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ネタと話題 [ Story and Topics ]

戸田覚が東芝の杭州工場を見学。

事業再生が見えた3つの理由とは

 

東芝情報機器杭州社は、中国の杭州にある。上海から新幹線で1時間程度の立地だ。

[2016.08.12]

東芝がPC事業を再編し、東芝クライアントソリューションへと引き継ぐことになった。さらに、製造を東芝情報機器杭州社(以下、杭州工場)にシフトしたことは、すでに報道されているとおりだ。これまでもB2B製品は同工場で製造していたが、コンシューマー向けに一部で採用していたODM(外部生産委託)を廃止し、すべて自社工場で製造することになった。
PCは、ビジネスユースで4~5年、個人向けでは6~7年は利用するだけに、末長く安心して使えることが大切だ。安くてもスグに壊れてしまうようでは、仕事が止まり、かえって高いモノにつきかねない。「安心して長く使えるPCを提供する」という新生ダイナブックは、どんなポリシーで作られているのだろうか?
今回は、杭州工場を見学する機会を得たので、特別寄稿として紹介していこう。東芝のパソコン事業を再生するために重要な鍵を握る杭州工場だが、現地では3つのポイントに注目した。

不良率を下げてコストを下げる

工場をまとめる中原泰社長(総経理)

 

とにかく、東芝はまじめなメーカーだと僕は思っている。それは製品にも表れていて、派手さはない代わりに質実剛健だ。目立つスペックより使い込んで感心する作り込みに注力してきた。僕にとっては、こんなまじめさこそが東芝のDNAだと感じている。
杭州工場を取材して、まじめさを再認識した。例えば、製造コストを下げるためには色々な方法があるだろう。大量に生産したり、自動化を進めることも有効だ。もちろん、杭州工場はそこも狙っているのだが、現地を見て特に感じたのが細かなコストセーブをコツコツと積み上げていくことだ。
例えば、プリント基板の製造ラインのコストダウンについて紹介していこう。「予算も限られるので」(中原総経理)という同社だけに、最新の機械をバンバン入れることはできない。他社よりも少し長く使う必要があるのだ。そこで、製造機器のメンテナンスを社内で補えるようにしている。社外に頼むと時間と費用がかさむ。ラインが止まっているときには、メンテナンスができるメンバーがすべてバラして整備しているという。
製造の不良率を下げることが、実はコストと時間の節約には最も効果的だ。例えば、部品は製造前にすべて数をチェックしておき、過不足がないことを確認する。とても当たり前のことだが、こんな地道な努力の積み重ねが、結果として大きな時間短縮につながるのだ。プリント基板の製造にかかっていた時間は当初2日だったが、それを3時間に縮めた。また、B2B向けの小ロットの生産では、製造の段取りにかかる時間を半分にし、どちらも同時に品質が向上している。
不良率が少なければ、検査に要する時間が短くなり、また、不良の発生によってラインが止まることも減る。大量に作って一定の割合で発生する不良品を廃棄するようなやり方の真逆のコンセプトは、確かに東芝らしいまじめさだ。

プリント基板の製造時間を短縮するための施策。こういった説明が工場内の至るところに貼られている。

プリント基板を製造するライン。

米粒の数分の1の小さな部品は機械が基板上に載せていく。最後に熱を加えてハンダで付ける。

技術を極める“全能工”の育成

一人で組み立てるライン。全能工の方が担当して製造している。

 

B2B向けのPCは、発注ごとに仕様が異なる。しかも、オーダーのロットは決して多くなく、数台というケースも当たり前のようにある。そこで、考えたのが少人数による生産だ。
僕は他のPC工場を見学したこともあるが、ほとんどが、流れ作業でラインを動かしていた。例えば一部のロットでハードディスクの容量が違うケースでも、大きなラインを利用して製造し、モデルごとに組み込むパーツを変えていた。
ところが杭州工場では、最小で1名という少人数生産を実現している。つまり、1人で数台のPCを作る小さなラインを使えるわけだ。少し台数が増えてくると3名、4名とラインの人数を増やすことで、効率よく製造している。
ここで問題になるのが、技術者の育成だ。他の工場では流れ作業が主なので、ある人はハードディスクの取り付けを延々と行い、別の人は液晶パネルの組み込みを担当――といった具合に、作業が分担され、それぞれのスペシャリストを目指す。しかし、杭州工場では一人ですべての作業ができるところを目指している。前者が単能工で、さまざまな作業ができると多能工と呼ばれる。杭州工場では、すべての作業ができる“全能工”を育てていく目標だ。
ある程度のキャリアを積んで適性のある人を選び抜き、全能工として育成する。もちろん、全能工になれば、所得も上がる。だが、本人が希望しても、適性がなければ目指すことはできない。とても厳しいが、一人がPC1台を丸ごと作るのだから、これは当然のことだろう。
ひたすら同じ作業の繰り返しにならないことは、従業員のモチベーションアップにもつながり、また、「私はダイナブックを作っている」という意識を持つことにもつながる。

