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ICカードを活用した住民生活支援のサービスを展開 〜奈良県葛城市の新時代葛城クリエーション推進事業〜 【IT NEWS of Local Government】

大阪市や大和高田市のベッドタウンの顔を持つ奈良県葛城市では、ICカードを活用した高齢者の健康・生活支援、公民館を活用した「おたがいさまサポートハウス」の開設などによって、行政負担を増やすことなく高齢者の生活支援などの課題を解決するサービスの提供体制を整えている。2013年にスタートした新時代葛城クリエーション推進事業の、その後の取り組みと現状を紹介する。

 

[2016.04.26]

市や産官学連携グループが共同で
新時代の市民サービスを構築


 葛城市は、2004年に新庄町と當麻町が合併した人口3万7,000人の町。合併当時、65歳以上の比率を示す高齢化率は14%だったが、着実に高齢化が進み、現在は25.1%。町の半分を占める山間部の高齢化率は34%だ。山間部の子どもたちが市の中心地や市外に移り住み、必然的に高齢者が増加した。


 葛城市 企画部 部長の米井英規氏は、住民サービスの向上やコストなどの課題について次のように話した。
 「山間部の住民の方からは、買い物が不便、健康に不安があるという声を多く聞くようになりました。一方、葛城市では市の職員が高齢者のお宅を訪問して様子を伺ったり、買い物の手伝いをしたりする『お宅訪問』という事業を行っていましたが、コストがかかり過ぎるために継続が困難となっていました」


 市民と行政が協働で町づくりを進める方法を模索していた葛城市は、2012年、民間企業により、ITを駆使して地域コミュニティの活性化ができないかを一般で公募した。そしてシャープなどの民間9社と共同で「葛城クリエーション研究会」を設立した。2013年4月、総務省のICT街づくり推進事業があり、事業内容を検討、研究会で協議した新時代の市民サービスを具現化するために市や産官学連携グループが共同提案し、採用されたのが「新時代葛城クリエーション推進事業」だった。


ICカードの活用で健康・買い物を支援
市民ボランティアが活動を支える


 新時代葛城クリエーション推進事業は、ICカードを活用して住民の生活を支援して地域コミュニティの再生を目指すもの。いずれ稼働するマイナンバー制度とも連携する住民サービスの一つとして考えられていた。公民館など2カ所の公共施設でNFC(FeliCa)規格のICカードを使用して、健康支援や買い物支援などのサービスが受けられるようにし、共助の場としての「おたがいさまサポートハウス」を開設。市民ボランティアが運営を支援する。具体的には、次のような内容となっている。


・サテライト市役所
 市内の交通機関の不便なコミュニティ施設2カ所(寺口ふれあい集会所、ゆうあいステーション)をサテライトオフィス「おたがいさまサポートハウス」とした。1枚のICカードで健康支援や買い物支援など生活支援サービスが利用できるプラットフォームの「かつらぎネット」を構築。備え付けのタブレット端末にICカードをかざすと、かつらぎネットの個人ポータル画面に自動的にログインでき、画面上に表示される各種サービスが利用できるようにした。


・健康支援サービス
 高齢者に活動量計を配布して、体重、身長、血圧、体脂肪量などを取得。インターネットを通じて専用のサーバーで健康管理データを蓄積保存する。このデータに基づいて健康診断を受けたり、健康状態に最適な健康レシピを受けたりして健康状態の把握や健康改善が可能となる。


・買い物支援サービス
 高齢者や子育て世代など、日常的に買い物が不自由な世帯を対象に、インターネットを通じて買い物支援を行う。おたがいさまサポートハウスに備えられた専用タブレットとICカードを利用して、近隣の店舗の買い物メニューの中から商品を選択して発注できる。


・市民ボランティアが運営を支援
 市民が地域の人々の手助けをする「市民コンシェルジュ」を育成し、おたがいさまサポートハウスでサービスを受ける市民のICT利用を支援する仕組みもつくった。ICカードやタブレット端末の操作に不慣れな高齢者のデータ登録や操作画面の支援を行うものだ。


・かつらぎテレビとICT防災訓練
 インターネット放送局「かつらぎテレビ」を開設し、市民情報特派員がSNSなどを通じて地域レポートを行えるようにした。2014年3月には、国土交通省、奈良県、近隣の自治体などと一緒に震度6弱を想定した防災訓練も行った。


“出かけていく”から“来てもらう”へ
高齢者の外出を促して市の負担も軽減


 従来はお宅訪問という市側から出かけていく方法だったが、おたがいさまサポートハウスによって高齢者に出てきてもらうシステムができた。高齢者の外出を促しつつ、市の負担も減らすという一石二鳥の成果を上げた。


 「3カ月間の実証実験の期間に、延べ753名が健康支援サービスを利用し、そのうちの79名が買い物支援サービスを利用して商品を購入しました。健康支援では、日々のデータを記録・管理できるので、生活習慣病の予防に役立つと好評でした。葛城市には団塊の世代で会社勤めを終えた方が多く居住しており、この人々が若者世代と積極的に協力しあって市民ボランティアとして活躍したことも大きな成果でした」と米井氏。


 そして、①事業内容について市民の認知度を上げ、地域サービスとして確立させること。②事業を拡大するために市民ボランティアが不足しているので、有償化を含めて持続可能な活動を行っていくための環境を整備すること。③マイナンバーカードの活用に関わる論議を重ねていくこと、などが今後の課題として挙げられた。


地味だが着実に利用者は増加
マイナンバーカードとの連携が課題


 実証事業を終えて3年、その後の状況を米井氏に聞いた。


 「サービスの拠点を増やすことが第一の課題でしたが、現在は1カ所増えて3カ所になっています。ただ、拠点を固定化してしまうと市民の方がそこに行かなければならず、利便性が高いとは言えません。そこで、移動サービスカーを巡回させて各種サービスが提供できるようにクルマを発注しています。利用者の数は、健康支援は着実に伸びていますが、買い物支援は横ばい状態です。ネットスーパーを通じて受注したものを配達しているのですが、生ものの場合、留守だと運送業者が持って帰らなければならないこともあって配達料にはね返ったりします。現在、従来の店舗、配達業者以外のものを再検討しています」


 市民ボランティアは、社会福祉協議会の中に窓口を移し、引き続き支援を継続している。有償化は実現していないが、地域のポイント制などによる還元方法を検討している。地味ではあるが、着々と進展しているようだ。


 「マイナンバーカードとの連携については、2016年4月から図書カードと組み合わせることで利用促進を進めています」(米井氏)マイナンバーカードの普及は、住民が使いたいと思う魅力的なサービスがなければ難しいだろう。行政と市民、企業が一体となったサービスが注目され、市民に広く利用されるようになるには、もう少し時間がかかるのかもしれない。

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