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ネタと話題 [ Story and Topics ]

ウェアラブルデバイスで建設作業員の健康を24時間見守る

人は機械とは異なり、睡眠不足や体調不良などのコンディションによって作業効率が左右される。このような人のコンディション管理に利用することで業務効率を向上できる可能性があるのが、ウェアラブルデバイスによるライフログデータ収集と分析だ。

[2016.03.30]

生体センサーで真夏の熱中症を予防


 ウェアラブルデバイスは体に直接装着することで、使用者の脈拍や動き、位置情報などのデータを取得できる。これらの生活の記録をライフログデータとして分析・活用することで企業の業務効率向上や、高齢者の見守りに活用しようとする動きが増加しつつある。


 東芝のリストバンド型生体センサー「Silmee W20」(以下、W20)も、そうした用途で活用されているウェアラブルデバイスの一つだ。2015年8月25日から東芝と清水建設が共同で、本製品を活用した実証実験をスタートさせている。


 本実証実験では、三重県四日市市の建設現場に従事する清水建設の作業員にW20を装着させて、作業員の体調を24時間見守っている。W20で取得した生体データは、専用のスマートフォンアプリでそれぞれの作業員が確認できるようにするほか、現場管理者のタブレットや現場のPCなどに収集して管理・閲覧できるよう、システムを開発する方針だ。


 今回の実証実験を開始するに至った経緯について、東芝 ヘルスケア社 ウェルネス推進部 部長附の斉藤 洋氏は次のように説明する。


 「建設現場では夏の屋外作業現場に従事する作業員の健康管理が課題となっています。直射日光が照りつける屋外は熱中症にかかりやすいことで知られていますが、現場の作業員一人ひとりの身体の状態を正確に把握することは困難です。清水建設では、従来から建設作業員の健康管理を正確に行うため、温湿度などのデータを収集するセンサーを活用することで、現場作業員の熱中症対策を行っていましたが、導入したセンサーは現場のリーダーが所持しており、作業員一人ひとりには配布されていない側面もありました」


 温湿度センサーによって一定の温度に達した場合に休憩をとるなど、健康管理は行えるものの、作業員によっては耐えられない気温であったり、逆にまだ作業が行える可能性もある。そこで、従来導入していた温湿度センサーに加えて作業員の健康を管理するツールとして採用したのが、W20だった。


体調に合わせた負荷調整が可能


 W20には、脈拍センサー、紫外線センサー、温度センサー、加速度センサーなどの各種センサーは搭載されている。また、加速度センサーを活用した活動量管理、睡眠自動検出、食事時間検出、マイクを利用した会話量測定などの機能を実装しており、装着したユーザーの様々なライフログが取得できる。前述した通り、取得したデータはスマートフォンのアプリで閲覧できるほか、現場のPCなどから作業員一人ひとりのライフログを閲覧できるようにする予定だ。


 本システムにより、現場の管理者は作業員のその日の体調に合わせた作業量の負荷調整などが行えるようになる。例えば睡眠時間が著しく少ない作業員に対しては、作業負荷を減らすことで事故の可能性を低減させるような管理が行えるのだ。


 実証実験の発表がされたのは8月だが、実際にW20が現場に導入されたのは11月6日だ。W20の部品の調達の都合上、製品の発売が延期になったためだ。現在は先行導入という形で清水建設に約50台を導入している。それでは8月の時点ではどのような検証を行っていたのだろうか。東芝 執行役常務 ヘルスケア社 副社長の各務正一氏は次のように語る。


 「W20導入以前は、ActibandというW20の前モデルのリストバンド型活動量計を利用していました。Actibandでも活動量管理や睡眠自動検出、食事管理などは行えますが、現場の管理者がデータを収集して管理するというよりは、あくまで腕に活動量計をつけることに慣れてもらうための導入でした。実際に作業員がセンサーデータをスマートフォンのアプリで活用して見せ合ったりするなど、現場では違和感なく利用できていたようです」


 こうした事前の導入があったため、W20を導入したあともスムーズに活用できているという。今後は、センサーデータを活用して、熱中症予防をはじめとした作業員の健康管理をW20で実現させる。


 各務氏は「例えば会話量測定機能によって、お互いにコミュニケーションを取っている作業員同士では事故が起こりにくいという解析結果が出れば、現場のコミュニケーションを活性化させることで事故を未然に防止できる可能性があります。W20によって取得したライフログデータは、このようなビッグデータ解析によってさらなる活用が期待できます」と話す。


会話量を測定して高齢者の認知症を予防


 今回導入されたのは建設業という限定された業種だが、W20はそれ以外にも幅広い現場での導入が期待できる。例えば、すでに大分大学と連携し、認知症予防に向けた実証研究を実施するなど、高齢者福祉の現場でも利用されているのだ。


 東芝 ヘルスケア社 ウェルネス推進部 デジタルヘルス事業開発部 センサー・フュージョンデバイス開発第一担当 担当部長 橋本和則氏は「W20は省エネ技術により、充電しなくとも2週間利用できます。また、前述したように会話量測定が行えるため、会話量を増やすことで認知症のリスクを低減できます。緊急コールを発信できるSOSボタンもあるため、動けなくなった場合でも助けを呼べるなど、介護や福祉、医療の現場での活用を見込んでいます」と語る。


 人間による作業では不完全な箇所を、ライフログデータによって補完し、作業効率を向上させられるウェアラブルデバイス。W20はGPSやビーコンによる導線確認も行えるため、工場内での作業や運送業の安全向上、また普通のオフィスでの業務効率向上など、多様な現場で活用できる。あらゆるモノ・コト・ヒトがつながるIoT時代において、こうしたウェアラブルデバイスは、ヒトとモノを容易につなげ、新たな価値を生み出すためのキーデバイスとなり得るだろう。

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