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長野県白馬村は人工知能とアプリで観光客の動きを可視化する

[2016.11.12]

人工知能とスマホアプリで観光客の動きを可視化
〜長野県白馬村で「観光客の動線分析」の実証実験がスタート〜

 


長野県白馬村で、8月から人工知能とスマートフォンアプリによる「観光客の動線分析」の実証実験が行われている。神戸デジタル・ラボ(以下KDL)が開発している人工知能と、PFUビジネスフォアランナー(以下PFU)が提供するスマートフォン向けの写真アルバムアプリ「Coislu」を用いて観光客が訪れた地点の位置情報を分析し、観光客が求めるコンテンツを予測する。さまざまな分野で人工知能の研究や実験が行われているが、自治体が観光の分野で実験に取り組むのは珍しい。背景、目的、今後の課題などを聞いた。

 


観光産業を持続させて
消費連鎖の活発化を目指す


白馬村は長野県の北西部、北アルプスの麓にある人口9,200人の村。夏は山岳観光(登山・トレッキング・高山植物・アウトドスポーツ)、冬はウィンタースポーツの観光客が訪れ、避暑地としても知られている。


年間の観光客は、1990年当時には370万人にも上っていたが、1997年頃から減少に転じ、現在は約230万人となっている。冬期のスキー客が減少しているのが原因だ。一方、冬期オリンピックなどで海外にも知られるようになったため、2005年頃から韓国やオーストラリアからの観光客が増え始め、冬期の国内減少分を外国人でカバーしているという。


長野県白馬村観光局 営業プロデューサーの伊達仁彦氏は、実証実験スタートの背景を「戦略産業である観光を持続させていくために、地域内の消費連鎖を活発にしていく必要がありました」と語る。


来村する観光客数×消費単価×消費機会=観光産業収入であり、それが村の財政の確保につながる。消費機会は季節や月、日、時間で刻々と変化しており、手をこまねいていてはビジネスチャンスが失われる。「消費単価は観光コンテンツの品質向上と観光客の期待値と相関関係にありますので、観光収入減少という課題を克服していくためにはPDCAサイクルを的確に早く回すこと、つまり、観光客の動向を知ることが最も重要だと考えています」(伊達氏)


伊達氏によると、アンケートなどによる従来の方法ではタイムラグが長く、PDCAのCとAについて長い時間を要することが問題となっていたという。村内にはスキー場や宿、飲食店、観光物販店、一般観光地といった消費対象施設が集中または点在している。大事なことは観光客という大きな括りではなく、「時間軸」という発想を用いることで、詳細な観光客の動きを把握することではないか。そこで、時間軸に応じた観光客のニーズやカテゴリーを整理し、各施設への消費機会や新たな観光コンテンツの提案を行なうことになったという。

 


観光客にスマホアプリを提供し
人工知能で位置情報を分析する


実証実験では、8月19日から10月末日までの期間中に白馬村を訪れた観光客にPFUが提供するスマートフォン向けの写真アルバムアプリ「Coislu」を利用してもらい、KDLがその写真に付与される位置情報を人工知能で分析する。分析エンジンでは、以下の三つの機能を提供するという。


 •動線ヒートマップ分析
ヒートマップとは、行列型の数字データの強弱を色で視覚化し、観光客の動きを可視化すること。観光客の動向を位置情報の日付や時間、緯度経度、さらにこれらから想定される滞在時間など多様な軸から分析する。


 •動線予測ヒートマップ分析
位置情報を元に、観光客が求めている情報がある地域を人工知能で分析し、必要な改善や地域施策の検討を支援する。


 •コンテンツ予測レポート
予測された観光客の動線から、その時にその場所で観光客に提示されるべきコンテンツを予測する。


この予測分析エンジンの特長は、今その地点にいるユーザーが次に訪れる地点までの動線を予測し、「立ち寄り」のニーズを拾う点だ。「その時間」「その場所」にいるからこそ実現できる最適な体験を提案することで、観光客の満足度向上につなげられるというわけだ。白馬村観光局はこの分析結果を用いて観光客へのコンテンツの配信や観光資源の整備を行い、より良い観光サービスの提供や外国人観光客の誘致に向けた施策を検討するという。

 


観光客の動線を見える化し
新しいコンテンツの提供へ


では、実証実験はどのように行われたのだろうか。伊達氏は「とにかく専用アプリをダウンロードしていただくことが先決事項です」と話す。そのため、村内イベントでの告知や商工会と合同で観光客が集中する施設(飲食店・物販・スキー場)でのチラシやポスターの配布、掲示を行ったという。


観光客数から集めたデータの分析によって、どのような動向が見えてくるのだろうか。


「個別の観光客の動線を確認するのは難しいと思います。しかし、時間軸で観光客の分布を見ることはできます。あくまで仮説ですが、時間別の観光客分布の航空写真を関係者へ提示することで、これまでの固定概念を払拭できるのではないかと考えています。昔は、お客様が天から舞い降りてきてくれたといわれるほど一世風靡した白馬村の観光でしたが、最近の変化に対応できていません。そういった意識の変革にもつなげたいですね」(伊達氏)具体的な変化や対策予測は図を参照。


今回の実験はスキーや登山で訪れる観光客に新しく提示できるコンテンツ(施設やイベントなど)の提案につながり、観光客の満足度向上と外国人観光客の来訪促進などに貢献できるのだろうか。


「実証実験の結果は11月中旬になりますので、観光客の反応などは今のところ不明です。しかしサンプル結果で見ると、ビジュアル的には期待通りの調査報告を得ています。今後の展開としては収集、解析したデータを元に、関係施設への提案、消費機会を最大限得るための商品開発や観光コンテンツの造成および既存コンテンツの見直しなどにつなげていきたいですね。実証実験にとどまらず、継続事業として取り組んでいきたいです」(伊達氏)


さらに、白馬村は、日本版DMOの申請を予定しており、事業内容の重要機能であるマーケティングに組み入れて行きたいと考えている。「観光地域づくりのまとめ役として、ビジョンの実現のため地域の関係者の合意を得ながら、客観的データを元に責任をもって事業を立案・実行していきます」(伊達氏)

 

※DMO(Destination Management/Marketing Organization)は、観光地域づくりを持続的戦略的に推進し、牽引する専門性の高い組織・機能を意味する。日本版DMOとは、地域の「稼ぐ力」を引き出し、観光地経営の視点に立った観光地域の舵取り役として多様な関係者と協同しながら観光地域づくりを実現するための戦略を策定、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人を指す。

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