こちらはコンシューマー向けモデルを大量に生産するライン。多人数での流れ作業になる。生産台数等に応じて、ラインを自由に組み替えられるのが強みだ。

文化を理解してモチベーションを向上

工場内の各所に優秀従業員が掲示されている。日本の工場ではなかなか見ない光景だ。

 

同社が杭州に工場を設立したのは2002年と古い。税制の優遇やPCパーツのメーカーが近くにあるなど、さまざまな理由で進出した。総2階建ての工場は、縦100m、横230mと巨大で、延べ床面積は東京ドームに匹敵する。そこに、1,600名ほどの従業員が勤務しており、今では製造メンバーは100%現地採用。管理職も7割以上、GM職でも2割強が中国人メンバーだ。
機械化が進んだPCの製造工場でも、製造者の技術やモチベーションが効率を大きく左右する。僕が見て感心したのは、現地の文化を徹底的に理解し、働く人たちのやる気を伸ばすために尽力していることだ。
社内には至る所に横断幕が貼られているが、これは「中国の方が好きだから」(中原総経理)とのこと。さらに、前出の全能工を始めとする、さまざまな評価シートも各所に貼られている。優秀従業員の表彰も目立つ。日本人は他人と比較されるのはあまり好まないが、中国の人たちは、評価軸が明確なら競争を好むという文化を理解した施策だ。
さらに、雇用確保のために近隣の学校群・専門学校とタイアップして“東芝クラス”を作り、入社前に会社の情報を理解してもらうように努める。また、入社したての18歳の社員がホームシックにかからないように、メンター制度を採用している。
 「過分の給与は払えませんから、優秀な人をお金でつなぎ止めるのは無理です。当工場で働くことのやりがいや、自己成長を糧に雇用を維持しています。例えば、全能工は離職率がゼロに近いところまで来ています」(中原総経理)
 

横断幕もとても多い。

全東芝で実施されるハンダ付けの技能コンテストにも積極的に参加し、技術を磨いている。

コストダウン競争に負けない製品作りを目指す

製造に関するインタビューにお答えいただいた杭州工場のメンバー。右から2人目が設計センターGMの辻浩之氏だ。

 

そもそもODMは、安価な製品を実現する方策としてPC業界では広く採用されてきた。だが、僕に言わせればブランドを切り売りしているに過ぎない。自社のブランドを付けて、他社に製造させてどこまで魅力的な製品が作れるかは疑問が残る。まあ、現時点ではそれで成功している企業も少なくないが。
東芝は、PC事業の再編に伴い、全製品自社製を強く打ち出した。同時にコンシューマー向け製品に2年保証を付けている。「そこは議論がありましたが、自社製品に責任を持つという強い意志の表れです」(設計センター辻GM)
ODMでは価格競争が加速していく。しかも、ODMメーカーが自分で売り始めた昨今では、さらにコスト競争が厳しくなる一方だ。東芝クライアントソリューションでは、自社製造によりODMに負けないコスト感を実現しながら、安心して長く使える製品作りを目指しているという。
 「例えば、PC底面のネジの位置を渦巻き状に配置しています。自然な流れで順次止めていけば、一定の力がむらなくかかり品質が向上します。とてもシンプルなことですが、自社で製造することによって、設計と製造が密接になって、不良率を下げ、結果としてコストを抑えられるのです」(設計センター辻GM)
なるほど。東芝のPC事業が再生する鍵がここにある。同社はPCを作る“人”による差別化で、価格競争にも打ち勝とうとしているのだ。杭州工場で製造している人たちに触れ、彼らの熱意が十分に感じられた。PCの売れ行きが芳しくない昨今だが、ダイナブックの行く末は明るそうだ。

東芝情報機器杭州社は、中国の杭州にある。上海から新幹線で1時間程度の立地だ。

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