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遠隔診療の優位性を問う実証実験がスタート

[2016.09.12]

厚生労働省の通達でICTを活用した診療への期待や関心が高まる
〜宮崎県日南市で遠隔診療の有効性を問う実証実験がスタート〜

 


2014年度の厚生労働省の調査によると、医療機関が存在しない「無医地区」は日本全国に637地区ある。2015年8月に厚生労働省が遠隔診療に関する解釈を明文化し、広範囲での解禁とも受け取れる通達を各都道府県知事に提出したことで、遠隔診療への期待と関心が高まっている。そのような中、2016年6月から宮崎県日南市で、無医地区におけるICTを活用した遠隔診療の有効性に関する実証実験が始まった。実証実験導入の背景や実証の現状などを聞いた。

 


医師不足で地域の巡回診療が困難に
ICTを活用して無医地区で遠隔医療を行う


日南市は宮崎県南部に位置する人口5万5,000人の町。温暖な気候に恵まれ、プロ野球のキャンプ地や日南海岸などの観光地として知られてきた。かつては人口も7万3,000人を数えたが年々減り続け、高齢化率が伸び続けている。今年度から遠隔診療がスタートした背景を、宮崎県 地域医療対策室 主査の甲斐洋一朗氏は次のように説明する。


 「昨年末までは、宮崎県が日本赤十字社の宮崎県支部に委託をして無医地区に医師を派遣、巡回診療を行ってきました。しかし、医師が探せないなどの事情があり、県ではなく市町村が独自で担当することになりました。宮崎県内での無医地区は4市町村に10地区あります。日南市では市立中部病院がその役割を担うことになり、医師を当該地域へ派遣し診療を行う巡回診療を行ってきました。しかし、定期的な派遣は医師や医療従事者の不足を招き、病院側にとっても大きな負担となっていました」(甲斐氏)


システムのサポートを行うポートは、2015年11月にITで患者と医師をつなぐ遠隔診療プラットフォームサービス「ポートメディカル」の提供を開始。ポートの遠隔診療プラットフォームがメディアに取り上げられた際、日南市 市長の崎田恭平氏が市内の無医地区で地方モデルの実証ができないかと問い合わせたことから今回の取り組みが始まった。日南市側には医師不足を抱えながら無医地区の診療体制を整備する目的があり、ポート側には単独でサービスを推進するより、自治体と連携して取り組んだ方が地域の信頼性とスピード、インパクト、普及性などでメリットがあることから双方の思いが合致して実証実験がスタートすることになった。

 


公民館のテレビ電話を介して
病院にいる医師の問診を受ける


北郷町は日南市の北部、宮崎市と境を接する人口5,000人ほどの中山間地域にある。高齢化率は40%と高い。日南市の中心地にある中核病院からは20kmほど、市立中央病院からは30km、最も近い開業医のクリニックから15km離れており、急病の場合は自動車でその距離を移動しなければならない。また、慢性的な病気を持っている患者も、何らかの交通手段を使わなければならない。コミュニティバスも通っているが本数が少なく、バス停までの距離も遠いため、高齢者や病人にとってはつらい状況がある。病院できちんとした診察を受けるには、あらかじめ家族が勤務を休んで送り迎えをしたり、タクシーを頼んで高額な運賃を払ったりしなければならなかった。


日南市の遠隔診療システムは、北郷町の公民館に設置されたタブレット端末を通じて患者が医師の診療を受けるというスタイルだ。日本でこれまで進められてきた遠隔診療は、DtoD(Doctor to Doctor)という主治医と専門医との間で医療用画像を伝送して助言を受けるタイプが多かった。インターネット回線を通じて映像や音声などで直接患者を診察する遠隔診療はDtoP(Doctor to Patient)と呼ばれるが、日本では「直接対面が基本。遠隔診療は対面診療を補完するものとして行うべき」との認識があり普及してこなかった。しかし昨年、厚生労働省の通達がなされたため、DtoPタイプの遠隔診療の拡大が期待されることになった。近くに医療機関がない患者や、医療機関に通うことが困難な患者にとって大きな助けとなる。


