推敲することもある。
ただし、商材という観点から考えると、どうしてもクラウドサービスは利幅が薄いように捉えられがちだ。確かに、インテグレーションや高額なIT機器を導入するビジネスに比べると、ライセンスなどの仲介になるので、売り上げなども大きくはない。だが、ここで視点を変えると、新たなビジネスの機会が見えてくる。それは、クラウドサービスを使うために必要な「教育と啓蒙」への対価だ。
Google Apps for WorkやOffice 365などのクラウドサービスは、すでに導入している企業の多くが、「社内に詳しい人材」がいるケースが多い。それに対して、まだ導入していない企業の多くは、クラウドサービスをどのように活用すれば、現状のビジネスを改革できるのか、具体的なイメージを抱いていない。そこで求められるのが、ワーキング革命につながるクラウドサービス利用の必要性を伝える啓蒙活動と、導入後に全社員が使いこなせるようになるための教育になる。
これまでの箱物を中心とした販売では、こうしたソフトウェア面での対応は、価格に含まれないサービスとなる例が多かった。しかし、ワーキング革命のための社員教育は、単に端末の操作を教えるような研修とは異なる。働き方を見直して、社内の業務規定や就業規則なども再検討する取り組みだ。そうした全体的な取り組みも含めた導入支援のメニューを整え、研修や教育を明確に料金化することにより、ビジネスとしてクラウドサービスを提案する魅力も広がる。さらには、それだけしっかりした導入メニューを整えることで、営業面での提案もし易くなる。導入する側でも、それだけのコストをかけるのだから、成果を出したいと本気になるだろう。
ワーキング革命は、IT業界における一過性のブームではなく、今後の日本の社会問題を解決するために必須の取り組みでもあるのだから、そうした背景も踏まえて啓蒙と教育を提案することで、新たなビジネスへと発展していくはずだ。
Googleでは2年前のイベントから「働き方の、これから。」というテーマで、ワーキング革命を提唱している。
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