 「公民館に出向いてきた患者には看護師と事務職員が付き添います。あらかじめ看護師が血圧や体温、脈拍を調べて問診を行っておき、テレビ電話を通じて医師の問診を受けます。通常の病院で、医師だけが離れたところにいて診察を受けるというスタイルです。体に負担がかからず、とても便利だと利用者も喜んでいるようです」(甲斐氏)

 


厚生労働省の通達による事実上の解禁
遠隔診療中心の医療・ICTマーケットも拡大?


遠隔診療の実証は2016年6月にスタート。基本的に月に1回実施し、2018年3月までの2年間実施する。6月の受診者は4人、7月は3人、8月は2人だ。受診に訪れる患者は、高血圧などの既往症があり、毎月、薬をもらう必要があるなど何らかの病気を持っている人がほとんどだという。触診や聴診はできないので正確な診断は難しいかもしれないが、通話や動画で症状を伝えたりして、薬を処方してもらうということが可能となったのだ。


 「スタートしたばかりで、課題はこれから見つかってくるのではないでしょうか。実証期間は2年ですが、市立病院の医師や宮崎大学医学部のスタッフとも連携し、利便性や満足度を含めて対面医療と遠隔医療の差を検証した上で、地域医療や遠隔医療のツールとしてとらえ、有効性を実証していきたいと思います」(甲斐氏)


日南市役所の地域医療対策室ではFacebook上にオフィシャルサイトを設け、日頃の活動をきめ細かく発信している。例えば、8月上旬には3日間の予定で高校生向けの地域医療研修会(メディカルサイエンスユースカレッジ)を開催。8月4日は地域医療や地域包括ケアシステムについての講義、グループワーク。8月5日は医療職種からのプレゼンテーションや病院見学・体験。8月6日は、将来どんな医療人になりたいか、これからの日南市の医療はどうあるべきかについてのグループワークを行うなどの熱の入れようだ。


地域医療対策室だけでなく、市役所内のどの部門も実施していることを多方面に発信していくためオフィシャルサイトを構築しているという。甲斐氏は、地域医療対策室が高校生を対象にしたイベントに力を入れている理由を、地域医療を若い世代から理解してもらい、医療従事者不足の折から職業の選択の助けになり、医療関係に進んでくれる若者を増やしたいと期待しているからだという。


厚生労働省の通達による事実上の解禁により、国内でもこれから遠隔診療が拡大していくことだろう。実証実験を経て、より利便性の高い医療サービスを求める傾向が高まるだろうし、遠隔診療を中心とした医療・ICTマーケットの拡大も見込まれそうだ。今後の動向から目が離せない。

 

 

 

● 遠隔診療の基本的な考え方と留意点
『情報通信機器を用いた診療(いわゆる「遠隔診療」)について』から抜粋


基本的考え方


・医師法第20条および歯科医師法第20条(以下、医師法第20条)における「診察」とは、問診、視診、触診、聴診その他手段の如何を問わないが、現代医学から見て、疾病に対して一応の診断を下しえる程度のものをいう。したがって、直接の対面診療による場合と同等ではないにしてもこれに代替し得る程度の患者の心身の状況に関する有用な情報が得られる場合には、遠隔診療を行うことは医師法第20条に抵触するものではない。


留意事項


・患者側の要請に基づき、患者側の利点を十分に勘案した上で、直接の対面診療と適切に組み合わせておこなわれるときは、遠隔診療によっても差し支えないこと。


・直接の対面診療を行うことが困難である場合(例えば、離島、へき地の患者の場合など往診または来診に相当な時間を要したり、危険を伴うなどの困難があり、遠隔診療に余らね蹴れば当面必要な診療を行うことが困難な者に対して行う場合)とされているが、これらは例示である。

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